9月19日(火) 長女・理沙 「ミルキー・ドリーム」
お父さんの実家のアルバムに収められた、たくさんの貴重なお写真。
昨日それを、おじいさんとおばあさんから、データにして送ってもらっちゃいました♪
これで、昔のお父さんの姿を、いつでも好きなだけながめられますね♡
これは、生まれたてのお父さん――!
可愛いなあ♡
赤ちゃんのころから素敵ですね♪
もし、お父さんが、とつぜん赤ちゃんになってしまったら――
私がお母さんになって、しっかりお世話してあげますね♡
うふふ……♪
……。
…………。
まあ、お昼ねしてしまいました。
もう晩ごはんかしら?
「おぎゃあ!」
え、おぎゃあ?
「おぎゃ、おんぎゃあ!」
あら、これは――
赤ちゃん!?
私のベッドに、いつの間にやってきたのかしら?
うふふ、とっても可愛い……♡
……もしかして。
ううん、絶対に、この子は――
お父さんだ――!
お耳の形も、お鼻の形も、お写真でずっと見ていたとおりだもの……!
どうしてこんなことになったのか、わからないけれど。
元どおりになるまで、私がお母さんですよ~♡
お母さんのお手伝い程度だけれど、赤ちゃんだった妹たちのお世話をしたことだってあるんだもの。
きっとできるわ!
ほら、お父さん、だっこしますね♡
お母さん……ママよ~♡
わかる?
「まっま!」
まあ、うれしい……♡
「うー」
あ、さっき泣いていたし、ミルクかしら?
すぐに用意しますね!
ほ乳びんの場所は、覚えていますよ♪
「ごく……ぷは」
あんまり飲まない。
ミルクじゃなかったのかしら?
おむつも大じょうぶだったし――
もしかして。
ミルクじゃなくて、おっぱいがほしいの?
「まっ!」
少し待っててね……♪
わあ、小さなお口で、一生けん命に吸っています――♡
おいしい?
「きゃっきゃ」
よかった♪
ここからミルクは出せないけれど、お父さんがほしいなら、いくらでもあげますからね……♡
本当に可愛いなあ♡
この子のためなら、どんなことだってきっとできます♪
ずっとこのまま、私の赤ちゃんでいてもいいのに。
大事に大事に、可愛がって育てたら。
いつか「ママとけっこんする!」って言ってくれるかしら?
……でも、それって。
きっとよくないことですね。
本当にそうなったら、このお父さんは――
私のお母さんとは、結婚できないですもの。
お父さんにとっても、お母さんにとっても、かわいそうだわ。
それに、この子の気持ちの向かう先を、私が決めつけてしまうことになってしまいます。
お父さんには、もっと自由に、自分の心のまま生きてほしい――。
……だからなんだ。
小さい頃、どれだけおねだりしたって、お父さんが結婚の約束をしてくれなかったのは。
この子はきっと素直に育って――
私が、「ママとけっこんしよう」って言ったら、「うん」って言って。
そうするのが一番いいんだって、思ってしまうかもしれません。
お母さんと出会う未来を、考えもしないまま――。
やっぱりこの子は、本当の場所に――
おじいさんとおばあさんのところに、もどさなくっちゃ。
どうすればいいのかしら?
みんなに相談してみましょう。
まずは――
やっぱり、お母さんがいいですね。
お父さん、ちょっと待っててね――。
あ……うふふ♪
指をつかまれちゃいました。
小さいおててなのに、たくましい力。
では、もう少しだけ、となりにいましょう――♡
急にこんなところへやってきて、びっくりしたね。
ねんねん、ころりよ――。
……。
…………。
はっ、またねむってしまっていました!
赤ちゃんは……いない?
「ただいま」
一階からお父さんの声です!
もうお帰りの時間!
お出むかえがおくれちゃいました!
おかえりなさい、お父さん!
ご無事でしたか?
帰りの電車でうとうとして、赤ちゃんになった夢を見た気がする??
……よかった。
もどれたんですね♪
ううん、なんでもない、夢のお話です――♪
お父さん、お飲みものを注がせてください!
お茶にしますか、それともビール?
今はミルクの気分?
うふふ、せっかくなので――
ほ乳びんで飲みますか♡