2月14日(日) 【3】 凛 「ギリギリチョコ」
……はい。
これ、あげるわ。
何って、バレンタインのチョコレートよ。
そんなこと、いちいち言わせないでちょうだい。
……そう、手作りよ。
一応ね。
だって、仕方ないじゃない?
みんなが作るって言うんだから。
私だけ抜けるわけには、いかないわよ。
言っておくけれど。
……本当は、言うまでもないことだけれど、一応言っておくわね?
――言っておくけれど、私があんたにあげるチョコは、義理も義理、それはそれはものすごーくギリギリのチョコで、何の想いもまーったく、こもってなんていないんですからね!
ましてや本命だとか、そんなことは絶対にあり得ないんだから!
……別に、本命の相手が他にいるとか、そんなんじゃないけれど。
とにかく、みんなに付き合って作っただけなんだから、ヘンなことは考えないでよね!
はい、ニヤケ顔禁止!
お礼も禁止!
ホワイトデーの3倍返しだって、絶対いらないからねっ!
そもそも私は、バレンタインに毎年、みんなであんたにチョコをあげていること自体、どうかと思うのよ。
ママがあげるのは、別にいいと思うけれど――
娘から父親にチョコをあげる必要なんて、あるのかしら?
あんたもうれしい?
娘からチョコなんてもらって。
……そう、うれしいの?
ふーん。
そうなんだ……。
――あ、そういえば。
チョコについて、もう少しだけ説明しておかないといけないことがあったわ……。
私のチョコは……できれば見ないで。
食べなくてもいいから!
捨てるのは……ちょっともったいないけれど。
そう、例えば誰かにあげるとか――
何なら、私がそのまま、持って帰ってもいいわよ?
……。
…………。
あー、もう!
いいわ、正直に言うわ!
私のチョコのかたち――
実は……ハート型……なの。
でも、違うからね!?
お家にあった、すぐに使える型がそれしかなくて――
それで仕方なく使ったのよ!
だってそうじゃないと――
私が自分の意思で、あんたにハート型のチョコなんて、渡すわけないじゃない!
ちなみに、味はちょっぴり苦めにしてみたわ。
あんたも、甘ーいチョコばかりじゃ、飽きるだろうし。
味のほうは、失敗していない……と思うから、もし食べるなら、安心していいわよ♡
本当は、どうせギリギリギリギリのチョコなんだから、山盛りの唐辛子を入れた超激辛チョコなんかでもいいかなと思ったけれど――
チビたちがつまみ食いしたらかわいそうだから、やめたわ。
でも実際に、唐辛子入りのチョコというのは、あるそうね。
もしあんたが、そういうのがお好みなら――
今後の参考までに、聞いてあげてもいいわよ?




