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プロローグと呼ぶにはあまりに相応しくないもの

 さて、突然だが問題だ。


Q1.主人公の最大の特技がクイズであるバトル漫画、バトルアニメはいくつあるだろうか?



答えは……


 0だ。

少なくとも俺の知ってる限りはな。

そんなの地味で仕方ねぇ。


クイズ王海瀬純輝(かいせじゅんき)、そう俺のことを呼ぶ奴もいるにはいる。いるには。

だが、それも『全国雑学クイズ大会』などという大会で中学3年の頃、たまたま優勝してしまっただけで、その雑学というものも普通の生活を送っていれば必要になるかどうかもわからないものばかりだ。


例えば、実際に大会で出された問題を1つ紹介しよう。


 Q2.アサルトライフルなどの銃口に付いている、発射の際に噴き出る発射炎を拡散させるための装置の名前は?


 A.フラッシュサプレッサー


 はい、これテストに出ません。

 一般人がアサルトライフルに関わる機会なんてFPSぐらいなものだろう。

 もっとも、FPSのプレイ中に銃の部品なんていちいち気にしてようものならあっという間に敵の餌食になりキルレは1を下回ってボイスチャットで野次を飛ばされるのがオチだ。


 中途半端な能力。


 所詮、人間の域を出ない能力。


 そんなもの、この世界では意味を持たない。






 例えば、だ。


「で、マジで200円しか持ってないわけ?」


 このように、目の前で1メートルはあろうかというヘアアイロンのような武器|(しかも両面)を片手でクルクルと回している金髪ロングのギャルに対し、高校生クイズ王の俺の脳は、山火事に水鉄砲を持ってきたかの如く、全く役に立たない。  


 巨大ヘアアイロンからは圧力鍋かというくらいの大量の蒸気が吹き出ている。


「NBWか……」


 武器を見て、いかにも忌々しそうに俺は呟いた。いや、実際忌々しいんだが。


 金髪ギャルの右、ショートカットで、ベースとなっているオレンジに申し訳程度に白を混ぜた「お前はアニメキャラか?」と言いたくなるような髪色のギャルは踵が刃になっている厚底ブーツをカツンとならし


「ナイスバディ……なんとかだっけ?」


 と口元に人差し指を当てて言った。

 勿論、NBWはナイスバディなんたらなどという中年オヤジが使いそうな言葉ではない。


 その証拠に、金髪ロングギャルの左隣にいる、何故このメンバーと行動しているのかと不思議に思うほど清楚的なおっとり系黒髪ロングの子は呆れたように軽く首を振っている。


『Near the Body of Weapons』

 日本語で直訳すると『身近なる武器』だ。

 何だか厨二臭いがその仕組みもまた、現実のものとは未だに考え難い代物だ。


 沖ノ鳥島近海の海底で発見された新物質『ムーブライト』。

 一定量が他物質に取り込まれると、その物質を武器に変え、元から武器であるものはその機能を強化及び追加してくれる物質だ。

 簡単に言えば、

『自分の好きな物を武器にできるんだよ、ゴ〇リ』『ワ〇ワクさんすごーい』的な感じになるだろうか。

 ちなみにこれは何十年前から続いている子供向け番組だ。雑学王は視野が広いのさ。


「信じられない」

 それが妥当かつ当然の反応だろう。

 かくいう俺も、最初にネットで噂が出回り始めていた時は、また自分の生きている次元が曖昧になっている大きなお友達がトチくるって妄想と現実との区別がつかなくなっているだけかと思っていたのだが……


 しばらくして、テレビの全チャンネルで放送された緊急放送により、信じざるを得なくなった。

 放送では『ムーブライト』に関する噂が本当だということ、そして『ムーブライト』は各国の軍備増強に対抗し、住所のある国民に等しく1回分ずつ配布されること、それについて定めた『非常時国家総戦力法』が可決されたことが伝えられた。


 だが、住所のある国民に等しく配布されるということは、悪用する奴もいるにはいるわけで、こんな風になっているわけだ。


「マジで200円しか持ってない。わかったらそれでお汁粉でも買って落ち着け」


 もう、5月で初夏の暑さが近付いて来ているというのにお汁粉をチョイスしたのは、俺のささやかなる反抗だ。

 熱された小豆で舌を火傷してしまえ。


 金髪ギャルは癪に障ったのだろうか

「ちっ」と舌打ちをした後に続けた。


「じゃあさ、NBW出せよ」 


 まぁ、そう来るだろうな。どうせNBWをこんな風に使う奴だ、言うと思ったぜ。だが、


「生憎さま、NBWは持ってねぇよ」


 そう俺が言うと、俺を住所不定が原因でムーブライトをもらえなかったのかと勘違いしたのか『え、まさかホームレス……?こいつ、ウチらと同じぐらいなのに苦労してるんじゃね?』とか『金取るどころかあげた方が良いかも……』とか、『白髪はストレス?』とかギャルにしては超良心的な言葉が聞こえたのだがそれと白髪って言うな俺の髪の毛は銀髪だ。好きでこうな訳じゃない


 「いやぁ、エアガンに使ったのに反応しなかったんだ」


 という俺の言葉を聞くと

「「は?」」と二つ重ねの返事が返って来た。


「ムーブライトが反応しない訳ないし!デタラメ言ってんじゃねぇよ!」


 金髪ギャルがそう言ったが、反応しなかったものはしなかったのだ。


 あの日、政府から住所のある国民全員に見た目は粉薬のような少量の粉末が配られた。

 勿論、それがムーブライトなのだが。

 俺はといえばお気に入りのコルト・パイソンのエアガンに意気揚々とムーブライトを使用したわけだが……。

『動く!喋る!そして戦う!クマのぬいぐるみ!』と化したオジキ(ぬいぐるみの名前)を前にはしゃいでいる妹を横目に、引き金を引いた俺のコルト・パイソンからは見慣れた貧弱なBB弾が飛び出すだけだった。

 まぁ、そんなことを今ここでこいつらに説明しようと、理解どころか聞いてくれるかも怪しいわけで、ここは『素直に』ハッタリをかましておく事にしよう。


「はぁ……あんまり使いたくねぇんだけどな、これ」

 

 そう溜息混じりに呟く。

 気分はすっかりやれやれ系主人公だ。

 女子高生三人組は怪訝そうな顔をしているが、構わず続けさせてもらおう。


「今更出し惜しみしてもしゃーねーか……。俺のNBWの『愛着(アタッチメント)』はA+、お前らは見た感じD+良くてCだろ?悪いことは言わねぇ。今すぐ引いたら見逃してやるよ」


「はぁ…?」


愛着(アタッチメント)』は簡単に言えばNBWのレベルのようなものだ。

 下はD-から最上級はS+、まぁSなんて滅多にいないのだが。

 そしてNBW不所持者はEにあたる。


 金髪ギャルは俺を信じていないらしく、軽く嘲笑った。


「『愛着(アタッチメント)』A+…?あんたみたいな弱そうな奴が?」


 だが、オレンジ髪の方は、内心気が気でないらしく、顔に焦りが見て取れる。

 そこへとどめの一撃だ。


「お互いさ…怪我したくねぇだろ?」


 俺はほとんど平たくなっているスクールバックから国語辞典を取り出す。


「索引、『炎』対象を焼き尽くせ」


 国語辞典から炎が吹き出る。

 その炎は路面のアスファルトを焦がし、俺の手の動きに合わせて収束した。

 まぁ、国語辞典のケースの中に改造ライターを大量に仕込んであるだけなのだが。


「マ……マジ?」


 金髪ギャルの口から声がもれたが、俺は構わず続ける。


「俺のNBWの名は『知識の泉インスタントデクショナリィ』愛着はA+、辞書に書いてある物は何でも具現化できるし、辞書に書いてある事象は、何でも再現できる」


 ここで一拍置いて


「試しに……『死』の索引でも引いてみるか?」


 決まったッ……!これが少年漫画であったら、俺の後ろには『ゴゴゴゴゴ』とか文字が浮かんでいるだろうッ!


「「ひっ……」」


 金髪とオレンジ髪、両方が詰まるような悲鳴をあげた。

 よし……もうひと息だ。

 

 だが、その時だった。


「きらら、せーら、よく考えてみて?本へのムーブライトの使用は効果がない。原則禁止のはずだよ?」


 今まで黙って金髪ギャルの左に立っていた、黒髪ロングの女の子。

 見たところギャルには見えないその子が、口を開いたのだ。

 しかも、俺にとって最悪の内容を。


 こういった時、どうするか。

 人間は長い歴史の中で学んで来た筈だ。

 例えばだ、戦場で偵察兵が、バッタリと敵大隊と遭遇した。

 例えを変えても良い。

 RPGで、HPゲージが赤く点滅し、回復薬も底を尽きた時、強敵と遭遇した。

 その時、一番頼りになるコマンドは何だろうか。


 俺の頭の中のコマンドは迷わず『逃げる』にカーソルを合わせた。 


 「戦略的撤退だ!」


 呆然としているオレンジ髪|(せーらとか呼ばれていた方)を突き飛ばし、路地を右へと抜ける。


「ちょっ!おい、待てぇ!」


 声の方向にコインをばら撒く。

 少しは足止めになるはずだ。


「てめー!200円以上持ってんじゃねぇか!」


 女性とは思えないような乱暴な言葉が路地裏に響く。

 残念だったな、それはゲーセンのコインだ。 間違って|(嘘)持って来ちゃったから代わりに返しに行っておいてくれ。

 ちなみに、俺の本物の財布は足首のソックスの中に入っている。

 今日は新作ゲームの発売日なんだ、買い遅れるわけには行かないのでな。


 曲がり角を曲がる際に、さっきの黒髪の女の子の顔が見えた。

 他の二人とは違い、俺のダミーのコインには目もくれず、じっとこちらを見据える姿は俺にえもいわれぬ不安を植え付けた。

 あいつだけNBWを出してなかったのも気になるし、何より俺の無駄な雑学を詰め込んだ改造ライター入り国語辞典に少しも動じていなかった。

 時間と余裕があればここであの女の子に対する考察を小一時間ほど続けても良いのだが。



 あいにく、この俺、海瀬純輝にはそんな時間も、余裕で間に合う程の脚力も皆無な訳だ。




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