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私には今と違う人生の記憶がある。俗に、前世のものと呼ばれるであろう記憶。
…突拍子もないことを言ってる自覚はある。でもどうか笑わないで聞いてほしいのだ。
前の私は、所謂女子高生であった時にその人生を終えた。理由は多分事故。信号を渡ろうとして猛スピードでこちらに突っ込んでくる車に轢かれた。それまで積み上げてきた生などなかったかのように、あっさり、ぽっくり、私の人生は終わった。
まぁ、それはいい。かろうじて、どうでもよい。過去は過去、今は今なのだ。振り返って悔やんだって、過去は戻ってきてくれない。
それよりも私は、過去よりもこれからの未来を見なければいけない。
ここで今の私の話をさせてほしい。
私の名前はサラサ・ミ―ラリア・マラリル。ミ―ラリア国の第一王女で、この国の王位第一継承者だ。
この国は日本とは違って、その血の濃さで王座に就くものが決まる。そこには性別も老若も関与しない。王の直系で長子であることが重要なのだ。だから現国王の父の長子である私が次に王冠を戴く。
そしてそのせいで私は死ぬ。私の死を望む者たちによって殺される。そう決まっているのだ。
なぜまだ四歳でしかない私が自分の未来のことを知っているのか。答えは簡単。
この世界は、私が前世でプレイした乙女ゲームの世界だからだ。
***
前世の私の趣味はゲームをすることだった。ジャンルは何だってやった。RPG、アクション、ホラー、シューティング、音ゲー…乙女ゲームも数あるうちの一つだった。もっともイケメンに愛を囁かれるというのがあんまり性に合わなくて、たった一作しかやってないけど。その代わりにたった一作を結構やりこんだけど。それはともかくとして。
そのたった一作。その一作が、今いる私の現実世界だ。
世界観は至って普通。異世界の危機のために日本から召喚された女子高生が、『御子様』として、周りにいる男を落としながらその世界の危機を救う話だ。この男を落とすことが国の危機を救う。何故か。
それは、ヒロインに落とされた男は子の国の腐敗の原因を打ち砕く革命を起こす、主導者となるからだ。そして、その腐敗の原因は私…サラサ・ミ―ラリア・マラリルである。まぁ、一概にサラサのせいだとは言えないのだけれど。
前述したように、この国は血の濃さが重要である。年齢よりも、性別よりも、何よりも。きっと、この制度がいけないんだ。
サラサ・ミ―ラリア・マラリルの父、フォース・ミ―ラリア・マラリル。彼は民のことを一番に考える良き王であった。民が飢饉に苦しめられればその年の税は減らし、後から請求することもない。自身も贅沢を嫌い、周囲にもある程度の品位は保ちながら、質素倹約を心掛けた。とても良い人だった。しかしそれが、全てを良い方向へ導くとは限らない。それをよく思わない人だっているのだ。
結果、王は周りの人間によって殺された。ひどすぎる。
そしてその跡を継いだのがサラサだった。四歳になったばかりの幼子。
そんな子供が政など行える筈がない。彼女は傀儡として利用されてしまった。勿論、先王から仕えている真っ当な人たちもいた。その人たちが手綱を握れていれば、革命なんて起こるような状態にはならなかったのかもしれない。しかし彼らは虚偽の罪をかぶせられ、新しい女王の傍から排除された。勿論やったのは悪い人たちだ。悪事に関してはいくらでも頭の回る人間はどこにだっている。そうしてクズな人間たちに託された国の政治。当然上手くいくはずなんてなかった。
先王の時代が嘘のように国は内からボロボロになる。民の苦しみには気づかず、自分たちは豪遊するお偉いさん。現実を見ず、何も言わない女王。
そこに待ったをかけるのが、御子様であるヒロイン。
そして彼女に感化され、国の腐敗を壊そうとするヒーロー。
そして彼らの革命は成功し、悪人は排除され、悪の権化である女王は処刑される。ヒロインとヒーローは国を立て直すことを誓い、光輝く未来を夢見てゲームは終わる。
それはいい。恋だの愛だの、どうぞ好きにしてください、だ。私の管轄外だし。問題はそこではない。
私は、処刑されるのだ。簡単に言えば、殺されるのだ。新しい国の礎として。
そりゃそうだろう。公には民を苦しめた元凶である女王が何のお咎めもなしにのうのうと生きてるなんて、許されることではない。
理解はできても納得のいくことではない。
だって殺されることが分かってる人生なんて何の意味がある?そんなの絶対ごめんだ。前だって高校生で人生終わったのだ。早死にを繰り返しまくるなんて、嫌すぎる。
だから私は足掻いてやる。足掻いて、そんな未来は回避するのだ。絶対に老衰とかで死にたい。子供や孫に見守れて穏やかに逝きたい。殺されるなんてまっぴらごめんだ。
私の老衰の未来のために、一番最初に回避しなくてはならないのは父親の死だ。そこからサラサ女王としての人生は始まるのだから。
しかしそれはもう既に不可能である。
だって私が前世のことを思い出したのは、父親の亡骸に対面したついさっきだもの。
……この人生、もしかして既に詰んでる?