人間の事が大好きな神様
あるところに、人間の事が大好きな神様がいました。
神様は、大きな力を持っていませんでしたが、人間の事がとても好きだったので、人間が健やかであるように、見守り、慈しんでいました。
ある時、その神様の元に、一人の人間がやってきました。
その人間は、自分自身が嫌いで嫌いでしょうがなかったそうです。
神様は言いました。
「それでも、私は君の事が大好きだよ」と。
人間は、言いました。
「神よ、ならばあなたのような、心と身体を私に下さい」と。
神様は困ってしまいました。
大好きな人間の願いを叶えて上げたいと思っているのに、人間の望む物を与えるような力を持っていなかったのです。
そこで神様は、ある事を思い付きます。
自分の手を、足を、体を、心を、この人間にそのままあげてしまえば、望みを叶える事ができるではありませんか。
神様は、大好きな人間のために、迷う事なく自分を差し出しました。
こうして人間は、神のように強靭な手足と、病を恐れない丈夫な体と、神秘的で美しい外見を手に入れる事ができました。
嫌いだった自分に別れを告げる事ができた人間は、大層喜びましたが、しばらくしてから、ある事に気が付いてしまいました。
それは、自分の事を大好きだと言ってくれた存在を、失ってしまったという事です。
人間は、心と身体を神様に返す事にしました。
神様は、人間にあげたはずの心と身体が返ってきた事を、とても不思議に思いましたが、それから何年も経ったある日、ある人間の姿を見付けて納得をしました。
そこには、あの時の人間が、自分の子供を見守り慈しんでいる姿があったのです。
それを見た神様は、人間の事が、また一つ好きになりました。