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感謝 2


「爺、爺はいつも私に冷静さを思い出させてくれる。

幼い頃から物事を真正面から見つめる強さを教えてくれた。

もし今の私がただの夢見がちなお嬢様だったら、きっととっくにココが壊れちゃってたわ。」

心臓に手をあてる。

ずっと昔、遠くからカナタがお父様とお母様に手を引かれて並んでいるのを見たことがある。

その時の私は夢を見ていた。

もしかしたら、私も、あの幸せそうな場所へ行けるのかしら。

仲良く並んで笑い合って。

駆け出しそうな私を爺が静かに引き止めた。

「お嬢様、お嬢様には酷なことを言うようですが、諦めなさい。」

「爺、でも」

「今は、という意味です。誤解なさぬように。」

「どういう意味?」

「現状はすぐにはどう足掻いて目をそらしても変わらぬもの。

辛いことや苦しいことばかりだと今は思うかもしれません。

だけどお嬢様の努力次第で変わる未来もあるかもしれません。」

「そうかしら。」

「未来のことは誰にもわかりませんが、何もせずにただ未来を待つよりは良いでしょう。」

「そうね。ダメでもともとだわ。」

右手にそっと暖かい手が触れる。

「今はこの爺の手で我慢してください。」

あの日のあたたかな手の温もりを、今も私は忘れることができない。




「ナターシア、あなたは私にとって母親以上の人。

あなたがいなければ私はきっとここにはいない。」

いつだって隣にはあなたがいてくれた。

悲しい時も嬉しい時も、ずっと。

まだメイもアリスも爺もいなかった頃からずっとずっと前から。


生まれて暫くたち、なんとなくだが周りからは冷遇され始めてきた頃。

ナターシア以外の使用人からは面倒を見てもらえずほぼ放置状態。

そんなある日、とんでもなく発熱したことがある。

死ぬかと思った。

ただただ苦しくて泣くことしか出来なかった。

疲れて、あーもうダメかもなぁ。とぐったりと諦めかけた時、ナターシアだけが私の異変に気付いてくれた。

ナターシアが気付いてくれなければ、きっと死んでた。

ナターシアが医者を呼び、たった一人で夜通し看病してくれた。

お母様もお父様も何もしてくれなかった。

「お嬢様、死なないで。」

「私が身代わりになって差し上げれたらいいのに。」

そんな言葉ばかりが聞こえた。

ああ、私、まだ、生きていてもいいのかな。

この人がこんなに望むなら、生きたい。

この人が私のせいで泣くのは嫌だな。

そんなことを熱にうなされながらも考えていた。

翌日、医者が来て再診された。

「もう大丈夫でしょう。峠は越えられたようです。

あともう少し遅ければ危ないところでした。」

「ああ、良かった。本当に良かった。」

お嬢様が無事で本当に良かった、とあんまりにも綺麗に笑うものだから

私は言葉もまだ言えないのが歯がゆかった。

言葉を伝える術があれば、すぐにでもお礼を言いたかった。

「ありがとう」って。

たくさんの「ありがとう」ばかりが増えてゆく。



「本当にありがとう。これからも、よろしくね。」


これからもたくさんの「ありがとう」が増えて、私はそのたびに感謝するだろう。

目の前の愛する家族以上の4人に。















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