2月14日(金) 【3】 三女・凛 「甘えんぼうの子ネコ」
はい、パパ。
私が作ったチョコよ。
こんな日くらい――
ふつうにわたしてあげる♡
いちおう、私なりに――
気持ちをこめて作ったから。
食べてみて。
それに、姉さんたちと同じく――
おまじないをかけているわ。
だから、あんたの願い――
心に、強く思ってみて。
――――!
ここは、結婚式場……。
私もここに来られるなんて。
やっぱり、あんたが願うと――
あんたじゃなくて、娘の願いになってしまうのかしらね。
それにしても、これを――
あんたと私の結婚式を――
あんたとふたりで見るの!?
どんな気持ちでいればいいのよ。
……すなおに、あるがままを見ていればいい??
それもそうね。
どうせユメみたいなものなんだから――。
って、こっちは色々考えてるのに!
未来の私ってば、自分からかぶりつくように、パパにキスなんてして!
あ、あわわ……何て幸せそうな顔。
私でも、結婚式でキスをすれば――
あんな顔をできるのね――。
……あんた、泣いてるの?
私が幸せそうだから??
ふうん。
だったら、私にあんなを顔をさせているのが、あんただってこと――
ユメから覚めても、わすれないことね。
そして、これが――
その日の夜なのね。
ソファで待つあんたのもとへ、やってきた私は――
なんてかっこうしているのよ!?
ネコ耳に、しっぽを付けて、肉球手ぶくろ。
とろけそうな顔で、あんたの顔をぺろぺろする私!
にゃあにゃあ言いながら、のどをなでられて、ごろごろして――
完全に、甘え放題の子ネコだわ……。
これはアクム!?
でも、ふたりとも――
とっても楽しそうね。
それにしても、さっきから一体何を見せられているのかしら!?
待って、集中すると――
こうなったいきさつが、何となく頭に伝わってくるわ……。
甘えベタな私が、あんたに甘えやすくなるよう、家族で考えた方法のひとつ――
ですって!
みんな、何をやってるのよ!!
でも、ま――
こうかは、ばつぐんのようね。
そして、いよいよこうふんした私が、あんたに上目づかいで、にゃあにゃあうったえると――
だきかかえられて、お部屋へつれていかれるというわけ。
この先は見られないのね。
何となくそうぞうはできるけれど――
いいえ、やっぱりそうぞうできないわ。
というか、しちゃいけない気がする……!
でも、頭からはなれない――
どうしたらいいの、パパ!
と言っているうちに、朝まで時間が飛んで――
ふたりが出てきたわ。
もう、私ったら。
いまだにネコちゃんモードで、あんたにからみついてるのね。
あんたは、かみも服もみだれて、おつかれの様子なのに♪
こんな私と結婚してくれるなんて――
あんたって本当に、娘に甘いんだわ♡
それからしばらくして、聞こえてくるのは――
大好きな赤ちゃんの声……♡
何より大事な、私の子ども。
愛しい愛しい、愛の結しょう――♡
何だか今まで、ヘンなものばかり見てしまった気もするけれど――
この子に出会えて、本当によかった♡
ふふ、パパと私ににているわね♡
私みたいに――
甘えんぼうになっちゃうのかしら。
それでいいわよ♪
だって、ママが――
たっぷりと甘やかしてあげるんだから♡
もちろん、パパもね♡
だって、あなたのパパは――
だれより子どもに優しくて、愛じょう深いんだから♡
この子が生まれてくるためと思えば。
ネコ耳を付けてふにゃふにゃになっていた未来の私のすがたも、大事なものだったって思えるわね。
さあ、お次はこの子が大きくなっていくところを――
って、手作りチョコに、そこまでの力はないみたいね。
“今”にもどってしまったわ。
新婚でも何でもない――
ただの父娘に。
でも、この目で見たから――
あれはただのユメじゃなくて、未来でたしかに起こることのように思えるわね。
ううん、思える、じゃなくて――
ゼッタイに、げん実しなくちゃ。
あの子に会うために。
それには、まず――
ネコ耳でも付けてみればいいのかしら。




