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恋より愛より  作者: 水歩
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「王女殿下、こちらの部屋です」

 シーザーとリザベラに連れられて来たのはこげ茶色の扉の部屋。同じ間隔で同じ扉がいくつも並んでいるから、小さな部屋がいくつかあるのかもしれない。アメリには用事を頼んだので、別行動だ。

「ティノ殿、戻りました」

「早く入れ。いつまで待たせるつもりだ」

 中からティノの声がする。わー、自分よりも下の人にはすごい偉そうだなぁ、あの人。いつもそうなのか、シーザーもリザベラもあまり気に留めた様子はなく扉を開けた。私はスッとシーザーの陰に隠れた。普段のティノがちょっと見てみたいから。

「遅くなりました」

「本当にな。母君と結託して逃げたのかと思ったぞ」

 ハッと意地悪く鼻で笑う。私が呼び出したのに、アメリが逃がしたとでも思っていたのか。リザベラは何も言わなかったが、ぎゅっと拳を握ったのを私は見逃さなかった。そうだよね、嵌められただけだもの。でもそんな彼の様子に気づかないまま、ティノは言葉を続ける。

「さぁ、早く白状してもらおうか。サラサ様の命を狙ったと、その手で池に突き落として、助けて、恩を売ろうとしたと」

「ティノ」

 聞いていられなくて、シーザーの陰から姿を見せる。それまで意地悪く笑っていたティノの表情が、驚愕で染まる。

「サラサ様…!?お体は大丈夫なのですか?」

「ええ、おかげさまで。リザベラが助けてくれたおかげよ。本当にありがとう」

「いいえ、騙されてはいけません。その男は貴女を殺そうとした犯人なのです」

「なぜ頑なにティノ殿はリザベラを犯人に仕立て上げようとするのだ」

「明らかに怪しいだろう。なぜあの何もない池に、タイミングよく居たのだ?それともなんだ、貴様は普段からあそこを散歩するのが趣味なのか?そんな話聞いたことがないがなぁ!」

 ティノの手下なのか、部屋の中にいた何人かの騎士が品悪く笑う。クラークやリザベラの着る騎士服とは少々色が違っているから、別の部署の人間なのだろうか。仲も悪いのかもしれない。気のせいかもしれないけど、シーザーとティノの間に火花が飛んでいるように錯覚する。…そろそろ、目的を果たさないと。

 二人の間に割って入って、口を開く。

「聞きなさい。わたくしもリザベラも何者かに嵌められたのです」

「嵌められた?」

「ええ。わたくしもリザベラも、何者かの手紙の指示に従ったまで。リザベラは脅されていたので、従うほかなかったのです」

「リザベラの法螺なのでは?」

「いいえ、その証拠に…」

 ちょうどその時扉が叩かれ、返事をする前にアメリが部屋へ入ってくる。

「サラサ様!持ってきました!」

 アメリの手には封の切られた手紙が握られている。それを受け取り、さっと目を通す。内容はリザベラに聞いた通りのものだった。自分の物と並べると、筆跡が同じだ。やはり同じ人物が書いたのだろう。

「それが、証拠ですか?…アメリ殿が書かれたのでは?」

「そんなことしていません!」

「信用ならないのならば、この場で同じ文章を書かせればいいわ。…それに」

 そこで一呼吸置く。この空気にちょっと疲れてきたから、早く終わらせたい。四歳児は体力がない。

「わたくしを突き落としたのは、女性でした。そうね、あの服は…厨房のメイドじゃないかしら」

 そう伝えれば、少しだけティノの顔色が変わった。…気がする。一瞬だったから、気のせいだったのかもしれない。

「ねぇティノ…わたくしを殺そうとした犯人を捜してくれたことは、とても感謝している。けれど…無実の人間を疑うのはよくないわ」

 思ってないけど。犯人がティノじゃないかってめちゃくちゃ疑ってるけど。でもあんまり喧嘩売ることばっかり言っていると、また命を狙われそう。

 じぃっと見つめていると、ティノはすぐに目をそらして、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「貴様らにはもう用はない。まったく、紛らわしいことをしやがって…仕事に戻って、構わん」

 紛らわしいって…勝手に嵌めて勝手に疑ったのはティノなのにね。けれどシーザーもリザベラもなにも突っ込まずに、無言で敬礼をすると部屋から出ていった。アメリもそれに続く。私も出ていこうかな、と考えていたら「サラサ様」と背中から声を掛けられた。

「明日は送空式ですね」

「ええ。フォース王との最後の別れです」

「無事に終わると、よいですね」

「…本当に」

 初めての公務だし、父様とのお別れだし、本当に、何事もなく終わってほしい。具体的に言えばティノにはじっとしていて欲しい。

 そんなことは口には出さず、部屋を出る。

「王女様」

 出たところでまた声を掛けられ、思わず背筋が伸びる。声のほうを見ればそこにいたのはリザベラだった。先に出ていったはずだったのに、まだいたんだ。

「どうかしたの、リザベラ」

「助けていただき、ありがとうございました。王女様が信じ、証言してくださらなければ、俺は捕らえられたままだったと思います」

「いえ…お礼を言うのはわたくしのほうだわ。命を救っていただいたのだから」

「…本当に、感謝しているのです。この御恩は、一生忘れません」

 そういって丁寧にお辞儀をすると、リザベラはそこから立ち去っていった。…今回のことが、何かのフラグになったりしないかな。そんなことをぼんやりと考えながら、私は自室へと戻ることにした。


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