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恋より愛より  作者: 水歩
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 ぼうっとしながらアメリとリザベラを待つ。ベッドの周りには何もなくて、正直手持ち無沙汰だ。横になって寝ちゃっても困るし。待つのにちょっと飽きてきたころ、部屋の扉が控えめに叩かれた音が聞こえて私は勢いよく「はい!」と返事をする。

「サラサ様、アメリです。リザベラを連れてきました」

「どうぞ、入って」

 部屋に入ってきたのはアメリと、腰に剣を下げた華奢な少年と、筋肉隆々の男。…うん?誰?

 私がその疑問を口にする前に、男はベッドの傍に来て膝を床につけて首を垂れる。

「初めまして、王女陛下。吾輩は王宮警備隊隊長、シーザー・リリアントと申す。リザベラを連れだすのに、吾輩もいないと信用ならないと言われたため、申し訳ありませんが、吾輩も同席させていただきたい」

「それ、は、構いません、が…何故、誰がそんなことを?」

 疑問をそのまま聞けば、シーザーは複雑そうな顔を、アメリと少年は口惜しそうな表情を浮かべた。ややあって、アメリが「ティノ様ですわ」とその名を口にした。

「ティノ様が、リザベラがサラサ様を池に突き落としたのではないか、と仰られたのです。それで今までリザベラは尋問を受けていました」

「…っ!?」

 そんな、私が見た人物は女性で、リザベラが私を突き落としたなんて絶対にありえないのに。むしろティノ側の人間という可能性のほうがよっぽどありそうだ。昨日ちょっと脅した恨みかもしれない。もしくは自分たちの悪事を知っているかもしれないから、排除しようとしたのかもしれない。私を殺そうとした理由までは分からない、けど。でもティノがやらかした可能性が高かろうに、本当に、あの男は!

 でもなぜ、リザベラなのだろう。私を助けたから、にしてはタイミングが良すぎる気もするし。たまたま通っただけだとしたら、なぜリザベラ?彼をはめることで、ティノになにか利益があるのだろうか。

 アメリもシーザーも難しい顔をする中、口を開いたのは少年だった。

「俺は大丈夫です。やっていないものはいくら問われようと、やっていませんから。ティノ様もいつかその事実を理解してくださいます」

「でも、リザベラ!」

「俺は大丈夫ですよ、母上」

 その言葉に頭の中で穴の開いたパズルがぱちぱちと埋まるのを感じた。あぁ、どうだ、だから。


 リザベラ・クレイズ。サラサを己の手で殺す程憎んでる攻略対象。それはその出自に理由があったのだ。

 リザベラの母親はアメリ・クレイズ。ティノのせいで失脚させられたクラーク・クレイズの一人娘。つまりリザベラはクラークの孫なのだ。

 ゲームの中のクラークはティノのせいで失脚させられていて、それは表向きはサラサの命令とされている。政界から追放され、他貴族の信用も失ったクラークは自殺してしまい、アメリも娘のように可愛がっていたサラサの裏切りに心を痛め、病んでしまう。この出来事はリザベラとミゼラの心の大きな傷を残す。そうしてリザベラはサラサに復讐をすることを誓う。祖父と母の仇を討つために。だから攻略するには彼の心の闇を理解して、深い愛情で包んであげることが重要となる。…今は、それは関係ないや。

 たぶん私を殺そうとしたのはティノの差し金だろう。あの手紙も多分そうだ。のこのこ来た私を殺して、その罪をリザベラに押し付けようとしたのだろう。昨日の会議で私がクラーク側をひいきしたのも、リザベラが狙われた原因かもしれない。クラークが家族を大事にしているのは、有名な話だから。

 ああでは何故、リザベラはあの時あの場にいたのだろう。そもそもそれが聞きたくてリザベラをここに呼んだのだ。

「リザベラ」

「なんですか、王女様」

「助けてくれてありがとう。あなたは命の恩人だわ」

「いえ、そんな…」

「それで、あなたに聞きたいの。…あなたはなぜ、あの時あの場にいたの?」

「…っ、それ、は…」

 私の問いにリザベラは少し迷う素振りを見せる。けれどアメリが咎めるように名前を呼べば、諦めたように答えてくれた。

「手紙が」

「手紙?」

「手紙が来ていたのです。庭園の奥の池へ来いと」

「そんなあからさまな罠に、なぜ応じた。…行く前に、吾輩に相談してくれればよかったものを…」

「申し訳ございません、隊長。…しかし、誰かに言えば、もし来なければ、妹の命を狙うと。そう書かれていたのです」

「妹…ミゼラ殿か?」

「…はい」

「そん、な」

 アメリが息をのむ。娘の命まで狙われていたなんて、思いもよらなかっただろう。

「リザベラ、話してくれてありがとう。それで…その手紙は、今?」

「はい。部屋に置いてあります」

「そう。…実は、わたくしも手紙をもらっていたの。庭園の奥の、池へ来いと。二人そろって罠にかかったのね」

「王女様も、ですか」

「ええ。…えっと、鍵」

 ポケットを探すが、今着ている服にポケットがない。きっと濡れた服は着替えさせられたのだろう。アメリに先ほどまで来ていた服のポケットから鍵をとって来て欲しい、と頼むとすぐに部屋を飛び出していった。彼女が戻ってくるまでに自分の知っていることを二人に話す。

「わたくし、見たの。わたくしを突き落としたのは、女性でした。リザベラではないことを、わたくしは知っている」

「王女様」

「わたくしがティノに話すわ。リザベラは犯人ではない、不当な尋問はやめなさい、と。…これで助けてもらったお礼になるかしら?」

「ありがとう、ございます」

 リザベラが頭を下げ、シーザーも同じ動作をした。

 しばらく待っているとアメリも戻ってくる。その手には鍵が握られていた。

「サラサ様、これですか?」

「アメリ、ありがとう」

 鍵を受け取ってベッドを出て、引き出しにかかっていた鍵を開けると、中に入っていた紙を取り出す。

「ティノのもとに、行きましょう。リザベラの無罪を晴らしに」

 私の言葉に、三人は困惑した表情を浮かべながらも、こくりと頷いた。


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