10月7日(月) 三女・凛 「ベイビーナイト」
理沙姉さんから教えてもらったのだけれど。
理沙姉さんと、あんたって――
みんなが、ねしずまった後の夜に、ときどき。
ふたりきりで、ヒミツの時間をすごしているそうね。
聞けばそれは、このうえなく、すばらしくて――
理沙姉さんが、一番すなおになれる時間ということなの。
それで、私も……やってみたらどうかって。
理沙姉さんが、今夜をゆずってくれたってわけ。
せっかくの理沙姉さんの幸せを、わけてもらったんだもの。
ゼッタイ、ムダにできないわ!
だから、もし、あんたがよかったら――
ねるまでの少しの時間、私に付きあってほしいの。
いいの!?
よかった……。
おほん。
こんなことでいちいち喜んでいたら、先に進まないわ。
それに、あんたが――
かん単に娘のいいなりになっちゃうのは、わかっていたことだし。
ここからよね。
じゃあ、そこのソファにすわって。
私が……おひざに乗るから。
リビングの電気は、消したままでいいわよ。
ふふっ、なんてすわり心地なのかしら♪
せなかの下から、おしりの下から、足の下から――
あんたの体温が伝わってきて。
私が、そまっていくみたい――。
いつもみんなに大人気のこのイスを、ひとりじめできるなんて。
たしかにこれは、なかなかいいかも♪
理沙姉さんが言うには――
ただ、体をふれあわせて、じっとしているだけでいいんだって。
それが一番、幸せなんだって。
そういえば私も、小さなころは。
もう覚えていない、赤ちゃんのころは。
そうだった気がするわ――。
もしかしたら、私たち――
赤ちゃん時代から、あんまり成長しないのかも♪
どうして、そんなにうなずくのよ!?
まだまだ私が――
赤ちゃんだと思っているんじゃないでしょうね!
だったら、もっと――
赤ちゃんみたいなこと、してあげる♡
赤ちゃんはね――
こうするのよ。
あんたの顔を、じーっと――
まるで不思議なもののように見つめて。
ときどき、笑うの。
とってもうれしそうに、けらけらとね♪
私も、妹たちが赤ちゃんだったころのことは、よく覚えているんだから♪
こうしていると、本当に赤ちゃんと同じ??
言ったわね!
だって、あんたの顔って、おもしろいんだもーん♪
これじゃあ、理沙姉さんのような、甘い時間はすごせそうもないわね……♪
ひゃっ!?
どうしたのよ――
急におでこをさわって。
熱がないかって?
そんなことないと思うわ、とっても元気よ。
顔が真っ赤?
え……そこの手鏡をかして。
本当……ほっぺが赤くて、目もうるんで――
あんたといるときの私って、こんな顔をしているのね……。
でも、平気よ。
これは、元気なときの顔だから!
あんたがおもしろいと、こんな顔になっちゃうの!!
ねぇ……“あんた”ってよぶのは――
あんたをただの父親だなんて思っていると、つまんないって思うからよ――。
“父さん”って、なんだか――
味気ないわ。
でも、あんたが喜ぶなら――
こんなときくらいは、よんであげてもいいと思うの。
だから、もう少し付きあって。
次は、ソファに横になってね……父さん。
今度の父さんのお役目は、イスじゃなくて――
私のベッドよ♪
こうして上に乗れば、私のかみが、父さんのお顔にかかって――
ふたりの顔は、外から見えない。
ふたりだけの世界みたいね。
これで、父さんがどんなに変な顔をしても、安心よ♪
っていうか、暗くてよく見えない……。
目で目えないなら、手で見ましょう。
お顔や、体にふれて――
大きさや形を、よく覚えておくの。
赤ちゃんのころは、毎日だっこされていたのに――
今では、そんなことも、めったにないものね。
こんな機会がないと、父さんの体をわすれてしまいそうだわ。
何だかんだで、今でも毎日のようにだっこしている気がする?
そういえば、そうかも……ふふっ♪
パパったら、優結たちをだっこする流れで――
私や姉さんたちまで、だっこするんだもの。
だから、いつまでも――
赤ちゃんだと思ってしまうんだわ♪
でも、パパのほうこそ――
私の体をよく覚えていてもいいんじゃない?
もう赤ちゃんじゃないんだし――
毎日大きくなってるんだから。
今の形を覚えておかなきゃ、またすぐに育っちゃうわ。
そうこなくちゃ♪
んっ……パパは……そうやって覚えるのね……♡
理沙姉さんにも――
こんなことをしているのかしら♪
でも――
エンリョしてない?
そんなことで、覚えておける?
私は、手かげんしないわよ!
あんたのくすぐったいところも――
たくさんさわってあげるわ♪
……んっ、あっ♡
ふ、ふーん――
なかなかやるじゃない。
でも、そんなのじゃ、まだまだ――
ふにゃぁぁんっ!?
……って、ちょっと声が出たくらいで、やめることないでしょ!
おたがいの形をたしかめているんだから。
こそばゆくて、声くらい出るわよ。
……じゃあ、これも覚えておいて。
私が、今みたいな顔と声をしているときは――
パパに何されても、イヤじゃないときだから。
こういうときは、私がちょっとくらい、声をあげても、あばれても――
やめちゃダメなの。
わかった!?
その優しい頭なでなでは――
わかっていない気がするわ。
もう……そうやって、いつまでも――
赤ちゃんあつかい……し……ないで……すぅ…………すぅ…………。
……………………。
…………。
……。
むにゃ……ねちゃってた……?
ここは、ベッド……。
あの時間は終わりなのね……。
明日になったら、きっと――
はずかしくなって、こうかいするから。
正気にもどる前に、もっとしていたかったのに。
残念。
でも、この体温――
私の下にいるのは、パパ!?
ソファから私を運んで、そのまま、ねたのね……♪
だったら、もう少し。
幸せな時間を――
楽しませてもらおうかしら♡