表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第6話 不安な協力者


 罪の意識に苛まれるのを回避するかのように現実逃避をする俺を助けるかのように甲高い声が後部座席からした。


「ちょ、ちょっと!これもドッキリな訳!?」

「スタッフさん!やり過ぎなんじゃないの!きらりん怖がってるじゃん!」

「怖がってはないし!てか、きらりんって呼ぶなっ!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、朝のギャル二人がいた。

 まだこの状況をドッキリだと思っているようだ。平和ボケにも程があるな。というか、うるせぇ。


「って、朝の変態野郎っ!」


 振り向くんじゃなかった。


「うるせーカツアゲ女」

「あれは正当な慰謝料の要求でしょ!つーか何なのこの状況!銃声は聞こえるし倉庫は崩れるしで!アメリカってこんなにスケールでかいドッキリやるんかよ!」


 いや……、俺に聞かれても困るんだが。俺もついさっき聞いたばかりだしたな。

 まぁ路上でサブマシンガン連射するドッキリやるくらいの国だからな。やらないとは言い切れんが。

『頼む……』という目で凛を見ると、ニコッと微笑んでくれた。意味は伝わったようだ。


「きらら、せーら、巻き込んじゃってごめんね……落ち着いて私の話を聞いて」

「って、誰よアンタ!?」

「金髪ロング……希とかぶってる」


 あぁ……仕方ないわ、これは。

 こいつらにとっては凛は黒髪の日本人だからな。


「私だよ! 柘榴石(しゃりゅうせき) 凛!」

「嘘だなっ!確かに凛は4月のテストで国語8点なのに英語は100点だったけど日本人だ!」


 いや、それはさすがに疑うだろ普通。

 つーか 柘榴石って何だよガーネットを漢字にしただけじゃねぇか。読み方もシャリュウセキってお前あれか、第8○ールだったりすんのか。


「まぁまぁ、きらりん落ち着いて……じゃあ、本当に凛ならこれに答えられる筈だよ!きらりんの男性経験は何人?」

「0」

「あ、凛だ」

「おい聖羅、私が納得いかねぇんだけど」


 どうやら解決したようだ。

 ……つーかこの金髪、ビッチっぽいのに処女かよ。


「おい、貴様」


 あ?貴様って名前の人間はここにはいないはずだが。


「貴様だ、貴様」


 カルベルがこちらをにらみつけている。

 何だよこの『俺だよ、俺』みたいな。


「海瀬でいい」

「私は貴様と馴れ合うつもりはない。海瀬純輝」

「あっそ」


 ……だったら最初から貴様じゃなくてフルネームで呼べや頭でっかちのコミュ障野郎が。


「聞きたいことがある」

「お友達の作り方か?悪いがお前には無理だと思うぞ」

「黙れクソジャップ、風穴を空けられたいか」


 やっべぇ、マジでこの拳銃で撃ち殺したくなってきた。


「貴様、実戦経験はこれが初めてか?」

「そうに決まってんだろ、FPSもカウントしていいなら別だが」

「やはり、異常だな」


 何がだ。お前らの国の肥満率がか。確かに異常だな?


「秘密諜報局の奴らは相当に鍛えられている。戦闘だけが能のような奴らだからな」


 お前にだけは言われたくないだろうよ……


「だが、貴様はあのリーダーが撃つよりも早く、拳銃を取り出し奴を撃った。しかもその後に撃った3発も全弾命中だ。これは普通のことではない、異常だ」

「見てたのか」

「ああ。ミラーでだがな」

「そうかよ、だが、奴への距離はそこまでなかった。全弾命中くらい普通だろう」


 俺がそう言うとカルベルは呆れたような顔をして、煙草に火をつけた。


「ちょっと、カルベル!今こっちは説明に必死なんですよ!煙を撒かないでください!そもそも車内でタバコは禁止って言いましたよね!もうっ!」

「は、はい!すいませんお嬢様!」


 凛の叱責に、慌ててカルベルが手でタバコを揉み消す。

 強いんだか弱いんだかよくわからない奴だなこいつは。


「と……とにかくだな。普通はあの距離とはいえ、即座に照準を定めて当てることなどできない。それも片手では尚更な」

「それは褒め言葉と受け取っていいのか?」

「好きにしろ。それにな、普通の一般人はあんなに躊躇なく、人を撃つことはできない」

 ……あまり嬉しくないんだが。

 まるで俺が一般人じゃねぇみたいな言い方しやがって。

 それに、俺はあいつを殺してはないない。確かに動けなくはしたが、あいつが死んだとしたらそれは崩れてきた倉庫のせいだ。俺は殺してない。

  ……少なくともそうやって目を背けようとしている分、一般人だとは思うのだがな。


「お……おっけー……驚くこといっぱいだったけど、大体わかった」

「良かった……、きらら中々信じてくれないんだもん」

「いやいや……いくら純粋な希でも友達が外国のお嬢様、しかも大統領の子供だなんて、早々信じないって。……てかウチも未だに半信半疑だし」


 こっちの説明も終わったようだ。


「とりあえず、ウチと聖羅がそいつらぶっ潰せばいーんだよねっ!」

「ええっ!?」


 あ、ダメだこいつ全っ然わかってねぇわ。


「大丈夫だよっ!希は空気抵抗がないぶん動き速いんだからっ!」

「聖羅どこ見て言ってる、おい」

「だ……だからっ!そういう問題じゃなくてですねっ!」


 凛が困ったような表情でこちらを見ているのがミラー越しにわかる。

 こ……これは助け船を出すべきなのか?よしっ!


「お前なぁ……胸の大きさがどうたらとかその前に『愛着』低いだろうが」

「なっ、うるせぇ!今朝見といて偉そうにっ!大体お前こそNBW持ってすらいないじゃんか!」


 ……今朝のは不可抗力だ。

 大体、俺の毎朝御用達のショートカットルートで着替えてるのが悪い。


「見たくて見たんじゃねぇよ、それに俺はこいつらに頼まれて手伝ってんだ。文句を言われる筋合いはないぜ」

「ええっ!?凛!こんなやつに頼んだの!?」

「う……うん。海瀬さんカルベルより強いんだよ?ねっ、カルベル?」


 おいおい、それをカルベルに聞くのはどうだよ凛さんよ……俺がカルベルの立場だったらすげぇ苛つくぞ。


「そ……そうですねぇ……まぁ負けましたしね、一応、はい。手加減はしましたけどねぇ…………クソが」


 ほら明らかに苛々してんじゃねでか。ハンドル強く握りすぎてミシミシ言ってるじゃねぇかよ。しかも最後『クソが』って言ったよなこいつ。


「ほらねっ?」

「うーん……そんな強そうには見えないんだけどなぁ」


 大きなお世話だ。俺もお前らが処女には見えねえよ


 ところで、連中をまいたはいいものの、一体どこに向かってるんだ?


「おい、カルベル。逃げるあてはあるのか?」

「当たり前だ。今までは日本人と偽って身を潜めていたが、連中が襲ってきたということはこれまでの潜伏先はとっくに割れているはずだ。廃ビルの地下に緊急用の潜伏先を手配してある。そこには協力者もいる。早々踏み込まれないはずだ」


 日本人として……って、凛だけでなくカルベルも普段は黒髪にでもしてたっていうのか?少し笑えるな。


「貴様、何をニヤニヤとしている」

「いいや、何でもねぇよ」

「ならば不必要に笑うな、気味が悪い」


 けっ……面白味のねぇ奴だ。お前の茅部さんに対する営業スマイルの方がよっぽど気味が悪かったつーの。


「そろそろか……」


 カルベルがラジオの下についたマイクのようなものを取り出した。……無線か?


「聞こえるかアメリア。そろそろそちらに到着する。そちらの状況はどうだ?」


 アメリア……協力者か、名前からして女なのだろう。


『こちらアメリア、潜伏先はビルごと爆破されました。現在敵部隊から逃走中です』

「は?」


 いやいやいやいやいや…………は?

 これはカルベルのリアクションに同意せざるを得ない。


「何故連絡を入れない!貴様に私た無線は何のためにあると思っているのだ!」

『申し訳ありません。応答することはできても、私からかける方法がわかりませんでした』

「クソッ……貴様が機械に異常に疎いというのを計算に入れていなかった」


 凛も呆れた顔をしている。ギャル二人は苦笑いするしかないようだ。


「そういえばアメリアはスマートフォンを渡した時も電源の付け方からわからないで、終いには真っ二つに割ってましたからね……」

「凛、それ機械オンチってレベルじゃないよ原始人だよ」

「あ……ありえねー」


 この完全情報化社会の時代にまだそんな人間が残っていたとはな……今や電車の優先席に座ってるじいさんばあさんだってスマホいじってるっていうのに。


「くっ……潜伏先のあてはもうないぞ!」

『富士の樹海なんてどうでしょう。誰にも見つからないと思いますよ』

「貴様一人で行ってろホモ・サピエンス」

『酷いですね。これでもインターホンは使えるんですよ』

「もう黙ってろ……クソが、どこかないか」


 カルベルがバンのナビを操作する

『 目的地検索 隠れ家

  

 該当する場所が見つかりました

 

 ・隠れ家レストラン ラビット

 

 ・大人の隠れ家BAR sine

 

 ・ピンクサロン フタリの隠れ家…………………………………………』


「見つからないかっ!」


 当たり前だ。どんだけテンパってんだよ。

 出たとして市販のカーナビで出るような隠れ家なんて隠れ家じゃねぇよ。


「どこでもいい……奴らが全くマークしてないなくて、信用できる者が管理している場所があれば…………ん?待てよ……?」


 カルベルがこちらを見てくる。

 やめろ、嫌な予感しかしない。


「貴様、家はどこだ」

「家なんてない。毎日公園を転々としてる」


 家を提供するなんて絶対に御免だ!さっき爆破されたとか言ってたじゃねぇか。


「嘘を吐くな」

「嘘じゃねぇ、俺の主食は雑草と公園の水道水と拾った段ボールだ」

「安心しろ、安全は保証する」

 

 そう言ってカルベルは俺のこめかみに銃を突き付けてきた。

 この時点で安全な気がしないんだが。つーか何丁持ってんだよこいつ。


「カルベル!海瀬さんに無理言わないの!私なんかが家にお上がりしたら迷惑に決まっているでしょう!ね……海瀬さん……?」


 ぐおっ!何だこの威力は!

 考えてみろ、俺の家に受け入れるということは凛と一つ屋根の下だぞ。『あんちゃぁ~ん』だぞ。

 いやいやいやいやいや、冷静に考えろ、俺。ついてくるのは凛だけじゃない、この憎たらしいファッキン野郎もだぞ。


「貴様がどうしても不安だというのなら私が玄関先で見張っていよう。お嬢様の為ならそのくらいはする」


 おい、マジか。さんひくいちはー?にー!つまり一つ屋根の下、凛と二人っきりってことか!妹は林間学校でいないし、これはひょっとするんじゃないか!


「仕方ねぇな……その代わり危険がないように見張ってろよ」

「チッ、貴様に命令されるのは癪だが従ってやる」


 よっしゃあああああああ!!!イベントフラグ来たぞこれ!!!


「あ……ありがとうございます。海瀬さん」

「気にしないでくれ、ホワイトハウスに比べたら狭苦しいとは思うが、勘弁してくれよ」

「いえっ!いいんですっ!あそこは……広すぎて寂しくなるくらいですから」


 凛の目に何か暗いものが見えた気がした。尋ねたいのは山々だが、今することではないだろう。……今日は時間があるだろうしな。 夜も修学旅行的なテンションで色々話せるかもしれん。


「ちょっと待って!凛一人じゃ心配なんだけどっ!私達も付いていく!」

「そうだよ!ウチらいつも一緒なんだから!」

「せーら……きらら……」

 

 この貧乳偽金髪ギャルが……っ!余計なこと言うんじゃねぇ!


「気持ちはありがたいですが、お嬢様の友人を危険な目に合わせる訳にはいきません。ご自宅まで送っていきますのでお教え下さい」


 そうだっ!そうだよな!たまには良いこと言うじゃねぇかギザ男!ん?でも今危険とか言わなかったか?こいつ。話が違うぞコラ。


「こんな奴と二人っきりの方が危険だと思わない!?凛の貞操が危ないかもしれないじゃん!」

「……確かに、お嬢様の美貌にこいつが発情しないとも限らんな」

「テメェら好き勝手言いやがって……」


 あながちあり得ないとも言えないのが辛いが。


「わかりました。お二人のご好意を無駄にするのも失礼ですし、許可しましょう」

「俺が許可してねえんだけど」


 ふざっけんな!!!

 俺はギャルみてえな頭空っぽのクソビッチが一番嫌いなんだよ。

 どーせ『レディーファーストだしぃ~』とか言い出してベッドと布団を占領するに違いない!俺は廊下や風呂場で寝るのは御免だぞ!


「海瀬さん……ダメですか?私としても友達二人がいた方が心強いっていうか……お願いできないですか……?」

「い……いや」


 くそっ!こんな上目遣い反則だろ!断れないに決まってるじゃねぇか!


「わかった……許可しよう。だが、条件がある。部屋に文句を言うな。NBWをむやみやたらに取り出すな。部屋を荒らすな。家主を無下に扱うな。宿題やれ。歯を磨け。ビッチ臭を振り撒くな。わかったな?」

「なんか最後の方意味わかんないのとムカつくのが混ざってた気がするんだけど」

「嫌なら庭で寝させる。以上」

 

 これでいいだろう。

 カーナビに自宅の住所を入力する。


「ほらカルベル。これでいいだろ?」

「ああ」

「それで聞きたいんだが、何故お前の重量を強める能力があいつらには効かなかったんだ?」

「単純に耐圧装備を身に付けていたのだろう。NASAかどっかの最新テクノロジーのな」


 NASAだ……?おいおい、確かにあそこは子供達に夢を与える仕事から地球滅亡の予想までやってるが、そんな暗部まであるのか。


「あれでも甘い方だ。リフレクター使用者が混ざっていなかっただけ運が良いだろう」

「まぁお前みたいな訳のわからない呪文を唱える奴が何人も現れられても困るしな」

「黙れ、言いたくて言ってるのではない。貴様らのNBWとは違いこちらは詠唱が不可欠なのだ」


 にしちゃ言い慣れてるしノリノリに見えたがな。

 だが、一度目に俺と戦った時の詠唱と襲撃の時の詠唱は違かったような……短縮ができるのか。


「それで、そちらはどうだ?アメリア。逃げ切れたか?」

『いえ、逃走は不可能と判断しましたので、制圧しました』

「……できるなら最初からしておけ」

『無駄な戦闘は避けたかったので』


 制圧……?声を聞いてる限り俺とそう年の変わらない普通の女の子にしか思えないが。

 アメリカ人ってのは全員軍隊訓練でも受けてるわけじゃないだろうに、どっかの隣国とは違ってな。


「アメリアは機械オンチですが、その代わりある格闘術に精通しているんです」


 俺の様子を見かねてか、凛が耳打ちしてきた。……顔が近い。大丈夫か俺、耳とか赤くなってないだろうか。


「なるほどな……そのアメリアってのも凛のSPか何かなのか?」

「いえ、アメリアは召し使いです。アメリアがいれる紅茶は美味しいんですよ!」


 召し使い!? なんで召し使いが格闘術に精通してやがる。余計に訳がわからなくなったぞ。


『そちらの場所を教えて下さい。合流します』

「教えるも何も、無線にマップ機能はついてないぞ」

『大丈夫です。住所さえわかれば自力で合流します』

「たっく、貴様は有能なのか無能なのか」

『私はリフレクターを所持していないので無能ということになるかと』

「そういう意味ではない、まぁいい。住所を読み上げるぞ。よく聞いておけ」


 カルベルがカーナビを操作し、俺の家の住所を読み上げる。俺の個人情報がどんどん漏れていっているような気がするんだが……


『了解しました。速度と隠密性どちらを優先しますか?速度を優先する場合、人的及び物的損失が起きる可能性がありますが』

「隠密優先で来い。そろそろこちらは到着する」


 そういえば見慣れた景色が見えてきた。

 普段通って慣れているはずの道だが、状況が状況だからか、違う町に来てしまったかのように感じる。


 いや、もう違う町なのかもしれない。


 誰も知らない。知らないんだ。


 この平和な世界の水面下で、戦いが行われてること。


 命が失われていっていること。


 何も、知らないんだ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ