15F 冒険者ギルド
「やっと着いた……。足イテェ、はやく宿とろう」
いまヒロトはテラゴウシクの町の門をくぐったところだ。
モリヤの村を出て途中休憩をはさみつつ歩き通して、夕暮れ時までに到着することができた。
町をぐるりと囲む城壁をくぐった先はまさに異世界と感じさせる、地球では見られない光景だった。夕焼けを背に仕事を切り上げ帰宅する者、それを狙って最後の追い上げとばかりに売り込みに声を張り上げる露天商や屋台。そして仕事上がりの男たちが酒場と思われる店で陶器のジョッキを傾け酒を飲んでは大声で談笑し笑いあっている。
そんな異国情緒、いや異世界情緒溢れる光景を目にしたヒロトは旅の疲れが吹き飛ぶ思いだった。
(すげぇ……)
城門を抜けてすぐの広場で口を開けてボーっと立ち尽くしてるヒロトを初めて町にやって来た田舎者と思ったのだろう、広場を行き交う人々はヒロトを生暖かい目でチラチラと見ている。
その視線に気づいたヒロトは恥ずかしさに悶えそうになりながら、そそくさと大通りを逃げる様に歩き出す。
しばらく大通りを歩いてみたが宿屋と思われる店が結構あり、ボロそうなものからなんか高そうと感じる高級感溢れる宿屋までいろいろだった。
「どの宿屋がいいのかさっぱりわからん。ここは誰かに聞いたほうがいいかもしれないな」
だが聞こうにも当たり前だがこの町に知り合いなんていない。道行く人に聞いてもいいが声をかける踏ん切りがつかない。ヒロトは日本人に多い、外国人を前に尻込みしてしまうタイプだった。
結局話しかける事もできずうじうじと大通りをぶらぶら歩いていると、ある大きな建物の前にやって来た。
その建物の入り口の上には「冒険者ギルド テラゴウシク支部」と書いた看板と盾を中心に剣と杖が交差したエムブレムが掲げられている。
「ここが冒険者ギルドか。そうだ、冒険者登録をするついでに冒険者向けの宿屋を教えてもらおう」
剣や槍といった武器をを持った男たちが先程からひっきりなしに出入りしていて、平和だった現代を生きてきたヒロトにとって正直近寄りがたい場所であったが、こんな所でビビっていてはこの先生き残れないと頰をパシンと叩き、ギルドの扉をくぐるのだった。
ギルドの中へ入ってみると建物内にいた冒険者達が一斉にヒロトの方を向いた。ある男はヒロトを品定めするかの如く頭の先からつま先までジロジロと、別の男はなにが面白いのかニヤニヤ酒を飲みながら視線をヒロトに向けている。
(めっちゃ見られてるんですけど!)
冷や汗をかきながらも平静を必死に装い、入り口正面にある受付へと向かう。
視線が追いかけて来るのを感じるが振り向きたくなるのを我慢し、丁度1つ空いていたカウンターへやってきた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件は何でしょうか?」
冒険者ギルドの受付といえば可愛い受付嬢とオタク知識から期待していたのだが、ヒロトの担当は残念なことに女の子ではなかった。別のカウンターにはなかなかに可愛い受付嬢がいるので今度はあの人を狙おうと心に決め、とりあえず意識を目の前にいる男性職員に戻す。
「冒険者登録をしに来ました」
「冒険者登録ですね。ではこちらの用紙に名前、年齢、性別、種族レベル、ジョブ及び所持スキルとそのレベルを記入してください。代筆も可能ですがどうしますか?」
「いえ、字は書けるので大丈夫です」
そう言ってヒロトは用紙に異世界の文字でスラスラと記入していく。異世界の言語はダンジョンコアから異世界の知識を得た時に同時に与えられているのだがヒロトは知らない。異世界転移だから、となぜか読み書きできてもそんなものとヒロトは思っているのだ。
「所持スキルって欄がありますけどこれってあえて書かずに伏せてもいいんですか?」
「構いませんよ。冒険者は自分の手札を晒す事をことさら嫌う傾向がありますからね。しかしギルドは申告された技能を見てその冒険者に合った依頼をまわすこともあります。申告したスキルが多岐に渡れば渡るほど仕事にありつけられる機会は増えます」
「なるほど、まあ僕には隠せるほどスキル多くないんですけどね」
ハハハと笑いヒロトはジョブは【スペルキャスターLv3】、スキル欄に 【火魔法Lv3】【水魔法Lv2】【解体Lv1】とだけ記入し、職員に用紙を渡した。
「ふむ、ヒロトさんでスペルキャスター、と。魔術師は数が少な目ですからね。きっと引く手数多でしょう」
少々お待ちください、と言って用紙を持ってカウンターの奥へと職員は入っていった。
手持ち無沙汰になったヒロトはギルドを見渡す。
建物内部は広々としており、依頼を掲示しておく掲示板、いくつかの受付、そして酒場が併設されている。ヒロトを見ていた冒険者の大半は興味を失ったのか自分達の話に花を咲かせている。しかしまだこちらをチラチラと見ながら何事かを仲間達で話しているグループがいくつかあった。
一体何なんだと思いながら、こちらをチラチラ見ている者達の顔を一応覚えておくことにする。
(なんか変な感じの人達だからあまり近づかないようにしよう)
そうこうしていると先程の職員が金属のプレートを持って、戻って来た。
「こちらが鉄級のギルド証になります。ではギルドの仕組みについて説明させて頂きます」
そう言って職員は説明を始めた。
いろいろ喋っていたが特に重要な内容を要約するとこうだ。
冒険者のランクは鉄、銅、銀、金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトと順に高くなっていく。
依頼の達成率、仕事の質、戦闘力を基準にランクを設定している。
一定の期間依頼を受けない期間があるとランクを降格させられることがあるので注意すること。
概ねヒロトがラノベなどで読んだことのある通りだった。
ヒロトは登録したてで一番ランクの低い鉄級からのスタート。
最高ランクのアダマンタイト級の冒険者は今は5人しかおらず、一人一人がケタ違いの戦闘力を持っているらしい。これはダンジョンマスターをやっている身としては知りたくない事だった。
「説明は以上になりますが質問などはございますでしょうか」
「いえ問題ありません、あ、いや一個ありました」
「おや、なんでしょうか?」
「さっきの説明とは関係ないんですが、宿をまだとってなくてですね。オススメの宿があれば教えていただきたいな、と」
「ああそれならギルドの3つ右隣に"ギリーの宿屋"という冒険者向けの宿屋がありますよ。引退した冒険者の方が経営されている宿屋で安さが売りです」
「ギリーの宿屋ですね。ありがとうございました」
「仕事なので構いません。そうそう私はクラフトと申します。また何かあればいつでも質問しにいらしてください」
「わかりました、クラフトさん。ではこれで失礼します」
クラフトさん親切でいい人だったな、と職員が女性じゃなかった事を残念に思っていた事を心の中で謝りながら教えてもらったギリーの宿屋に向かうのだった。
「ラッシャイ!!泊まりか?何人だ!?」
ヒロトがギリーの宿屋に入って一番に彼を出迎えたのは筋肉だった。
はち切れんばかりに盛り上がった筋肉。ノースリーブのシャツから覗く筋肉はこんがり小麦色だ。スキンヘッドの頭からは湯気があがっているようにも見える。
この筋肉は宿屋のオヤジ、宿屋の名前にもなっているギリーさんだ。2メートルはあるだろう巨漢はただただ暑苦しかった。
しかしそんな彼が切り盛りする宿屋は結構繁盛しているようで、受付兼食堂になっている1階部分は満席に近い。
ヒロトは暑苦しさに少しひきつつも「1人部屋は空いてますか?」と聞く。
「1人部屋だな!空いてるぞ!一泊夜朝二食付きで銀貨1枚だ!何泊する!?」
「えと、じゃあとりあえず2泊で……」
そう言って銀貨2枚を渡す。
「2泊だな!部屋は3階の奥から2つ目の部屋だ!鍵はこれ!荷物を置いたら飯だ!すぐ降りてこいよ!」
ヒロトの背中をバンバン叩き、ワハハハと笑いながらギリーは食堂の方へ行ってしまった。強く叩かれ痛む背中をさすりながら怒涛の如く喋って去っていったギリーに精神的にドッと疲れたヒロトはよろよろと階段を登っていくのであった。
・補足
鉄級
ヒロト ♂ 【ヒューマンLv.4】
ジョブ
【スペルキャスターLv3】
スキル
【火魔法Lv3】【水魔法Lv2】【解体Lv1】




