勇者の休日-前編-
昨日は更新出来ずにすみませんでした...!
たまにですが活動報告にお休みの予定など書いていたりするので、よかったら見てみてくださいね。
「あー、今日も疲れたなぁ。」
時間はちょうどお昼前。朝から続いた訓練を終えたおれは、自分用の部屋のソファに倒れこみつつため息をこぼした。訓練が始まってから、ちょうど1ヶ月が過ぎようとしている。
「お、今日もしっかり頑張ってきたみたいじゃないか。」
そう言って声をかけてきたのは、今日も今日とてベッドでころころしているレティア。
「随分慣れてきたんじゃないの?最初の頃は、気絶した君を兵士たちがここまで運んできてたのにねぇ。」
確かにベッド神の言うとおりではある。訓練を始めた頃はジョシュア教官のしごきに耐え切れず、最後までもたずに気を失っていたのだ。
それが今となっては、午前中にジョシュア教官の戦闘訓練をこなした上で、午後からはレーナ先生から魔法の授業を受けるまでになっている。自分ことながら、慣れって怖いなと思わされる。
「まあ1ヶ月も続ければ多少は慣れる、ってね。それよりレティアは今日もまたゴロゴロして過ごしてたのか?」
「そのとおり、ここの快適さは予想以上だよ!食事だって侍女たちがここまで運んで来てくれるんだ。」
おれが訓練を始めてから1ヶ月が経つということは、レティアがこっちの世界に遊びに来てからそれだけの時間が経ったということにもなる。
その間にこいつがやったことといえば、ベッドの上でころころしてるか、これまたベッドの上からおれをおちょくってくるかのどちらかだ。
いつも神ぞ女神ぞときゃんきゃん吠えているけれど、こいつまさかベッドの神なんじゃないだろうか。ベッド神。ちょっと響きがエロいな。
「おれは毎日訓練漬けでクタクタだっていうのに、まったくいいご身分だなぁ。」
「そりゃあ神だからね!」
そう言うと、例のごとく無い胸をピシッと張ってみせるレティア。いい加減自分で虚しくなったりしないのだろうか。
「あ、そうだ。そういえば例の魔法幼女から君に伝言を頼まれていたんだった。」
「ん?魔法幼女て...もしかしなくてもレーナ先生のことか?なんだって?」
「確か、今日は用事があるので授業はお休みなのですぅ!ゆっくり疲れをとると良いのですぅ!...って言ってたよ?あれはいくらなんでもあざといと我は思うんだよねぇ。」
お前が言うなお前が。腹黒さならお前の右に出る幼女なんていないわ。っとまあ、レーナ先生に会えないのは残念ではあるけれど、せっかくお休みになったことだし。午後はのんびり過ごすとしようかね。
◇◇◇
「広いもんだな。さすがにお城ってだけはある。」
あの後昼食を済ませたおれは、この城に来てからというもの、訓練場と自分の部屋、それと食堂くらいしか使ったことがないなと思い至り、この城の敷地内を散策することにした。お昼のお散歩である。
いつも使う訓練場だけでもかなりの広さがあることから、城そのものは随分と大きい建物なんだなと漠然と考えてはいたけれど、さすがは一国の王城。広いなんて言葉じゃ収まらないくらいの規模感である。
これは一日で全部を見て回るのは無理かもしれない。と、某テーマパークに初めて行った時のような感想を抱くおれ。...まあ実際には行ったことないんだけどさ。あのような軟弱な施設、真の漢たるものは足を踏み入れるわけにはいかないのだ。童貞っていうな。
「あれは...もしかして温室か?」
おれが城に連れてこられたときに馬車から降ろされた城の正面からすると、ちょうど裏側に当たる場所。廊下の窓から外を見ながら歩いていると、透明なガラスのようなもので構成されている建物が目についた。
「外はまだ雪深いってのに、魔法でも使ってるのかな?」
そう、季節はまだまだ冬の内。それにもかかわらず、廊下の窓越しに見える例の建物の中では、木々が青々とその葉を茂らせている様子が見える。いくら日の光を取り込んだところで、この寒さじゃ植物はああは育たないだろう。きっと魔法で室温を調節しているに違いない。
季節外れの光景に興味を惹かれたおれは、そのまま廊下を進んでガラス張りの建物の方へと向かう。おそらく管理する人のためだろう、城とあの建物までの間はちょうど渡り廊下のような形で繋がっていて、外の寒さを感じずに移動することができた。
「うわぁ。近くで見るとまた一段とすごいな。」
渡り廊下の行き着いた先、扉を開けると、そこはまるで森のような場所だった。入った途端、視界いっぱいに広がる緑色。城の中と比べても少し暖かい空気に包まれたこの建物の中は、植物たちにとっては楽園に違いない。
「まさかこの時期にこんな光景を見ることができるなんて、魔法ってやっぱり便利だよな。」
最近は自分でも少しは使えるようになった魔法ではあるけれど、このような使い方を見せられては、改めてその凄さを感じずにはいられない。
「おれももっと勉強すれば、これくらいできるようになるんだろうか。」
楽しみだな、もっと頑張らないとな、と。ひとりごちながら森の中を進んでいくと、少し開けた場所へと行き着いた。そこまで広くはないけれど、大きめのテントを張ってのんびりするにはちょうど良さそうな広さで、地面は芝生で覆われている。せっかくだしなとちょうど中心の辺りにゴロンと横になってみる。
「あぁ...これは最高だわ。」
建物内の暖かな空気のせいか、それとも午前の訓練の疲れからか。これからは休みの時にはここでまったりと過ごすのもいいなと考えているうちに、程よい疲労感に包まれながら、おれの意識は段々と遠のいていくのだった。
お昼寝っていいですよね!