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ラグナロク

作者: うにお

我ながら感心しました

 塗装された道の両脇に木々が生い茂る郊外の山道。太郎は重力に逆らいながら自転車を走らせる。

 憂鬱でしかない激坂だが、登った後のご褒美を思えば頑張れる。息を上げ汗を垂らしついにたどり着いたてっぺん、眼に映る空は茜色に染まっておりそこからは宇宙の神秘を感じる。

 もう体の疲れは吹き飛んでいた、憂鬱も消え失せ全てが軽くなる、まるでどこまでも吸い込まれそうなそんな感覚。

 太郎は宇宙を感じると一種の高揚感に陥る、別名スペースハイ。かなりの頻度で発生し、その度に心身がリセットされる。

「宇宙は偉大だ、宇宙は俺を真空にしてくれる」

 もはやこのスペースハイを感じるために生きていると言っても過言ではない。日頃の疲れもこれ一発でクリアになる。

 太郎は暫く空を眺め、満足すると踵を返す。するとそこには妙齢の女性。

「ハローご機嫌いかが?私はファイン」

 ルー語を炸裂させるこの女性、一応知り合いだ。だが太郎にとって彼女は無益どころか被害を被る迷惑な存在、全くもって鬱陶しい。

「こんなところまで何の用だ、俺は宇宙を感じるのに忙しいんだ」

「もう終わったから帰ろうとしたんじゃないの?」

「まぁそうだが」

「ならいいじゃない、私はあなたに用があるの」

 女性はこちらに近づくと耳元で呟く。

「地球の植民地化が決まったわ」

「………やっぱりか…」

 何となくそんな気はしていた、しかしそうあって欲しくなかった。

「明日には作戦を開始するわ」

「もう数十年この地球を見てきた、確かに人間は地球を貪って来た愚かな存在だ。それでも人間には心がある、それを無下にするのは同じく心がある種族として許されざる行為なのではないか?」

「決まったことよ」

 彼女は元々この星に思い入れがない、だからこんなにサバサバとしているのだ。太郎はその逆、この星に住まう人間の可能性を見出している。

「言っておくけど、明日の作戦に私情を挟まないでよね。あなただけの問題じゃないんだから」

「……分かっている…」

「そう、なら宜しくね」

 彼女は空気の中に溶けて消えていった。

 太郎の拳は震えている、怒りを原動力とする力を与えられた太郎はそれを抑えようと空を眺める。しかし憤りは止まらない。

「許せ」

 右腕を天に向け力を解放する、眩い光が宙を刺す。摂氏1万度のレーザーはプラズマとなって空気を焦がす。辺りの木々は一斉に燃え尽き、地面は溶け出す。

 何も太郎は見境なしに解放した訳ではない。真上に滞在している宇宙船、光学迷彩により目に全く映らないステルス機を打ち抜いた。

 全長30キロに及ぶ巨大な円盤はその姿を現し墜落し始める。

 太郎はあの全てを蒸発させる為に、空気中の分子運動を光速化させ凄まじい熱を生じさせる。距離を問わないこの技は的確に宇宙船を取り囲み、外側から消滅させていく。

 そして茜の空を覆い隠した円盤はものの数分で消え失せた。

「すまないな、これが俺の意思だ」

 先ほど彼女に釘を刺されたばかりだったがそんなの関係ない、私情を挟むのは心がある限り仕方のないことだから。

 おそらくこのことは地球で大々的に報道される、人間の捜査力なら誰が破壊したのかもすぐに分かるだろう。その時はありのままを話す。

 太郎は再び踵を返す、足を踏み出そうとした所で足場がないことに気がついた。太郎は無意識に反重力で浮いていたのだ。

 見るとすっかり溶けてしまった山はドロドロと溶岩のように流れている。このままだと確実に町が壊滅する、よって処置することにする。

 空気中の水素と酸素を反応させ大量の水を作り出すと一気に流し込む。ジュワジュワと蒸発する音が鼓膜を叩くが、蒸発速度を上回る速さと量で押し込める。ものの数分で溶岩は固まり新たな地形が生まれた。

 だがまだうかうかしていられない。太郎は天を見上げる、太郎が反逆を起こした時に作動する緊急プログラム、虹の槍。

 見えはしないが感じる、凄まじい速度で地球に接近するエネルギー体を。

 太郎は反重力を解き放ち一気に音速で飛び立つ、体を包むプラズマ。空気中の分子を分解しながら突き進みオゾン層を超える、天に煌めく点が見えたと思った瞬間に二つのエネルギー体は衝突した。

 太郎はたった一度のチャンスを見出し思いっきり横に叩く、すると虹の槍の軌道は90度逸れる。光速で過ぎ去る虹の槍を尻目に太郎は新たな危惧を抱いた。

 先ほどの衝突でエネルギーが波情に広がり地球に刺激を与えてしまったのだ、これにより各地で天変地異が発生する可能性がある。

 抑える方法はただ一つ、エネルギーの相殺。しかしあのエネルギーを相殺するには虹の槍に匹敵するエネルギーが必要だ。

 宛はある、それは自らの消滅を代償にする。

 太郎は悩むことなく選択した。

 プラズマですら消えない自らのプロテクトを外しコアを露出させる、心臓部にある10センチほどのコアには平行世界を超えるエネルギーが詰まっている。

 太郎はそれを解放した。

 地球に被害がないように力をコントロールし、地球に広がった波エネルギーにぶつける。

 それは見事に相殺、同時に余ったコアエネルギーが行き場を無くし天に撃ち放たれる。

 それは太陽を打ち抜き年々衰えていた太陽活動を活発化させた、そして先にある星を次々と打ち抜き宇宙の果てに着いた時。平行世界へと踏み込んだ。

 形を無くし宇宙の一部となった太郎はもう一つの地球へと降り立った、そこである一人の少年に取り憑いた。

「君は誰?」

「俺は太郎、又の名をラグナロクだ」

少年と太郎の異世界構築が始まる。

よく読んでくれました、ありがとうございます。

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