11月30日(日) 三女・凛 「バトルフィールド・オブ・デート」
「この後、パパにお買いものへ行ってもらうわ。ついて行きたい人はいる?」
ママがそう言うと、居間に集められた娘たちは、次々に「はい!」「はい!」と手を挙げる。
私も負けじと手を挙げようとした、そのとき。
「お買いもののついでに、ダーリンとデートするっていうのはどう?」
美貴が言った。愛も続けて言う。
「いいかんがえね!」
……なるほど、悪くない。しかし、そうなると、全員が同行を希望するのではないだろうか。娘八人とのデート。それはもはやデートではなく、いつもの家族のおでかけだ。
「……一理ある」
思わず声に出してしまった私の懸念に、巴が応えた。
「だったら、だれがとーちゃんとデートするか、ゲームで決めようよ!」
提案したのは翔子姉さんだ。
……かくして、姉妹が合い争う、過酷なゲームが始まった。
「それでは、ルールを説明します」
参加者八名の前、巨大なモニターに映るのはママ。眼鏡が光っており、その表情はうかがい知れない。
「これは、多人数参加型の対戦ゲームで、みなさんは戦いながら長距離を移動し、マーカーが示すゴール地点まで――」
説明が続く中、参加者たちは各々の得意武器を構え、手に馴染ませている。
「――以上で説明を終わります。3、2、1――はじめ!」
「おおお!」
翔子姉さん、いや、参加者No.2の翔子が雄叫びを上げ、槍を振り回す。リーチ、威力、ともに優れており、見るからに手強い。間違いなく優勝候補の一角だろう。
……だが、目立つものは、真っ先に狙われる。
ヒュンヒュンヒュン!
風を切る音とともに翔子へ襲いかかるのは、二枚のチャクラム。美貴が投げたものだ。
「なんの!」
翔子は槍を振り回し、チャクラムを撃墜。だが、動きが止まった一瞬の隙を突き、飛びかかった者があった。
「うっひょお、おいしそ~。いただきまーす!」
俊敏なる獣、優結。自らの爪牙のみで戦う狩人が、翔子の首筋に口づけ、首飾りを引きちぎった。
――翔子、脱落。
これが戦場。これが、現実。
「あたっ!」
気圧される私の後ろで、物音がした。見れば、参加者の一人、華弥がつまづき、転びそうになっている。私は反射的に抱きとめた。
「ありがとうございます、凛ねえさま」
「凛、でいいわよ。今は対戦相手でしょ」
「はい。でも、たすけてくれました……」
そうだ、私は助けてしまった。対戦相手を。何をしているのだろうか。だが、この気が弱そうでありながら芯が強く、頑張り屋の妹のことを放っておけないと思ったのだ。
「ねえ、ふたりでチームを組まない? そのほうが有利でしょ!」
「はい!」
かくして華弥とタッグとなった私は、まず戦場から離れることを優先した。目的地へたどり着くことも重要だからだ。
戦闘は激しさを増すばかり。理沙の振るう鞭が優結を捕らえたのを確認した。
優結が脱落。
しかし、理沙も、巴の仕掛けた罠にかかり、網で動きを封じられ、脱落した。
華弥との逃避行は長く厳しいものだったが、楽しみもあった。
森の清浄な空気。谷川のせせらぎ。二人で集めた木の実の味。満点の星空。
それらはかけがえのない思い出となった。
行く先々に張り巡らされた巴の罠や、飛び来る愛の弓矢の恐ろしさすら忘れるほどに。
――そして、最後のときがやってきた。
巴の罠を見事に破り勝利した美貴は、愛の矢に首飾りを撃ち抜かれ、倒れた。
その愛は今、矢を撃ち尽くし、私の目の前にいる。
「終わりよ、愛。あなたは、とても強かったわ」
「やをふやすマホウは、まだおぼえてないの。ざんねんだわ」
私はレイピアを振るい、愛の首飾りを砕いた。
さて、残るは。
残るは――。
「ごめんなさい、凛ねえさま」
振る向くと、華弥が、覚悟を決めた顔で立っていた。その手には、いつの間にかジャマダハルが握られている。
「華弥はずっと、たたかえないふりをしていました。いつか、だいじなたたかいをするときのために」
「華弥、やるのね」
「はい。てにいれたいものが、あるから。それに――」
華弥が踏み込む。
「凛ねえさまに、つよくなったって、おもってもらいたいもの!」
私のレイピア、華弥のジャマダハル。
それぞれが、相手の首飾りを破壊するのは、同時だった。
「やっぱりつよいなあ、凛ねえさまは」
「華弥こそ」
こうして、戦いは幕を閉じた。
果たして、勝者の報酬は、どうなるのだろうか――。
「はい、みなさん。おつかれさまでした!」
ママの声で我に返ると、おでかけの準備を終えたあいつ――パパが、翔子姉さんに腕を組まれながら、優結を肩車している。
「え、結局みんなで行くの!?」
「だって、優勝が決まらなかったし、みんなとってもがんばっていたもの。みんなが勝ちで、みんなデートでいいと思うわよ」
ママはそう言うけれど、それでいいのだろうか。
「でも、こんなに大人数じゃ、デートになんてならないんじゃ……」
私が疑問を口にすると、パパはこう言った。
「みんないっしょにデートできるよ。パパに任せて!」
そう、あいつはこういうやつなのだった。
そして、私たちは、無事にお買いものを終えたうえで――
みんなが大満足できるデートまで、満喫したのだった。
――ふぅ、つかれた。
理沙姉さんのすすめで、今日の出来事を小説風に書いたみたけれど、これでよかったのかしら。
どんどん大げさになりすぎていってしまった気もするわ。
でも、なかなか楽しかったから、いっか♪




