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暖かな日差しの元、私は馬鹿みたいに広い庭園の中をふらふらと歩いていた、本当はクラークの部屋を退室した後クランツのもとを訪ねたのだが、追い出されてしまったのだ。なんでも熱を出してしまったらしい。朝一緒にご飯を食べたときは元気だったのに…大丈夫かしら。
弟と遊べなくなり行くところもなく、仕方ないから自室へ戻ると、扉に白い封筒が挟まっていた。なぁに、これ。それを引き抜いて部屋に入る。室内に置いてあるソファに座ってその封を切る。中に入っていたのは紙切れ一枚。他には何も入っていない。折りたたまれたそれを広げれば、書かれていたのはただ一言。
『庭園の池にて待つ』
すっごい怪しい。むしろ怪しさしかない。送り主の名前はなく、ただ用件だけを書かれたそれに従うのは躊躇われる。でもこの手紙に従ったら何が起こるのかすっごい気になる。
迷った末にそれに従うことにする。時間はかかれてないから、適当にふらりと行ってふらりと帰ろう。そのミスは私のせいじゃないし。手紙は鍵のかかる引き出しへと仕舞い、鍵だけを持ったまま庭園へと向かった。
クランツを産んですぐに亡くなった母様はたいそう好きだったらしく、庭園には色とりどりの季節の花々が咲き誇り、いつ来ても綺麗に整えられて目を楽しませてくれる。一日至って見切れないくらいの沢山の花。
美しい花々の間を私は一人、考え事をしながら奥の池へと向かう。頭を占めるのは先ほどのクラークへのお願い事。私に絶対の忠誠を誓ってくれる人物。あ、でも忠誠はいいかな。ただ嘘を言わなければいい。嘘で塗り固められた情報なんていらない。この城のこと、この国のこと、本当の情報が欲しいのだ。…それだけの能力がある子が、スラムにいるのかな?クレイズ家の教育にもよるかな?
考えているうちにいつの間にか、庭園の奥の池についた。池というよりは湖と言ったほうが正しいくらいの大きなものだ。ここに呼び出したんだから、近くに呼び主がいるかときょろきょろ見回してみるが、人影はない。暇なので私はその湖畔に座って水面をのぞき込む。
水面に映るのは、ふわふわしたストロベリーブラウンの髪に、鮮やかなルビー色の瞳を持つ女の子。…私自身であり、ゲームで見たサラサ・ミ―ラリア・マラリルの姿。ゲームの立ち絵姿から可愛らしい人だったけど、幼いとさらにそれに拍車がかかる。くっそ、美少女は幼い時から美少女なんだな、羨ましい。
そんな風にもちもちほっぺたをぐにぐに触りながら水面を見ていたせいで、私は周囲に一切気を配っていなかった。それが、いけなかった
不意に太陽の光がさえぎられて体に影が落ちる。水面の私の後ろに、誰かが映り込んだ。
「え」
振り返ろうとした瞬間、どん、と背中に強い衝撃を受けて、私の体がふわりと揺れた。
バランスを崩した体を立て直すことができず、そのまま顔面から池へと突っ込んだ。慌てて何かを掴もうと手を伸ばすが、その手は空を切り何もつかめなかった。
突然の出来事で頭が追い付かない。ええっと、つまり、今現在なうで殺されかけてる?うそぉ!?
お姫様風なひらひらふわふわのドレスが水を吸って、体を底へ底へずぶずぶ沈ませる。やばい、これ死ぬ。泳ごうとしても、前世今世含めて着衣水泳なんてしたことないから、どうしたらいいのかわからない。足をばたつかせても、重たくなったスカートが足に纏わりつくだけだ。うそー、うそぉ、こんな幕引き想像してなかったよ!?こんなところで死んじゃうの、私は。
だんだんと意識が朦朧としてくる。やだよ、こんなところで死んじゃうなんて。まだなにも、できて、ないのに…。
私の意識は、そこで途切れた。
クランツ本体がなかなかでーてーこーなーいー