幼女と老紳士の1日戦争
活動報告の方に詳しく書きましたが、このたび拙作のタイトルを変えることになりました。
読者の皆さま、混乱させて申し訳ございません。
どうぞこれからも宜しくお願い申し上げます。
マサトが街道をひた走っているその頃。
現実世界は東京の、歓楽街の片隅にあるとあるバー。
このオーセンティックな雰囲気が漂うバーの店内では、総白髪の老紳士と、金色の髪を二つ結びにした幼い少女が、こんな会話を交わしていた。
◇◇◇
「レティア様、先日の件で、お耳に入れたい儀が。」
こう切り出したのは、総白髪の紳士。
「あのさぁ、じい。じいが変態だってのは知ってるけどさぁ...。さすがに耳に入れるってどうよ?我、これでも一応神ぞ?女神ぞ?」
話しかけられた幼女は、その姿には似つかわしくない言葉遣いで言葉を続ける。
「天罰いっちゃう?いっちゃおうかなー?」
「レティア様、私が変態であることは否定いたしませんが、聞き間違いにございます。お耳に入れたい話があるのです。棒はその後で結構ですので。もちろん、天罰の方も後ほど喜んでお受けいたしますが。」
この老紳士、見た目にそぐわず変態であるようで。
「はぁ。はいはい、それで?なにかな。」
いつも同じようなやり取りをしているのか、幼女は手馴れた様子で話を進める。
「先日、例の異世界に送った青年の件なのですが...。レティア様、どうやら転送座標をお間違いになったようですな。」
「え?」
老紳士のその言葉を予想もしていなかったのか、幼女は目を丸くしているが、それに構わず話を続ける老紳士。
「転移者を所望されていた向こうの世界の神から、クレームが入っております。」
「向こうって...ミティスのとこ?」
「左様にございます。」
幼女は、あちゃぁと呟いて、その濃い金色の目を手で覆った。しばらく考え込んだのち、幼女はこう尋ねた。
「うーんと、先日の青年って、誰だっけ?」
老紳士は、一つため息をついてからこう告げる。
「この間の金曜日にいらした、終始挙動不審だった、サラリーマン風の者にございます。ほら、レティア様がそのお姿を悪用なされて、幼女のふりをして異世界にお送りになった、あの青年です。」
「悪用って言うな。有効活用だってば。っていうかフリってなんだいフリって。正真正銘の幼女ぞ?幼女神ぞ?」
テンプレぞ、属性盛りまくりぞ、と老紳士に詰め寄っているこの幼女、どうやら見た目通りの年齢ではないようで。
「ご安心ください、レティア様。幼女も熟女も、じいの守備範囲内でございます。」
対する老紳士も、見た目通りの紳士ではない様子。性癖的な意味で。
「今は、じいの広すぎるストライクゾーンなんてどうだっていいんだってばぁ。...それにしても、あれか。あの青年かぁ。あの時はお酒入ってたしねぇ。それでちょっと変なテンションだったし。」
「強くもないのに、お酒などお召し上がりになるからです。」
「なーに言ってんのさ。ここは飲み屋だよ?飲み屋で酒を飲む、自然なことじゃないか。」
「レティア様、酒場に神がおられるという事態は、不自然ではないかと。昔の民の言葉にもこうあります。神は天にいまし、すべて世はこともなし、と。」
「店にいるじゃん。」
老紳士の発言を聞いた幼女は、わが意を得たりとばかりにニヤリと笑って、平らな胸を張りつつ、その雪のように白い指を床に向けてそう言った。
「店ではございません。天、です。」
とぼける幼女に対し、老紳士は、その手で空を指して告げる。それを聞いた幼女はというと、今度は背中を丸め、顔をしかめてこう続ける。
「天になんかいるわけないじゃん。あんなつまんないところ、とっくの昔に飛び出してきたよ。」
「存じております。ですから、酒場に神がおわすという非常識な状況であるわけでして。」
「あーあー、聞こえないよー。そんなことはどうでもいいの。今考えるべきは、件の青年のことさ。」
そう言うと、その名乗るところによれば幼女神たる幼女は、腕を組んでうんうんと唸りだす。
「今更場所を変えようにもねぇ。彼はもう、あっちにいるわけだし。」
うんうんと唸り続ける幼女に対し、このままでは話が進まないとばかりに、老紳士が助言を出した。
「レティア様。彼に働きかけるのではなく、とりあえず、向こうの世界の民にお告げを下されるのはいかがでしょうか。ミティス様にお願いする必要はございますが。」
「そうだよねぇ...。気は進まないけど、そうしてみよっか。ミティスなら、彼が向こうのどの辺りにいるかもわかってるんでしょ?その近くの国の国王にでもさ、ちゃちゃっと神託を下してもらって。彼には...そうだな。後ほど我が直接夢枕にでも立つとしよう。」
ミティスのやつ怒るだろうな、激おこぞ、などとボヤく幼女。それを聞いた老紳士は、その細めていた目をあらん限りに見開くと、幼女に向かって鼻息も荒くこう懇願する。
「レティア様。どうか、どうかお叱りを受けるそのお役目は、このじいめにお任せを!」
それを目にした幼女は。
「じい。」
老紳士とは真逆に、その形の良い目を細めつつ。
「天罰ぞ?」
その手を振りかざしながら、そう言った。
◇◇◇
その日、東京では、突然季節外れの大雪が降り、街中が大混乱に陥ったという。
それが、とある幼女神によるものであることなど、ましてや、とある老紳士の性癖によるものであることなどは、誰も知らないままであった。
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