6月16日(日) 【5】 長女・理沙 「書きかけの物語」
お父さん、今日は――
頭を……なでさせてもらいます……っ!
んっ……。
すみません――
少しかがんでもらえますか?
あっ、ありがとうございます……!
よしよし……なでなで……♡
……やっぱり、お父さんみたいに、うまくできないな――。
私がいつもしてもらっている、うれしいことは――
こうして頭をなでてもらうことです♡
お父さんのそばにいると――
いつ、なでてもらえるかな……♡
って、ずっと気になってしまいます……♪
それから、学校やお家でのお話を、色々聞いてもらうことも、うれしいです♡
私のお話なんて――
お父さんにとっては、おもしろいかどうか、わからないけれど。
いつも笑顔で、“うんうん”って聞いてくれるから。
私もついつい、おそくまで話しこんでしまいます……♪
でも、あるとき。
満月の夜おそくに――
リビングでお話ししていたら。
お父さんの目が、かすかに紅く光って、様子が変わり――。
私を素早く――まるでお姫さまのように――かかえ上げて――。
声も上げられないうちに、私のお部屋へ運んでしまったの……!
お父さんはそのまま、私をベッドへ投げ捨て、おさえこんでしまう……!
私が何かを言おうと、口を開くと。
いつもは優しく、じっくり聞いてくれるのに――
このときは、さえぎるように、くちびるをふさいで――
――――!
ごめんなさい、今のなしです……!
当然、そんなこと――
今までありませんでした……。
本当に、一度も――
たった一度も、なかったもの――。
お父さんだって、よく知っていますよね……?
――すみません。
私はときどき、お話を書いていて――
こうして、日記とまざってしまうことがあるんです……。
よりによって、こんな大事な日に。
変なものをお見せしてしまって、本当にすみません……!
……変じゃない……って。
好きで書いているなら、はずかしがらなくていい――。
って、言うんですか……?
あ。
ありがとうございます……!
でも――
やっぱり変なんです!
だって、あの後、ふたりはずっと……♡
……。
しーっ……。
いけない。
また話しすぎちゃうところでした。
お父さんなら、どんなことでも聞いてくれそうに思えるから。
だから、いけないんですよ……?
ああ――
今日はお父さんに喜んでほしかったのに。
また私ばっかり、うれしくなっちゃうな――。
お父さんにも、自分のこと、もっとお話ししてほしい……。
私も、きっと――
どんなことだって聞いて、受け止められるから。
お父さんの全部を、受け入れるから――!
もっともっと教えてください……っ!
もしも、いつか――
お父さんが全部を話してくれて。
私が、ちゃんと聞けたなら。
あのお話の続きだって――。
最後まで、話せるかもしれません――♡