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第4話 仕組まれた事件



「やったか……?」



 勿論、この程度で奴を倒せたなどとは思っていない。

 自分への問いかけであり、心に一段落を持たせるための一言だった。

 それに大体、アニメや漫画でこう言う時はいわゆるフラグってやつなのさ。


 カルベル本人が攻撃を受けた為か、重力がいつもの感覚に戻った。

 いきなり加えられた重圧に、またも意識が遠のきそうになるが、足を踏ん張り、耐える。


 当然と言えば当然だが、ガラスの破片などは落ちてこない。

 改造してあるとはいえ、市販されているガスガン、しかも重力で何倍にも威力の弱まったBB弾だ。

 ヒビが入っているとはいえ、ガラスが割れる訳がない。

 というかガラスまで弾が届いたかすら怪しいくらいだ。 

 一か八かのハッタリだったが、反撃を予想していなかったカルベルには冷静に判断する余裕などなかったのであろう。


 鉄パイプを拾い上げ、倒れこんでいるカルベルへと迫る。

 さっきの衝撃で多少曲がってはいるが、止まっている肉塊を殴打するには十分だろう。


 アニメや漫画の主人公なら、ここでトドメはささないだろうし、下手したら手でも差し伸べるのだろう。


 だが、やはり俺は主人公でもなんでもない。


 今回の一件でますますそれを自覚させられた。


 命を狙われたんだ。殺しはしないまでも両手両足を動けなくするぐらいにまで抵抗力を無くすというのは当然だ。

 これでも、今の俺の中では甘い選択だと思うのだが……


「うっ……」


 苦痛に顔を歪ませつつも、起き上がろうとするカルベル。

 その無防備な背中に向け、俺は鉄パイプをーー


「やめて!」


 振り下ろす直前、聞こえたのは女の声だった。


 声のした方に振り向くと、今朝のギャル三人組のうちの一人、つまりは人質であるはずの黒髪ロングの女の子が立っていた。


「何で止めるんだ、あんたはこいつに誘拐されたんだろ?」


 至極当然な疑問をぶつける。

 俺が彼女の立場だったら、自分の手が汚れずに済むのなら、こいつを殺して欲しいぐらいに思うだろう。


「違う……違うの!話を聞いて!」


 彼女の声色や表情は、けして冗談のそれではなく、何か特別な事情があるということを感じさせた。


「わかった、聞かせてもらうとするさ」


 いつの間にか自分の声が軽く、いつもの調子に戻っていることに気付いた。

 相手が女の子というのもあるのか、緊張の糸が解けたようだ。


 俺はカルベルに攻撃の意志が無いことを確認すると、一先ず彼女の話を聞くことにした。


 慣れない動きをしたせいか、服は汗で濡れ、手足には痺れるような感覚が残っていた。




--------------------




「ごめんなさい……今回のことは全部、私とカルベル、二人で仕組んだことなの」


 開口一番、彼女はそう言った。

 ……正直、訳がわからない。

 これがアニメや漫画であったなら、今、俺の頭上では複数の『?』が跳ね回っていることだろう。

 聞きたいことは山ほどある。


「あー、まずさ。あんたは日本人だろ?そこのヤバいアメリカ人と関係があるようにはとても見えないんだが」

「…………」


 その質問に、彼女は答えることはなかったが、代わりに髪に手をあてると、そのまま強く引っ張った。


 すると、どうだろうか。

 黒い髪はただの毛の塊となって床に落ち、代わりに綺麗なブロンズの髪が表れたではないか。


「私の名前は、エイラ=凛=ガーネット、父はアメリカ人です」


 最近のウィッグってのはすごいらしい……場にも合わずそんなことを考えてしまう。

 これなら俺もいっそウィッグで黒髪にしちまうか。


「それで……エイラ=凛……」

「凛でいいですよ」


 男女がいきなり下の名前で呼びあうというのには少し抵抗を覚えるが、考えてみれば凛ってのはミドルネーム的なものなのだろうか?

 まぁ、それはさておき、とりあえず俺も名乗っておくことにしよう。


「俺は海瀬純輝、えっと……凛、それじゃあ、お前もそのアメリカ秘密諜報局とやらの一員なのか?」


 そう俺が尋ねると凛は半ば呆れたような表情をして言った。


「はぁ……そういえば、さっきカルベルがそんな事を言ってましたね。悪役にしたってわざわざ自分達の敵の名前を使わなくてもいいのに……」

「自分達の敵……?ってことはあんたらアメリカ秘密諜報局とかいうやつじゃないのか?」

「まさか……私も、私の父も、そしてカルベルもまともな仕事をしていますよ」


 ますます訳がわからん。まともな仕事をしている人間が女子高生を誘拐したりするだろうか?

 いや、それ以前にカルベルは人質のことを『彼女達』と言った。

 複数いるってことはおそらく残りの人質は今朝の金髪とオレンジ髪のギャルだろう。 

 そいつらも協力者なのか?だとしたら何が目的で……


 気になるのはカルベルが戦闘の最中、時折見せた不自然な態度。そして彼女のラストネームであるガーネット……どこかで聞いたような……


「彼女の父の名前はタイラー=J=ガーネット、現合衆国大統領であり、そして私は大統領の娘であるお嬢様のSPだ」


 カルベルがモーニングスターを支えに、ゆっくりと起き上がり言った。


 冗談だろ……?

 そう言いたかったが、そうはできなかった。

 何故なら、事が起きる前、俺の端末に入ってきた新着ニュースはなんだったか。

 そう、米国大統領の娘が誘拐されたという内容だったはずだ。


 勿論、そのニュースを知った二人が利用してハッタリを言っているという可能性もある。


 だが、何より気がかりなのは大統領の娘は外出していたという訳でもなく、ホワイトハウス邸内で行方不明になったということだ。

 それも、彼女が自ら行方をくらませたのなれば一番辻褄が合うんじゃないだろうか。


「まだ我々を悪の秘密組織か何かと疑っているみたいだな……それなら善良な市民たる証拠を見せてやろう」


 いや、疑うも何も第一印象が最悪なのはお前のせいなんだがな。


 カルベルは倒れこんでいる茅部に近付くと、茅部さんの肩に手を当て、言った。


「巻き込んでしまってすまなかったな……」


 ……まさかこの謝罪だけが善良な市民とやらの証明になるとでも思っているのか、人を殺しておいて。


 いや、待てよ。

 茅部さんは本当に死んでいるのか?

 こいつらの言うことが本当だとすれば……まさか!


「そろそろ、起きてはくれないか?」

「は?」


 思わず声を上げてしまった。


「だから、我々は善良な市民だと言っただろう。気絶しているだけだ」

「いや……でもさっき撃って……」


 俺が頭の中を整理する暇もなく、ムクリと茅部が起き上がった。


「あ……あれ?俺何してたんだっけか」


 すると、カルベルは先程までの会話からは想像もできないような軽快な口調に変わった。


「いやぁ!ご協力ありがとうございました!こちらアメリカのドッキリ番組でして、『お人好しの日本人は映画のような場面に出くわしたらどう行動するのか!』という企画だったんですよ!」

 

 ますます訳がわからん。

 俺とカルベルが戦ったのもドッキリとやらの一部だったっていうのか?

 そもそも撃たれたはずの茅部が何故生きている……

 

 凛にそれを尋ねてみる


「いいえ、あれは一般人を巻き込むまいとするカルベルなりの配慮ですよ」


 どうやらその『一般人』というカテゴリーから俺はとっくに外れてしまっているらしい。


「あの運転手さんにカルベルが撃ったのは、私達の国が開発した非殺傷銃『PIM-SHOCK』複数の特殊な光の点滅信号を対象の網膜に直接認識させることによって、意識を奪う非殺傷銃です。昔、日本のテレビでも似たような現象が起きたって聞きましたよ」


 そういや、聞いたことがある。

 TVが今のホログラムや3Dの前のデジタルであった頃のさらに前、『アナログ』というもので放送されていたとき、あるアニメを見ていた子供達が目眩などを訴えて病院に溢れたっつー事件があったとか。

 あの事件はなんと言ったか……まぁ、そんなことはどうでもいい。


「人質は?お前以外のあのギャル二人もグルだったのか?」

「きららとせーらにもあの運転手さんに説明したのと同じで、ドッキリだって言って協力してもらいました」


 きららとせーら……やはり残りの人質はあのギャル二人だったか。


「はぁ……事情はよくわからないにしろ、今までのが全部フェイクだったってのはわかったけどさ……これ、どうすんの?」


 そう言って、俺は右手の人差し指で左腕を指差す。

 骨が折れてしまっているのだろう、とてつもない痛みを伴って、左腕はだらんと垂れ下がっている。


「わ、わっ!忘れてました!すいませんっ!」


 凛はそう言うと制服のポケットから小さい注射器を取り出した。


「注射一本で骨折が治るなら苦労しないんだが……」

「いいからっ!動かないでください!」


 腕をまくり上げられ、注射器を当てられる。

 昔の注射器とは違い、空気の圧力を利用した無針注射器であるため見た目はそれほど恐怖心はないが、やはり心地よいものではない。


「力抜いてくださいね」


 パスッという音の後、肌になんとも言えないような感覚がした。


「すぐ楽になりますからね」


 考えてみれば、まだ目的も敵か味方かもわからないような奴からの治療を受けてよかったのだろうか。

 治療に見せかけて実は全身麻酔でしたー、なんてオチは勘弁してもらいたい。


 右手は……よし、動く。

 左手は……よし、動く。


 ん?左手が動く?


「はい、治りましたよね?」

「マジだ!?治ってやがる!」


 どうなってるんだ、注射器一本で骨折が治るなんて、いくら技術が発展しているこの国でも聞いたことねぇぞ!


「驚いたか、それがお嬢様の力だ」


 茅部を見送ったカルベルが戻ってきた。

 営業スマイルは消え、すっかり元の顔に戻っている。


「力って……あんたと同じ、リフレクターってやつか」

「違う。お嬢様の力は私の得体の知れない物に授けられた力などとはな」


 じゃあ、まさかNBWか……

 いや、それも得体の知れない物という点では同じか。


「じゃあ、何を使ったってんだ」

「お嬢様が使ったのは、自ら研究なさった医学であり、科学で証明された紛れもない人間の力だ」


 医学……?あんなRPGの治癒魔法みたいに一瞬で怪我を治すのが科学技術だって?


「お嬢様は世界一の大国の大統領の娘であると同時に世界一の医学者なのだ」

「カルベル……そんな大それた言い方をするものではありません。私はただ、万能細胞を利用した高速治癒術の開発に成功しただけなのですから」


 万能細胞だって……?

 確かに技術の進歩で万能細胞による臓器作成は可能になったが、筋肉や骨への応用はまだ研究段階だったはずだ。

 ましてや、こんな高速での治療なんて夢物語に物語に程がある。


「それに、お嬢様にはリフレクターは全く反応を示さなかった。特殊なルートで入手したムーブライトも同じくだ」

「――!?俺以外にもいたのか!?」


 朝のギャル達の反応でもわかる通り、ムーブライトが適応されないなどというのは非常にまれだ。

 俺自身、自分以外に同じ境遇の人間は噂程度でしか聞いたことがない。


「そう、それらの異能の力が発現しなかった人間は貴様だけではない、お嬢様も然り、他にもいるのだ」


 カルベルの声が一段と低くなった。


「ここからが本題って訳か……」


 カルベルは俺の問いかけには答えず、『それ』について話始めた。




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