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6月30日(火) 三女・凛 「大事な大事な私のイルカ」

 イルカのソラちゃんは、がんばりやさん。

 どんなにいそがしくたって、笑顔をわすれず、お友だちおもい。

 お友だちがつかれていて、ちょっぴりいやなことを言ったって――

 やさしく笑って、だきしめてあげる。


 このソラちゃんは、そんな子よ。

 大きなイルカのぬいぐるみ。

 くりくりおめめの、たのもしい、おと……お兄さん。




 覚えている?

 あんたのプレゼントだったの。


 しばらく優結にかしていたけれど――

 返されたわ。


 少し前に優結が、タオルをぬらして、ろうかを引きずる、お魚遊びにはまったとき。

 あちこちをびしょびしょにするのをがまんしてもらう代わりに、あげたのだけれど。


「いっちゃん。りんちゃんのすきなこ。もってたいでしょ? ずーっとだっこしててあげて。いっちゃんちゃん!」


 って。

 わたされたの。


 私はあげたつもりだったのに――

 優結ったら。

 優しいんだから♡

 ソラちゃんそっくりね。


 自分で、名前まで付けちゃって。

 イルカのいっちゃん。




 ……あのときのこと、本当に覚えている?

 あんたがソラちゃんを買ってくれたときの、私の言葉。


 もう十年前――

 ってことはないわね。

 七年前くらいかしら。


 覚えてる?

 本当の本当に?


 ――なんでペンギンじゃないの?

 コウテイペンギンをかって、ってちゃんといったのに!


 って。




 あんたはこまったような顔をしたけれど、三十秒後にはもう笑顔だったわ。

 私が泣いて、鼻水を流しながらわめいても。

 ずーっとだきしめて。

 かぜを引いて水族館に行けなかった、私のかん病をしてくれた。


 私は、あの日のことが、ずっとわすれられないの――。

 あんたがわすれたって、一生覚えているわ。




 ごめんなさい。


 あんたが一生けん命、さがして買ってきてくれたのに。

 ペンギンは売り切れだったのに。

 あんなことしか言えなくて。

 私って、最悪。


 その代わり、のつもりで――

 それからソラちゃんのことは、せいいっぱい、かわいがったわ。

 ソラちゃんに向かって、何度もあやまる練習をして、何度も泣いた。


 でも、あんたには、それきり。

 何も言えなかった。

 あんたが、気にしてなさすぎ――

 に見えたもの。




 だから、今――

 全力であやまるわ。

 他のことも全部。


 私、あんたにどれだけひどいことをしてきたか――

 ときどき考えて、とてもおそろしくなるの。

 何度地ごくに行っても足りないわ。


 気にしすぎだと、みんな言うけれど。

 そんなことないのよ。

 “地ごくは心の中にある”って、本に書いてたもの。




 私なら、いくらだって地ごくに行ってやるけれど。

 あんたは、ほら――

 気にするでしょ。

 そうなったら。


 だから、今日、あやまりつくして――

 私の中の地ごくを、たくさんの“ごめんなさい”でつぶしちゃうの。


 でも、それだけではきっと足りないわね。

 申しわけなさだけで消せるほど、地ごくは弱くないもの。




 今まで、ごめんなさい。


 それから、ありがとう。




 こんなにかわいいソラちゃんをつれてきてくれてありがとう。

 凛っていう、すてきな名前を付けてくれてありがとう。

 だっこしてくれてありがとう。

 おむつをかえてくれてありがとう。

 おふろに入れてくれてありがとう。


 四才のころに少しだけはまった、くだらないダジャレに笑ってくれてありがとう。

 私がむししても、にらんでも、あきらめずに話しかけてくれてありがとう。

 日記を読んでくれてありがとう。

 私の好きな人になってくれてありがとう。

 愛してくれてありがとう。


 私のパパでいてくれてありがとう。

 恋人になってくれてありがとう。

 これからも、ずっとずっと――

 いっしょにいてくれて、ありがとう。


 大好き。

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