宿場町より愛を込めて
久々の更新となりました!
お待たせしてしまい、誠に申し訳ございません。
お読みいただけますと幸いです。
宿場町トスカノ。
王都から南へと旅立った人々が、最初に訪れることになる宿場町。
寒い冬に備えてか石造りの建物が多い街だが、1番目立つのは街の中心にある女神ミティスの像だろう。
王都から旅立つ者は旅の安全を。王都を目指してきた者はここまで旅の無事を。様々な人々が思いを込めて祈りを捧げている。
おれたちの一行が城を旅立ってから、早一週間が過ぎようとしていた。
歩きながらもレーナ先生から魔法の授業を受けたり、偶にジョシュア教官との鍛錬もしながら。道中で出てきた魔物と戦うこともあった。ジョシュア教官の方針で、相変わらずの素手ではあったけれど。
そうして南下を続けることしばらく、おれたちは旅に出てから初めて宿場町に足を踏み入れることができたのである。
「さすがは宿場町、活気がすごいですね!」
商人たちの馬車や旅人風の装いの人々が行き交い、露天や宿屋の呼び込みの声が絶えない大通りの様子に、思わずテンションが上がってしまう。
「王都に近いこともあって、ここを訪れる人も多いですからな。この賑わいも当然でしょう。」
騎士としての職業柄なのか、人々の笑顔の絶えない様子に嬉しそうにそう答えたのはジョシュア教官。旅の間、暇さえあれば筋トレをしていたせいか、若干、いやかなり汗臭い。ちょっと離れて歩いてほしい。
「ここには南方からの特産品もたくさん集まってくるのです!なにか珍しいものが売っているかもしれないのですよ!」
道行く人々に遮られて露天や屋台の様子がよく見えないからか、先ほどからぴょんぴょんと跳び跳ねているのはレーナ先生。かわいい。道中で湯浴みができなかったのはレーナ先生も同じなのだが、なぜだろう、筋肉バカのような嫌な臭いは全くしない。
いくら女性とはいえ、さすがに1週間近くお風呂に入れないとなれば多少は臭いそうなものだが、魔法かなにかで誤魔化してるのだろうか。我々としては臭ってくれても構わないのだが。
構わないというか、むしろ匂わせてほしいのだが。くんかくんかしたいのだが。
「マサト様?どうしたのです?なにかあったのです?」
おっと危ない危ない。良からぬことを考えているとバレるところだった。
「いえ、特に何もありませんよ。さあ、まずは宿を探しましょうか。」
「そうですな、まずは旅の垢を落としてすっきりしましょうぞ!我が筋肉も輝きを増すことでしょう!」
「そんなもの輝かなくていいのです!私の魔法で黒焦げにしてやるのです!」
あいも変わらずぎゃーすかと言い合う先生方である。こいつら本当に飽きないな、と。そうして旅の間にも散々交わされたやりとりを繰り返す二人を引き連れ、今晩の宿を取るべく大通りを進んでいくと、横合いからついついと袖を掴まれた。
「お兄さん、お兄さん。もしかしてお宿をお探しですか?」
ふと横を見れば、そこにいたのはおさげのかわいい女の子。元の世界であれば女子高生くらいだろうか、ニコニコと微笑みながらこっちを見つめている。
女子高生。
女子高生きたぞおい。
元の世界では電車で見かける程度の関わりしか持てなかった女子高生。
「え、なにあのキモい生物。年収低そうなんですけどマジウケる」くらいの目つきでしか見られることのなかった女子高生。
その女子高生くらいの年齢の女の子が、こちらに微笑みかけているのだ。あー、しちゃったな。これはもう恋しちゃったな。多分じゃないし気づきまくっているけれども。
微笑みだけでも凄まじい破壊力だというのに、こちらの袖をついついと引っ張るその仕草よ。個人的にはセーターの袖からちょっとだけ指先を出すのと同じレベルで好きな仕草である。
あざといなさすがJKあざとい。
これはもう、今晩の宿は決まったようなものだ。このパターンは、この子はとある宿屋の一人娘で、そんなに裕福ではないけど働き者で家のお手伝いをしていて、外に呼び込みに出たところでたまたま旅装束のおれたちに目をつけたという、そういうパターンだろう。
ちょっといかつ目の無口な親父さんととびきり美人のお母さんが付いてくるところまでセットだな。某ファストフードのセットメニューにかけて、おれは異世界バリューセットと呼んでいる。
「お兄さんたち旅人さんですよね?今晩のお宿がお決まりでないのなら、ウチなんてどうでしょう?お安くしときますよ!」
「はい!まさに今探していたところなんですよ!是非お願いします!!」
もう即答である。
証券会社の営業が、顧客の言葉に「おっしゃるとおりです!」と返す時ばりの速さである。あいつら客と会話してるとき8割がたは「おっしゃるとおりです」しか言わないからな。
「やった!!じゃあ早速お連れしますね!」
そう言っておれの袖を引いてずいずいと歩き出すJKもとい暫定宿屋の娘さん。
「ジョシュア教官!レーナ先生!宿が決まったんで行きますよ!」
そうやっておれの後ろで恒例のぎゃーすかを繰り広げていた先生方に声をかけつつ、おれたち一行は本日の宿へと向けて歩き出したのだった。
恋しちゃったんだ〜多分〜気づいてなぁいでしょう〜♪(音程外れまくり)