page7 サラサ・ミ―ラリア・マラリル
わたくしは、いったいどこで間違えたのでしょうか――…。
わたくしの名前はサラサ・ミ―ラリア・マラリル。ミ―ラリア国第七十四代目女王。…いいえ、元女王と言ったほうが正しいのでしょうか。わたくしはもうこの国の女王ではないのだから。
この国の民によって革命が起こされ、この牢屋へ閉じ込められました。わたくしは民を苦しめた元凶。きっと次外へ出るときは、わたくしは殺されるのでしょうね。民にとってわたくしはいらない存在でしょうから。
先王であるわたくしの父は、わたくしは幼い時に亡くなりました。当時は馬から落ちたとか、仕事中に倒れた、いや紅茶に毒を盛られた、などと様々な憶測が城内を飛び交いましたが、そんなことはどうでもよいのです。あまり父には興味ありませんでしたから。王としては立派だったそうですが。
父が亡くなった後、この国の伝統の通り、直系の嫡子であるわたくしが王座につきました。けれど政について碌な教育を受けていなかったわたくしの代わりに、政を行ったのはティノでした。わたくしはただ渡される書類に判を押し、行事ごとには着飾って民の前に出て、国を訪れる他国の方をにこにこ笑って迎えるのが仕事でした。難しいことはわたくしの管轄外なのです。民を苦しめた、国を腐敗させたのはお前だ、と御子様を連れたこの革命の主導者である彼はおっしゃっていましたが、悪いのはわたくしではありません。ティノですわ。
光源はずっと上のほうに取り付けてある窓から入る光だけのこの部屋は、なんだか薄暗くて仕方ありません。わたくしはいつまでここにいればいいのでしょう。はやく、外へ出たいですわ。
「おい」
声を掛けられそちらを見る。立っていたのは彼と御子様。彼は厳しい表情で、御子様は少しおびえたような顔でこちらを見ている。
…ああ、そういえば彼女が来てからすべてが変わりましたね。流石御子様、といったところでしょうか。
「外へ出ろ」
そういって牢屋の鍵が外され、小さな扉が開かれる。いまわたくしがここで二人を突き飛ばして逃げたら、どうなるのでしょうか。…考えて、すぐにやめました。ここから逃げたとして、わたくしには行くところがございません。この城だけが、わたくしの居所だったのですから。
二人に連れられてきたのは、城の前の大きな広場。真ん中には小さな櫓の上に大きなギロチンが設置され、その周りをたくさんの民たちが囲んでいる。
「皆のもの!我々を苦しめた元凶、サラサ・ミ―ラリア・マラリルだ!お前たちはこの者をどうしたい!」
「殺せ!」「殺せ!!」「殺せ!!!!」
民が叫ぶ。石や木の枝などが飛んできて体にぶつかる。傍にいる御子様に当たったらどうするのだ、と思ってそちらを見れば、彼女のことは彼が守っていた。そうね、味方などいないわたくしとは違うもの。石が頬に当たり、血が滲む。…いたい。
「サラサ・ミ―ラリア・マラリルに告ぐ!汝は国民を苦しめた罪として、首落としの刑とする!!」
ああ、やはり。誰のせいとか、もはや関係ない。わたくしが死ぬのは、決定事項。
腕をくくっていた縄を掴まれ、ギロチンの刃の下に地面を見るように寝かされる。あの刃が落ちてきたら、わたくしは死ぬ。そう考えたとき、わたくしの目からは一粒の涙が零れ落ちた。
わたくしは、いったいどこで間違ったのでしょう。やり直したい、全てを。
そして、わたくしの人生は終わった。