11月18日(土) 三女・凛 「リトル・ジャーニー」
うーん――
どうにも、あいつにうまく話しかけられないわ。
せっかくの土曜日は楽しくすごしたいのに。
何とかしなきゃ。
ねえ、巴――
そういうワザ、何か持っていない?
さいみんじゅつとかできるって言っていたでしょう?
すなおになる暗示のじゅつがある?
うん、それをやってみて……。
だれもいないところで、あいつの写真に話しかける!?
いつもしていることだけれど――
そんなことで、うまくいくのかしら。
試しにやってみるわ。
……。
…………。
…………本当にきいているのかしら。
でも、巴の言うことだから、きっと信用できるわよね。
ね、ねえ、あんた……じゃなくて、パパ。
今日は昔を思い出してすごしてみない?
私も、昔から色々変わってしまったと思うけれど――
たまには、小さなころの気持ちになってみたいわ。
と、いうわけで。
私が大好きで、よく見ていたえい画を見ましょう!
『リトル・エリーのビッグ・ジャーニー』。
まちがって長きょりトラックに乗ってしまい家族から遠くはなれた子犬が、たくさんの動物や人間に助けられながらアメリカ大陸を縦断して家族と再会する物語。
これは、私が何度もレンタルをせがむから、パパが買ってくれたディスクよ。
優結は見るの初めてよね。
前に見たのは何年か前で――
愛は赤ちゃんだったから、きっと覚えていないわね。
華弥は覚えているかしら。
昔は全然いしきしていなかったけれど――
巴によると、実写えいぞうとアニメーションの合成ぎじゅつも見どころらしいわよ。
ひざの上で見ないか……?
昔はこうしていたから、って――
私はいいけれど。
重かったら言いなさいよね。
寒くないかって?
おひざが少し冷えるかも。
ひざかけはいらないわ。
パパが手を置いていれば、十分よ。
パパはちゃんと画面見える?
私の頭がジャマじゃない?
気にしないでいいって――
そんなわけにはいかないわよ!
この映画は、一番最初のシーンから――
とっても素敵なんだから♪
ほら、もう始まるわ。
ここからは静かに見るわよ……!
……。
…………。
………………。
うう、ぐすっ……!
すごく、よかったわね……!
静かに見るなんて言いながら、優結がおどりだしたり、歌いだしたり――
大さわぎだったけれど。
そういう見方も楽しいわね♪
凛は最後のほうずっと泣いていて、昔を思い出した――
ですって!?
な、何よ……昔と同じところで、毎回泣いたっていいでしょう?
エリーがパパとママに再会するシーンは、何度見ても――
よかったね、って気持ちになって、感動するんだもん。
ハンカチなんていらないわ。
なみだはパパのむねでふいてやるわよ!
って、パパも泣いてるじゃない!
もう……じゃあパパのなみだは、私のむねでふいていいわ♪
何、私のかみをなでて、顔をうずめるなんて……いつもはしないのに。
わかっているわよ――
再会のシーンの再げんでしょう。
ええ、昔は、見終わった後に、私がしてほしがっていたことも覚えているけれど――
今は、優結たちにしてあげたほうがいいんじゃない?
きゃっ、優結が私にするの……?
愛に、華弥まで!
これじゃあ――
私が一番、子犬みたいじゃない!
……今日くらいはいいかしら。
暗示のじゅつにかかっているわけだし♪
パパ――
他にも、昔よくしていたこと、覚えてる?
昔の私は、エリーはパパ犬のことが好きで――
この後ふたりは結婚するんだって思っていたのよ。
そういうお話の続きをよく考えて、遊んでいたでしょう――?
もちろん、本当はそんなことはなくて。
続へんではボーイフレンド犬が登場するけれど。
そんな、もしものお話だって――
どこかにあっていいと思うの。