3月7日(月) 凛 「……結んであげる」
――おはよう。
まだ寝ぼけているかもしれないけれど、大事なことを連絡するから、よく聞いて。
今日からしばらく、理沙姉さんは少し早めに家を出るわよ。
期間限定で、朝も図書室を解放するとかで――
図書委員の仕事が入っているらしいの。
本の整理の手伝いもすると言っていたし、忙しいみたいね。
――というわけだから、あんたの朝のお世話をしてくれる人は、当分いないわよ。
ママも忙しいんだから、自分のことは自分でしなさいよね?
もっとも理沙姉さんも、朝のママのお手伝いは、しっかりしてから登校するみたいだし――
あまり影響はないと思うわ。
もちろん、私だってフォローするもの♪
――ただ、一つだけ、理沙姉さんから頼まれたことがあったわ。
……あんたのネクタイよ。
そう。
――あんたのネクタイを結ぶのを、手伝ってあげてって、言われてるの!
……まあ、仕方ないわよね。
翔子姉さんは、あんた以上にいい加減だし――
妹たちに、任せるわけにもいかないし。
朝のママは、ただでさえ一番忙しいんだもの。
私がやるしかないわ!
言っておくけれど、「自分でやる」というのはダメよ?
さっきは、自分のことは自分でしなさいと、言ったけれど――
ネクタイだけはダメ。
だって、前に自分で結んだネクタイ――
グッチャグチャだったじゃない!
理沙姉さんの助けがないと、ネクタイも結べないなんて――
本当にしようのない人ね。
身だしなみは、きっちりしてもらわないと困るわ。
あんたがだらしないと、娘の私たちまで、そう見られちゃうんだから。
……いつも言っていることだけれど。
だから――
ほら。
ネクタイを貸して?
今日はどれにするの?
毎日毎日、同じのばかり使っていたらダメよ?
そういうところも、見る人は見るんだから。
ええと――
少し、屈んでくれないと、結べないわね。
ひざをついてくれたら――
うん、大丈夫♪
……顔はあまり、近づけないでちょうだい。
まずはシャツのえりに、ネクタイを通すわね……。
うーん、やっぱり近い……。
――ちょっと息、止めてて!
髪に息がかかって、気が散るわ!
それから、次は――
回して、通して――
キュッ、と!
……そんなに怖がらなくてもいいわよ。
別に、締め上げたりはしないから。
最後に形を整えて――
よし、できた♪
理沙姉さんほど上手じゃないかもしれないけれど――
あんたが自分でするよりはマシでしょ?
ついでだから、スーツもとってあげるわ。
今日は、そのスーツでいいの?
……それだったら、ネクタイは別のにしたほうが、合ってたかも。
これは結構、考えがいがあるわね……。
って、何で私が、あんたの服装なんか気にしないといけないのかしら!
最低限、まともな格好をしてくれてたら、それでいいのに……。
――もう、バカみたい。
とにかく、しばらくは、こうしてネクタイを結んであげるから――
あんたも、しっかりしてよね!




