勇者と呪われた装備
ふとアクセス数を見てみたところ、昨日のPVが拙作らしからぬ数字になってました・・・!
あ、あの、読む小説間違ってないですよね・・・?(震え声)
お読みいただけますと幸いです。
王都を旅立ってから2日目の昼。
空は澄み渡り、太陽が燦々と輝いている。天高く馬肥ゆる秋とはこんな陽気を指すのだろうな。
秋じゃないけど。
秋じゃないどころか、ようやく雪解けを迎えたばかりだけれど。
冬が過ぎたとはいえ、街道を少し離れると、まだまだ雪が積もっているけれど。
昨日だって、レーナ先生が魔法で雪を溶かし、ジョシュア教官がフンフンと腹筋をし、レーナ先生が魔法で周囲を温める結界を張り、ジョシュア教官がフンフンと背筋をし、それでようやく野営ができる状態になったのだ。
綺麗な筋肉だろ?あいつ働いてないんだぜ?
まあ、奴の身体から立ち上る湯気で、少しは雪が融けてはいたけれど。やはり、持つべきものはむさい男教官よりかわいいロリ先生である。
おれも火属性に適性があるし、レーナ先生の魔法は非常に興味深いものだった。
あの魔法が使えれば1人でも大丈夫だな、次からはお荷物は排除できるなと期待して教えを請うたのだけれど、レーナ先生曰く、「マサト様の魔力量では一晩中結界を張るのは無理なのです!眠ったら起きれないのですぅ!」とのことであった。異世界に来てからというもの、凍死って言葉がすごく身近になった気がする。
どうやらこの呪われた装備たちを外せるようになるのはまだ先のことらしい。
呪われた装備を持って旅立つ勇者なんて、異世界多しといえどおれくらいだろう。
元の世界では、RPGをやりながら、「ひの◯の棒と100Gだけで魔王倒せとか、この王様舐めてんの?ストるよ?ストライキしちゃうよ?」とか思っていたけれど、いざ異世界に来てみれば、渡されたのは呪われた装備×2だけ。ひ◯きの棒なんて贅沢品は支給されていない。
伝説の武器とまでは言わないけれど、勇者様とかおだてるくらいならはが◯の剣くらい寄越せよな。せめて棍棒くらいはなんとか用意してほしかった。
一応棒は自前のがあるけれど、この棒は突き専用なのだ。戦闘用と言えなくもないけれど、どちらかといえば遊興用というか、洞窟を掘り進む用というか、夜戦用というか。
まだ未使用だけどな!
まあ、おれだっていつまでも魔法使いでいるつもりはない。途中の街とかで一度くらい実戦経験を積んでおきたいと思っている。出張の夜といえば、風の俗に赴くのが由緒正しき男の在り方だと幼馴染の山本からも教えられたものだ。あいつ元気にしてるだろうか。
まあさすがに路銀《交通費》は国《会社》持ちだし、多少は我慢するけれどさ。魔物討伐が終わったら絶対賃上げ交渉してやるわ。
今日は朝早く野営地店を発ち、相変わらず喧嘩の絶えないレーナとジョシュアを宥めつつ、えっさほいさと街道を南下し続けている。徒歩で。
宰相さんには馬車を用意してくれと頼んだはずなのだが、「今後のことを考えて、徒歩での遠征に慣れておくべきですぞ」とあっさり却下されたのだ。
ここ数ヶ月はジョシュア教官にみっちりしごかれたとはいえ、さすがにひたすら歩くというのは足にくる。
「レーナ先生、ジョシュア教官!ここらで一休み入れましょうよ。そろそろお昼時じゃないですか?」
ここらで休んでおかないと、今後バテてしまうからな。初っ端から飛ばしすぎて失敗するなど、それは新卒のやることである。盗賊団からの転職とはいえ、こちとら一応中途採用者なのだ。
「ふむ。確かにちょうどいい頃合いですな。お昼の準備でもしましょうか。」
そういってジョシュア教官は背負っていたカバンを地面に下ろし、ふんふんと伸びの代わりにポージングを決めていく。突っ込まない、おれは突っ込まないぞ。こいつの筋肉ネタにはもう飽き飽きなのだ。
「まったく、少しは大人しくできないのです?せめて薪拾いくらいしてほしいのです。」
レーナ先生もいい加減うんざりしてきたのだろう。少し離れた場所からジョシュアにジト目を向けている。
「それじゃレーナ先生は魔法で雪をどかしちゃってください。私は昼ご飯の準備をしますよ。」
「マサト様は料理もできるのですか!さすがは勇者様なのです!」
「いやいや、元いたところでは一人暮らしでしたからね。料理なんてお手の物ですよ。」
実家にいた頃から料理は好きだったしな。ちゃっちゃと終わらせてしまおう。
カバンの中から芋と塩、それから道中で狩った鳥のような生き物を取り出し、腰に吊り下げておいたナイフを使って調理を始める。
まずは芋からだな。見た目はジャガイモそっくりなこれは、トリネ芋というらしい。煮込み料理によく使われるところも同じである。違いは、若干粘りがあるということくらいだ。そういう意味では里芋にも似ているといえるだろう。
粘りとはいってもそこまで強くはないので、ナイフがベトベトになるということもない。むしろ刃の通りが良くて、するすると皮を剥くことができる。皮を剥いたら一口大に切り分けていく。肉じゃがを作るときと同じ要領だ。
肉じゃがといえば、あれって何故か料理のできる女子の定番みたいな扱いを受けている料理のひとつで。実際には、具材を切って炒める、水を入れて煮込む、砂糖と醤油と出汁で味付けをする、くらいしかやることはないのだ。
それらの工程に料理の基礎があるのだと言われるとそこまでなのだけれど、「あたしって料理上手でしょ」と得意顔で差し出されると、正直腑に落ちないところがある。
だが、それを面と向かって女子に指摘するようなやつは、いつまで経っても魔法使いを卒業することはできない。
ソースはおれ。
大学のサークルで花見にいこうというイベントがあった際、肉じゃがを作ってきた女子に向かって先ほどの所感を伝えたところ、虫を見るような目で見られたことがある。それはそれは冷たい目であった。しかし残念ながら、我々の業界においてはそれすらもご褒美である。心のアルバムにしっかり保存させていただいる。
対してサークルでも上位のイケメン君などは、「君の旦那さんになる男は幸せ者だね」などとイケメンスマイルを炸裂させていた。肉じゃが女子ちゃんの目もハートマークだったな。リア充爆発しろ。
そんなことを考えつつ、お次は鳥のような生き物を捌いていく。鳥のようなもの、と先ほどから言っているこれ、正式にはホロマ鳥というらしい。鳥とはいってもクチバシはない。どちらかといえばムササビに近い。ムササビに鳥の羽がついているといえばわかりやすいだろうか。一言で言えばキモい。
しかし見た目に反して味はそこそこ良いらしく、木のうろから出てきたこいつを見つけたジョシュアなんかは若干はしゃいでいたくらいだ。
どんな味なんだろうなと想像しつつ切り分けてく。そしてお次はホロマ鳥の骨で出汁をとる。旅の途中だし凝った料理は作れないけれど、一応出汁くらいは取らねばなるまい。旅の途中ということもあり、調味料が塩しかないのだ。水はレーナ先生の魔法があるし、これでも贅沢な旅である。
コトコトと30分ほど煮込んだら、骨を取り出してトリネ芋とホロマ鳥を投入。しばらく煮込んで仕上げに塩で味を整えたら完成だ。
「よーし、できたぞ。レーナ先生!ジョシュア教官!できましたよー!」
器に盛って、保存用のパンと共に先生方のところへ持っていく。レーナ先生は読書中だな。ジョシュア教官は・・・うん。言うまでもないだろう。強いて言うならフンフンしている。
「わあ!美味しそうな香りがするです!」
「ほぉ、これは旨そうでありますな!」
「はいはい、そういうのは食べてから、ってね。」
さあ食事といこうじゃないか。
まずはスープを一含み。・・・うん、結構いけるな。ジョシュアがはしゃぐだけはある。この鳥もどき、だいぶ良い味を出してるな。一応鳥ってつくくらいだから淡白なのかなと思っていたけれど、どちらかといえば牛に近いような気さえする。
「むふー、美味しいのですぅ。こういう料理が作れる男の人を旦那さんにしたいのですぅ!」
ほうほうレーナ先生にはなかなか好評であるようだ。ぐへへ、ならば今度はこっちが味見をさせてもらおうじゃないか。もちろん夜にな。
「うむ!これは美味ですな!特にこのホロマ鳥!我が肉体も喜びに震えておりますぞ!」
ジョシュア教官もしっかり気に入ってくれたようで。でも食べながら胸の筋肉をピクピク動かすのはやめろ。というかいつの間に服を脱いだんだこいつ。
まあ、こうやって外で美味しいものを食べるって結構いいよな、と。呪われた装備こと愛すべき先生方とワイワイ食事をしながら、午後からも頑張って歩こうと決意を新たにするのだった。
料理の上手すぎる男子は自重しようね・・・!