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4月17日(水) 五女・巴 「シチパチ山」

 ……おはよう、パパ。

 めずらしく……早起きだね、って?


 だって、今日は……『恐竜の日』。

 こんな日に探険したら……何かが見つかりそうだと……思わない?


 お仕事にも……小学校にも……まだ早いわ。

 近所のお山へ……行ってみたいの。

 ついてきてくれる……?


 ……やったー。

 さすがパパ……私のお願いは……何でも聞いてくれるわね……♡


 それでは、出発――

 まだパジャマだった。




 朝のお山は……ちょうどいい気温。

 この二本の……ダウジング棒によると……そろそろ何かが……見つかりそうね。


 ……卵だ。


 大きなものが二つ。

 近くに……親の存在はない。


 一体……何の卵かしら?

 ……パパも気になるわよね。


 こんなこともあろうかと――

 てってれー、ゲノム聴診器~♪


 これは……クラスメイトで親友の……かなちの家族の……知り合いの会社から……借り受けたサンプル品。

 いいテストができそうだわ。




 なになに……この卵は――

 シチパチ??


 シチパチといえば――

 ゴビ砂漠で……化石が発見された……白亜紀の恐竜よ……!


 現代の日本にも……生息しているというの?

 それも、こんな……我が家の近くに。


 まだ温かいわ。


 よし、この子たちの……名前は、便宜上――

 サプ太にアシュ太と名付けましょう。

 サンスクリット語で……(シチ)(パチ)という意味よ。




 でも、親はどこへ……行ったのかしら。

 シチパチの生態は……私も知らないけれど……気になるわね。


 ……もし、このまま親が……戻らなければ――

 この子たちは……どうなるのかしら。


 ……そのときは……私が育てるわ。

 お家へつれていって……温めてあげるの。

 パパと私で♪


 ……きっと大丈夫?

 パパは信じていないわね?

 これは恐竜ではなく……大きな鳥か……ヘビの卵とでも……思っているんでしょう。


 でも、私は――

 かなちの家族の……知り合いの会社の……試作品を信じるわ。




 ――。

 ――――。

 ――――――――。


 ――パパ、お帰り。

 待っていたぞよ。


 放課後にも、お山へ……行ってみたのだけれど。

 やはり、親はいなくて……二つの卵は……そのままなの。

 しかも、朝より……冷えていたわ。


 このまま親が……戻らなければと……思うと、気が気じゃなくて――

 今までずっと……恐竜図鑑を……読んでいたのよ。


 ねぇ、お願い。

 もう一度……私とお山へ行って。


 ……ありがとう。

 そう言ってくれると思って……準備は万端よ♪




 ……ほら、ここよ。

 もう慣れて……ダウジング棒一本でも……たどり着けるようになったわ。


 朝と同じで……卵が並んで二つ――

 でも、周りには……何もいないの。


 ……パパ、温めましょう!

 毛布も持ってきたわ。

 パパが担いでいる……リュックに入っているの。


 もう夜。

 冷え切らないように……してあげたほうが……いい気がすると……私の勘が……告げているのよ。




 ……。

 …………。

 あれ、動いた?


 生まれようとしているのかしら……!

 これは……内側から殻を叩く……命の音……!


 パリパリと卵が割れて――

 サプ太とアシュ太の誕生よ!

 

 おめでとう!

 生まれてきてくれて、ありがとう!


 何て可愛いのかしら……♡


 パパ、言ったとおりでしょう?

 本当にこの子たちは――

 シチパチだったのよ。




 何とか間に合って……よかったけれど。

 この子たちの親が……誕生に立ち会えなかったのは……残念ね。

 後で探して……会わせてあげましょう。


 ……何、パパ?

 後ろ??


 ……おお。

 これはこれは……お父様にお母様。


 大変大きくて……ご機嫌うるわしゅう。

 お子さんは健やかに……生まれましたぞよ。


 三メートルを超える……鳥のような……姿の恐竜。

 図鑑を見て……思い焦がれていた以上に……美しくたくましい姿ね。




 ……何か言っているようね。

 こんなこともあろうかと――

 てってれー、ディノリンガル~!


 これも、かなち経由で……手に入れし品。

 恐竜の言葉が……わかるのよ。


 なになに――。

 子どもといっしょに移住するため、お山の奥へ新居の準備に行っていた――。

 卵はしばらく放置しても大丈夫な状態になっていたし、近くの鳥やトカゲの知り合いが様子を教えてく れるから問題はなかった――。

 でも、温めてくれたおかげで、少し早めに生まれることができたから、ありがとう――。


 ……まとめるとそのようなことを――

 白亜紀の香りを感じさせつつも……現代的に……アップデートされた……詩的な表現で……伝えてくれたわ。




 私の心配は……杞憂だったわけね。

 けれど、おかげでこうして……シチパチ家と知り合えたのだから……私としては嬉しかったわ。


 でも、もう行ってしまうのね……。

 お山の奥となると……私は……会いに行けないわ。


 異界へ通じるとも言われ……様々な伝承の残る……お山の奥。

 もしかしたら、そこには……数多くの恐竜さんたちが……元気に暮らしているのかも……しれないわね。


 ……そう遠くでもない?

 この辺りも生活圏内だから……すれ違うこともありそう?


 そうなのね。

 では……その際はよろしく♪




 サプ太とアシュ太も……元気でね。

 あ、これは私が……勝手に呼んでいる……名前ですので……正式な名付けは……あらためてどうぞ。


 それでは、おたっしゃで――

 いや、その前に。

 お家のみんなにも……紹介しておきましょう♪

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