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勇者の休日-後編-

何日か前の活動報告にも記載しましたが、明日と明後日の更新はお休みとなります。ご了承ください。

 「ーーー様。」


 うーん・・・気持ちいい・・・。身体がふわふわと浮いているような、水面を漂っているような・・・。


 「ーート様!」


 ・・・ん?どこからか声が聞こえる気がする・・・。身体を揺さぶられている感じもするし・・・。あれ?そもそもおれは何をしてるんだ?確か、温室に入って、芝生の広がる場所を見つけて・・・。


 まあ、いいか。もうしばらくこうしてまどろんでいたい・・・。


 「マサト様、起きてくださいまし。」


 段々と意識が覚醒していくうち、誰かがおれを起こそうとして、耳元で名前を呼んでいるのが聞こえてきた。

 勇者の眠りを妨げるとは一体誰の仕業なんだ、午後の授業もお休みだし、もう少し寝かせていてほしいと思ったおれは、眠い目をこすりながら、横にいるのだろう人物に向かって話しかける。すると、


 「んー。もう少し寝かせておいて・・・ってレヴィさま!?」


 起き抜けのぼやけた視界が捉えたのは、まるで天使のような笑みを浮かべたレヴィさまだった。突然のことに驚くおれをよそに、レヴィさまは芝生に寝転がるおれの隣で、正座を少し崩したような格好でちょこんと座りながら、どこか楽しそうにこちらに笑いかけている。


 「ふふっ、驚かせてしまって申し訳ありませんでした。」


 久しぶりに会えてたレヴィさまだけれど、その可愛さは相変わらずである。可笑しそうに手を口元にやる仕草一つとっても、同じ人間とは思えない。あぁ、前にも思ったけれど、やはりこの人の犬になりたい。


 レヴィさま(ご主人様)のわんちゃんになって、「こらマサト様、顔を舐めたらメッ、ですよ」って宥められつつ「わふ?くぅ〜ん、きゅ〜ん」と惚けながら、そのお顔を余すところなくペロペロしたい。

 わざとじゃないですよたまたまですよと装いながら、あんなとこやこんなとこをペロペロして、「あっ・・・そこはダメですわ!おやめくださいまし・・・あっ」的な展開へと持ち込んでいきたい。わんわんだけどにゃんにゃんしたい。


 「マサト様?どうかなさいましたか?」


 おっと、ついつい妄想に浸っていたようだ。レヴィさまそっちのけでレヴィさまの妄想をするってどういう状況だよ。


 「な、なぜレヴィさまがこんなところに?」


 「なぜって、ここは私が管理しているからですわ。作ったのも私なのですよ?」


 なぜお姫様であるレヴィさまがここにいるのだろうと思って聞いたのだけれど、帰ってきた答えはさすがに予想外のものだった。

 いくら温室とは言え、外から見た限りではそこそこの大きさの建物だったはずだ。辺りを見回してみても、やはり広大な森と言ってもおかしくない光景が広がっている。


 「作ったって・・・レヴィさまがご自身で、ですか?」


 「はい、そうですわ。昔から森や植物が好きでしたし、運良く土・水・風の三属性の魔法に適性がありましたので。お父様にお願いしたら、ここなら城の裏手で場所も余っているから、と。」


 よほど好きなのだろう、周囲の木々や所々に咲いている花々を見つめるその目は、どこかキラキラと輝いているような気がする。というかレヴィさまは三属性持ちなのか。さらっと言われたけど結構すごいな。おれなんて火属性しか持っていないというのに。


 「あれ?火以外の三属性ということは、この温室はどうやって温めているのですか?」


 「暖魔石といって、周囲の空気を温める魔道具がありまして。使い捨てではありますが、直接火を出す道具ではないので、ここでも安心して使えるのです。今日もそれの交換に来たのですよ。」


 どうせなら火属性の適性もあれば良かったのですが、と。さっきまでとは打って変わって、むぅとむくれた表情を作るレヴィさま。その表情の愛らしさに、頬が赤くなるのを感じる。レヴィさま、ちょっと可愛すぎないだろうか。


 「そ、そういうことならおれがお手伝いします!火属性には適性があるみたいで、最近はレーナ先生の授業も受けてますからね!」


 右手をピンと上に伸ばすおれ。これはレヴィさまとお近づきになるチャンスなのだ。どうやらお付きの侍女たちはこの温室の中にまでは来ていない様子だし、手伝うという口実さえあれば、レヴィさまと二人きりになれるはず。あわよくば、先ほどの妄想を現実にするチャンスもあるやもしれぬ。


 「まあ、マサト様が手伝ってくださるのですか!私、嬉しいですわ!」


 よほどおれの言葉が嬉しかったのか、両手でおれの手を握ってブンブンと振り回すレヴィさま。


 かわいい。きっとおれが邪なことを考えているなどとは微塵も思ってないのだろう。ちょっと罪悪感を感じないでもないが、これはきゃっきゃうふふ的展開に至るための第一歩。毎日むさい筋肉のしごきに耐えているのおれには、癒しの時間が必要なのだ。レヴィさまには栄えある第一号として犠牲になってもらわなくては。

 

 昔、泣いて馬謖を切ったという諺を習ったときには、泣くくらいなら切らなくていいじゃんなどと思ったりもしたものだが、今なら諸葛孔明の気持ちも痛いほど分かる。おれも泣きながらレヴィさまをペロペロする所存である。


 「あ、でもマサト様は訓練がおありですし、毎日は無理ですわよね・・・。」


 「大丈夫です!最近は随分慣れてきましたから、午前中の訓練メニューなどちゃっちゃと終わらせて、しっかりと時間を確保しますよ!」


 「まあ、さすがは勇者様、頼もしいですわ!それではさっそく今日からお願いいたしますね!」


 そういうと、おれの手を引きながら魔道具の元へと案内してくれるレヴィさま。一方のおれはといえば、これからのレヴィさまとの逢瀬に胸を高鳴らせながら、明日からはこれまでよりも早く訓練メニューをこなすべく、決意を新たにするのだった。 

犬になりたい勇者様...!

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