13F 収穫
戦闘が終わった。
自分が直接殺したわけではないが、自分が命令し、殺させた。
戦闘もメインコアルームから一部始終を観ていたわけだが、不思議と罪悪感とかは感じなかった。自分を異世界へ連れて来た神とやらがなにかしたのか、もともと自分がそういう人間だったのかは気にはなるが、今はとにかくこうやって命を奪い、DPを稼いでいかなければ自分がいつかは殺されるとヒロトはこれ以上考えることをやめた。
とにかく今は戦闘の後処理をしなければならない。
「直接話を聞きたかったけど全滅させちゃったしなぁ、クッソやっぱ生け捕りにしとけば良かった」
一人ぶつぶつと反省点を言いながらヒロトは転移で男たちの死体のもとへやって来た。
「うわーすっげー、本物の剣じゃん。【鑑定】……鉄のロングソードか。こっちの袋は……【鑑定】、うお、これマジックポーチじゃん!容量が見た目よりデカイってやつじゃないの?うおー、すげぇ、ロングソード入った!」
初めて触るマジックポーチで物を出したり入れたりして一通り遊んだヒロトは再びアニキの死体をまさぐる。
「この袋は……なるほど財布か。銅貨たくさんに銀貨が数枚……か。んーこれってどんくらいの価値あんのかなぁ。物価がわからないんじゃどうしようもないな」
そのうち人の生活圏に行き、いろいろと情報を集めなければならないな、と心のメモに加える。
「革鎧の下は普通のシャツか。アニキからのマジックアイテムはこのマジックポーチだけかぁ」
裸に剥かれたアニキの死体を見下ろし収穫品を確認する。
と、その時ふとアニキの左中指にはまる指輪が目に入る。
「おや、指輪なんかしてたのか、見落としてたわ。どれどれ【鑑定】……隠蔽の指輪?ステータスの隠したい項目を隠蔽できんのか。これは良いものをもらった」
ホクホク顔で軽装、ローブと順に身包みを剥いでいく。
「ざっと収穫はナイフなどの武器と革鎧、あとマジックポーチとその中身、そして隠蔽の指輪が人数分か。初回にしてはそこそこいい収穫だな」
死体は魔幼虫のプールに放り込んでおくようその場に残っていた闇討チノ百足蟲に命令し、ヒロトは剥ぎ取った荷物と共にメインコアルームに転移する。
「さて現地人の荷物が手に入ったわけだが、この金って世界共通なのかな、それともこのダンジョンがある国の金なのかな。まあこれも町へ行けばわかることか。やっぱ一回ダンジョンから出ないとダメかぁ」
現地の金も手に入り、3人分のマジックポーチには携帯食料や水がヒロト一人なら十分であろう量が入っている。戦闘でボロボロになってとても着れるものではないが現地の一般的であろう服も手に入った。これは似たような服をDPで出せば問題ないだろう。
一度外に出てみるのも悪くないと思わせるだけの物が揃ってしまった。
「いくかぁ町ぃ。でも途中で魔物とかに出会ったらどうしようかなぁ。【毒魔法】あるけどこれはじわじわダメージ与えるものでローブの【火魔法】とは瞬間的な威力が違うからな。ダンジョンの魔物連れて行きたいけど、万が一人に見られたらどうするか問題だしな。【テイム】スキルはダンジョンコアのショップで存在が確認されてるけど、テイマー職が一般的にいるのかもわからないんじゃ迂闊にテイマー職で通すのも良くないだろうな」
そしてああでもないこうでもないと考え続け、結局とりあえず近くにあった村まで行ってみようと決めるのであった。
夕方、リブラ大森林を探索していた冒険者達が村長宅に集まり情報の共有を行なっていた。
「《黒蛇》の三人が帰って来ていない」
成り行きでなった進行役の冒険者がまず口を開いた。
「みてぇだな。オーガにでもやられたんじゃないか」
「良い噂は聞かない奴らだったからな。死んだとしても喜ぶやつはいても悲しむやつなんていないさ」
「おい、相手が相手だとしてもあまりそういう事は言うもんじゃないだろ」
「わりぃわりぃ、でもそういうお前だって心の中ではいなくなって欲しかったんじゃないのか?」
「それは……」
「ほら関係ない話は後にしてくれ。まだ話さなければならない話があるんだ」
進行役の冒険者がパンパンと手を叩くと他の冒険者達が私語をやめて進行役の冒険者に向きなおる。
「《黒蛇》が担当になっていたエリアを僕たち《蒼の剣》が探索したところ、なんと新しくできたダンジョンを発見した。調査の為に中に少し入ってみたが中は一般的な洞窟タイプだった」
新しく生まれたダンジョンと聞いて、冒険者達は騒がしくなる。
新しく生まれたダンジョンは中の魔物もたいして強くなく、ダンジョンコアを持って帰れば莫大な金になる。昔からあるダンジョンを攻略するよりはるかに簡単に金を稼げるのだ。宝を求めて活動する冒険者達にとって新生ダンジョンは金の成る木なのだ。
だがそんな新生ダンジョンの情報を彼らは公開した。秘匿していれば自分たちで独り占めできるのにである。それはつまりそうしないだけの理由があることに他ならない。
新生ダンジョンと聞いて欲に目が眩むようでは冒険者としては長生きできない。欲に目が眩み、命を落としたのもいたようだが。
「隠しとけばいいものを公開したってことはそのダンジョンはなんかあるのか?」
冒険者の一人が尋ねる。
「ああ、あのダンジョンには【瘴気】が発生していた。それも新生ダンジョンでは考えられない濃度だった」
「異常な濃さの【瘴気】……か。となるとそのダンジョンは不死者系のダンジョンかもしれねぇな」
「ああその可能性は高いだろう。いつ頃からダンジョンがあったのかはわからないがあの【瘴気】濃度は不死者がいるとしか考えられないな」
「ダンジョンがあるのはわかったがリブラ大森林の異変はどうなんだ?」
別の冒険者が質問する。
「おそらくダンジョンから魔物が外に出たのかもしれない。あの【瘴気】量はたとえ不死者が生成したとしてもあんな量になるとは考えにくい。おそらくダンジョンから出た魔物が大森林の魔物を狩り、ダンジョンに持ち帰っているんじゃないだろうか」
「ダンジョンに持ち帰られた魔物の死体がさらに不死者になり、ってことか。ありえる説ではあるが、殺した獲物をダンジョンに持ち帰るなんて魔物、俺は知らないぞ」
質問した冒険者の男がそう言うとまわりの冒険者達も俺も俺も、と言う。
すると話を黙って聞いていた年配の冒険者が口を開く。
「それはおそらくダンジョン特有の魔物がいるのかもしれないな。ダンジョンってぇのは不思議なもんで、外では確認されていないダンジョン限定の魔物が出現することがある。まあその限定の魔物が大森林で暴れてるのかはまだわからないが、ありえないとその説をばっさり切って捨てるってわけにもいかないだろうな」
「まあそういうことですね。というわけで我々は引き続き大森林の調査とダンジョンの監視ということになります。あと誰かにギルドにダンジョン発見の情報を報告しに行ってもらいます。誰か言ってくれる人はいますか?」
そういうと冒険者達は押し黙って進行役の冒険者から目をそらす。
森の探索中に倒した魔物の素材は、調査の依頼の報酬とは別に追加収入となる。ここでギルドへ引き返せばその間の収入がゼロになるのだ。行きたい者などいないのだ。
進行役の冒険者も立候補がでることはないと最初から思っていたため、すぐにくじ引きで決めることにした。
今日の冒険者達の会議は運の無かった冒険者の絶叫と共に閉会となった。
・補足
《黒蛇》
アニキ、軽装、ローブの三人で構成されるパーティ。
悪い噂が絶えず、実際彼らはいろいろと悪事を働いていた。
パーティの戦闘力はあったがダンジョン探索が素人であったため、全滅することになった。
ローブが一番に殺されたのも彼らが全滅した原因のひとつであろう。
ちなみになぜパーティ名が黒蛇なのかというと、アニキが爬虫類が好きで特にヘビが好きだったから。
アニキが幼少の頃、自宅で黒いヘビを飼っていた。