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派遣社員は舞い降りた

お時間のあるときにでも、お目通しいただけましたら幸いです。

 目がさめると、そこは、雪国だった。


 ・・・いやマジで一面の雪化粧なんですけど。このスーツ夏物なんですけど。マジで凍死する5秒前なんですけど。


 ちょっと状況が飲み込めない。うん、整理してみよう。

 

 仕事が終わった。大人な雰囲気を味わうためにバーに行ってみた。幼女がいた。話しかけたら意識が飛んだ。目覚めると雪深い森の中にいた。


 うん、まったく分からないね。


 なんで幼女がバーにいるんだよ。


 なんでバーに幼女がいるんだよ。


 バー幼女ってなんだよ。ロリババアの親戚かよ。


 よし、混乱してるってことはわかったね。


 というかあの幼女は一体なんだったんだ。あれか。神的なサムシングなのか。いや言葉遣い的にそれはないと思いたい。神秘的な感じゼロだったし、バカとか言われたし。ふざけんな幼女。次あったらprprしてやるわ覚えとけよ。



 ・・・それにしても、本当に、ここはどこなんだろうなあ。



 おれが住んでたのは都内だし、職場も都内。そしてあのバーも都内だ。しかも、季節は夏。


 例えどれだけ酒に酔っていたとしても、あれから空港に行って飛行機に乗ったとも考えられない。

 

 そもそもチケットを買うお金なんてない。就活に失敗した派遣社員こと私、中山正人。そんなおれが貯金なんてしてるはずもなく。飛行機に乗れるだけのお金があったら、我が家にはブルーレイレコーダーが導入されているはずだ。


 そうなると、あの時あの幼女が言ってた「異世界に行ってくれる人」っていうのはマジだったのか。


 いや、でも。そうだとしてもだよ。


 そういうのって、普通、女神様に会ったりして、「元の世界には帰れます?・・・あっ無理ですかさいですか」的なやりとりとかして、「おれには家族もいない。思い残すことは・・・あぁ、幼馴染のカオリだけは、悲しむだろうな・・・」的な回想とかしちゃって、万障繰り合わせた上で転送される的なアレじゃないのか。


 おれ、女神様とか会ってないんですど。


 家族いないどころか、両親はもちろん祖父母も健在だし、正月には親戚合わせて30人以上は集まる感じなんですけど。


 幼馴染はいるけどカオリじゃなくて山本なんですけど。しかも女じゃなくて男なんですけど。


 そして深夜アニメの続きも気になりまくってるんですけど。大好きな作品の2期なんですけど。展開を楽しむため、我慢して原作も読まず、毎週リアルタイムで観続けてきたアニメが最終回一歩手前なんですけど。

 

 文字どおり万に差し障ってる感じなんですけど。


 おれの豊富なライトノベル文庫知識から考察するに、状況的には異世界召喚だとは思うのだけど、そうだとするとこのパターンは絶対よくないやつで。

 

 せっかくの異世界なのに、チートは貰えないどころか、血湧き肉躍る戦いとは無縁の、ただ女の子たちとドタバタ系の日常を送ってしまう感じのアレではないだろうか。


 散々イチャコラした挙句、結局は魔法使いを卒業できないパターンのやつではないだろうか。

 

 某週刊誌によくある連載作みたく、もはや正統な行為より高度なエロスを体験していながら、それでも愚息は文字どおり愚息だった的な、続きはwebでを永遠と繰り返すかのようなパターンの異世界召喚ではないだろうか。


 正直、それはそれで心が躍るものはある。


 特に、年の頃は二十歳を越え、魔法使いとしてのキャリアを着実に積み上げているおれにとってみれば。


 表面上は、「え?女性?別に興味ないでござるよ?」みたく装いながら、頭の中では毎日女体盛りのことしか考えていない拙者にとってみれば。


 取り急ぎ、ハーレム要員はどこにも見当たらないけども。


 ハーレム要因どころか、街も村も見当たらないけども。


 こういう展開のお約束であるところの、襲われそうな馬車も、襲ってきそうな魔物も、まったく見当たらないけども。というか、道すらなさそうだけども。

 

 けどもがゲシュタルト崩壊しそうだけども。


 あ、そうそう。前から気になっていたんだけど、「取り急ぎご連絡まで」の「ご連絡まで」の部分ってどういう意味なのか。個人的には割と気になっているところで。


 までってなんだよ。


「ご連絡まで(させていただきましたが急いでるからまたな)」ってことなのか。


「ご連絡まで(してやったんだから返事が明日の昼とかだったらマジ弊社ブチ切れだからそこんとこ貴社よろ)」ってことなのか。


 以前、先ほど名前だけは出した、おれの幼馴染であるところの山本にもこの話をしたことがある。


 中学・高校とラグビー部に所属し、ラグビー推薦で大学に入学し、大学を卒業するや社会人チームに所属することになった山本。


 世の中は気合と根性でできていると言って憚らない山本。


「先っちょだけでいいから!」を連呼し、デリバリーされてきた風の俗の嬢に店の者を呼ばれ、腐海へと誘われた山本。


そんな彼の答えは,「で?そんなんどうでもいいからこの後キャバクラ行かね?」であった。


 あぁ、これはもう彼は既に人ではない、人の皮を被った筋肉なんだなと感じさせられた一幕であった。


 まあ、山本の言うとおりどうでもいいんだけどね。いや、改めて考えると本っ当にどうでもよかったわ。そんなこと考えてる場合じゃない。まだ現状を受け止めきれてないな。


 そうは言っても、いつまでもここでじっとしているわけにもいかないし、どこか街とか村とか、最悪小屋でもいいや。探すことにしよう。ここに居続けても凍死するだけだ。


もう一度言うけど、このスーツ、夏物だし。


お読みいただきありがとうございます。

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