少女の出立
自宅に帰り、さっそくおじいちゃんに報告した。
「というわけで、明日ガラじぃと裏山で修行してくるから」
私がそういうとおじいちゃんの眉間に深いしわが刻まれた。
「冒険者になるのは諦めろと言ったはずだが?」
おじいちゃんの言葉には明らかに怒気が含まれている。
正直言って怖い、でも――
「私は諦めないよ」
もう決めたのだ、そしてガラじぃとも約束した。
「おじいちゃんに絶対認めさせてやるんだから!」
自分の選択を信じるって。
(……ったく、何から何まであいつと同じことを言いやがる)
おじいちゃんが何かをつぶやいていたが、私にはよく聞こえなかった。
「……好きにしろ、だが儂は認めんからな」
そうそっぽを向いて答える。
「そんなこと言っていられるのも今だけなんだからね」
「ふん、そんな日は来るものか」
そう不適に笑うおじいちゃんの言葉に、もう怒気は含まれていなかった。
そして翌日、私は馬車の荷台に乗って揺られている。
出発直前におじいちゃんが馬車の近くを通った瞬間はどきどきしたけれど、なんとか見つからずに済んだらしい。
お尻を打つ馬車の揺れる衝撃はつらいけど、そんなのへっちゃらだ。
この痛みから解放された時から、私の冒険が始まるんだ。
その先のことを考えていると、この程度の痛みなんともない。
そう思っていた時、馬車が大きく揺れた。
「いたっ!」
その衝撃で荷物の上に置かれていた何かが私の頭の上に落ちてきた。
それは小さなポーチであり、中にいろいろ詰まっているらしくけっこう重い。
さらにはその留め具に無理矢理短剣が一本括りつけられている。
「うー、痛かった」
頭をさすりながらそのポーチを眺めていると、一枚の紙が張られていること気が付いた。
『リューナへ』
その書き出しに衝撃を受ける、これは私がこの馬車に乗りこんでいることを知ってる誰かが送ったもののようだった。
それに当てはまる人物、つまりはガラじぃということになる。
だけどその考えは続きを読むことで打ち砕かれた。
『馬車に乗るのを止めたところで、お前は歩いてでも村を出るだろう。だから勝手に出ていくというのならば止めないことにする』
これはガラじぃからの手紙ではない、それにこの筆跡は――
『儂が昔使っていたポーチと短剣、それともしもの時に貯めてあった金だ。無いよりはマシだろう』
間違いない、これはおじいちゃんが私に当てた手紙だ。
『この短剣は大切なものだ、だから絶対に返しに来い。それができないというのなら絶対に儂はお前を認めん』
おじいちゃんは知っていたのだ、私がこの馬車に乗ることを。
『あとは勝手にしろ、だが後悔する選択だけはするな』
手紙はそう締めくくられていた。
ガラじぃと同じ言葉、きっと二人の間で昔何かあったのだろう。
それが何かは想像もできないし、する気もない。
例え何があっても私は信じた道を行く、それでいいんだよね?
――――――――――――――――――――――――――――――――――
リューナが乗った馬車を最後まで見送り続ける一人の老人がいた。
リューナの祖父である。
「おい、そろそろ出てきたらどうだ?」
彼は振り返り、背後に立つ木の影に向かって声をかけた。
「なんだ、やっぱりバレていたか」
そう言って出てきたのはリューナの剣術の師匠、ガラハドである。
「当たり前だ、何が裏山で剣術修行だ。あいつの時と同じ言い訳を使いおって」
「はっはっは、まぁあの時のお前の落ち込みようはすごかったからなぁ。今度は見送りぐらいさせてやろうと思ってな」
「落ち込んでなどおらん」
リューナのは祖父は憮然と答える。
「相変わらず素直じゃないなぁ、あいつらはあんなに素直に生きているのに」
「全く、誰に似たんだか」
「昔のあんたにそっくりだよ。俺たちを救ってくれた冒険者だった頃のあんたに」
ガラハドのその言葉に、リューナの祖父は顔を背けた。
「救えてなどいない、儂は失敗した」
「欲張りで傲慢で困った人だ、全てを救える人間なんていないというのに」
「……ふん、もう終わったことだ」
これで話は終わりだとでも言うかのように、リューナの祖父はガラハドに背を向け歩き出した。
「結局理屈では考えを曲げない辺り、本当にそっくりだよ」
そう呟きながらガラハドはその背を追った。
とりあえずはここで完結としています。
ただ、もしかしたら続きを書くかもしれません。
その時はリューナをよろしくお願いします。