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少女の決意

「で、言い負かされて帰ってきたと。ははは、なるほどな」

「わ、笑いごとじゃないよぅガラじぃ」


 おじいちゃんとの話し合いが失敗に終わり、私はガラじぃの元を訪れていた。


「いやいや、まぁ言ってることは正論だからなぁ。リューナのおつむじゃ口で勝つのは無理だな」


 そう言いながらガラじぃは乱暴に私の頭をなでた。


「何よ、人をお馬鹿さんみたいに言って」


 そのいつも通りのしぐさが、未だに子供扱いされているみたいで少しむっとした。

 ガラじぃからすればまだまだ子供かもしれないけど、これでも立派な成人女性なのだ。

 もうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいと思う。


「はっはっは、別に気にしなくていいぞ。論理的に考えるのが苦手なのは短所でもあるが、長所にも成り得るからな」

「なにそれ、頭はいい方がいいに決まってるじゃない」

「そうでもないさ、まぁそれを自覚しちまったら意味はないからな。お前はそのまんまのお前でいいさ」

「何が言いたいのかよく分かんない」


 頭が『悪い』方が『良い』っていうのは明らかに間違っている。

 それがおかしいことくらい私でもわかる。


「そりゃあ分からないように言ってるからな」

「なによそれ」


 ガラじぃは時々意味不明なことを言う。

 でもこんな風にガラじぃと話すのは楽しい。

 からかわれたり小馬鹿にされることも多いけど、私はこの時間も大好きだ。


「それにしてもあいつがそんなことを言うとはねぇ」


 『あいつ』というのはおじいちゃんのことだろう。


「そんなこと?」

「冒険者の覚悟」


 そうつぶやいたガラじぃの表情は今までに見たことがないくらい寂しそうだった。


「ねぇガラじぃ」

「ん、なんだ?」


 私の呼びかけに反応して、ガラじぃがこちらに笑いかけてくる。


「ガラじぃは知ってるの? なんでおじいちゃんがあんなに反対するのか?」

「………………」


 ガラじぃは黙り込んでしまった。

 その表情は変わらず微笑んでいて、何を考えてるのか私には分からない。

 でも質問の答えは分かった。


「知ってるんだね」

「………………」


 やはりガラじぃは答えない、だけど確信できた。


「おじいちゃんを説得するためには、それを覆すだけの覚悟がいるんだね」

「……そうだな」


 ガラじぃはようやくそれだけ返してくれた。

 おじいちゃんが何を考えているのか、結局のところは分からない。

 だけど、おかげでどうすればいいか分かった気がする。


「でも私はおじいちゃんに口では勝てない」

「そうだ――ん?」


 ガラじぃが疑問の声を上げたが、とりあえず無視。

 さっきガラじぃだって言ってた、私じゃ口で勝てないって。


「だから私におじいちゃんの説得は無理」

「あ、いや、一体何を――」


 口で勝てないんだから説得なんてできるわけがない。

 ならば手段は一つしかない。


「それなら行動で示すしかない!」

「それはそうかもしれないが……おいまさか!」

「家出する! それで都会に出て冒険者になって結果を出す!」

「おいーーー!」


 そうだ、それしかないんだ。

 口で勝てないんなら行動で示せばいいんだ!

 実際に冒険者になって、問題ないってわかればおじいちゃんだって認めるしかない!


「そうだよね! できない可能性があるからダメなんだから、できた実績を作ればおじいちゃんも認めてくれるよね!」

「本末が転倒してないか! 村を出る許可を貰うために説得するのに、村を出て説得材料を手に入れるって!」

「え、なんで?」


 ガラじぃが私がおかしいって言ってるみたいだけど、意味が分からない。

 いったいそれのどこがおかしいのだろうか?


「は、なんでって?」


 お互いに疑問をぶつけ合う、どうも話が噛み合ってない。


「なんで村を出るのにおじいちゃんの許可がいるの?」


 私が首を傾げながらガラじぃに問い返してみた。


「はぁ?じゃあなんのために説得するつもりだったんだ?」


 ガラじぃは何を言っているのだろうか?


「認めてもらうためでしょ?」

「何を?」

「私が冒険者になることを」


 意味が分からない。

 おじいちゃんを説得して冒険者になること認めてもらうということだけなのに、いったい何が疑問なのだろうか?


「……あーそうか、そういうことか。お前はただ家族に自分の選択を認めてほしかっただけで、許可を求めていたわけじゃないんだな。リューナにとって冒険者になることは決定事項であり、止められたところでやめるつもりはないんだな」


 やはり噛み合っていなかったらしい。


「なんでやめる必要があるの?」

「いや、いい。やっぱりお前はそれでいい、それがいい」


 ガラじぃはそういうと立ち上がり、戸の向こうへと消えて行った。

 それからしばらくして、大きな箱を抱えて戻ってきた。


「お前ならきっと、俺たちのようにはならないだろう」

「おれ、たち?」


 きっとガラじぃとおじいちゃんのことだろう。


「リューナ、一つだけ約束しろ」

「約束?」


 ガラじぃが今までに見たことがないほど真剣な表情で訪ねてきた。

 きっとこれは大切なことなのだろう。

 なら私も真剣に答えないといけない。


「うん、どんな約束」

「絶対に後悔をするような選択をするな」

「ってどんな選択?」

「別に深く考えなくていい、絶対に妥協をするな、絶対にあきらめるな、最後まで自分を信じろ。お前ならきっとそれができる」

「……うん、わかった」


 実際よく分かってはいないけど、自分に正直に生きろということだろう。

 それなら自信がある。


「そうか、ならこれは俺からの餞別だ」


 そういってガラじぃは先ほど持ってきた箱を開いた。

 その中には服に小手にすね当てにベルトにと装備一式が入っていた。


「これは?」

「お前の両親が昔使ってたものを、俺が仕立て直しておいた。服はお前の母親が、それ以外の装備はお前の父親が使っていたものだ」

「これが……」


 おぼろげな記憶しか残っていない私の両親。

 その二人が使っていた装備。

 ガラじぃはこれを前から用意していてくれたんだ。


「長剣は訓練で使ってたものをやる、手入れを欠かすなよ」

「ありがとうガラじぃ!」


 感激のあまりガラじぃに飛びつく。


「気にするなって」


 その私を引き離しつつ、頭を優しく撫でてくれた。


「ところで、村を出るにしても当てはあるのか?」


 それからガラじぃが思い出したかのように尋ねてきた。


「うーん、全然ないね」

「だろうな」


 そう言ってため息を漏らすガラじぃ。


「今村に来ている行商人が明日街に戻る、それに便乗させてもらえ。話は俺がつけておく」

「本当に! でもおじいちゃんに見つかったら……」


 例えおじいちゃんに止められても、諦めるつもりはない。

 だけど力づくで止められたらどうしようもないのも確かだ。


「安心しろ、お前は明日俺と一緒に裏山に泊まり込みで剣術の修行に行く。だから馬車に乗るのは無理だ」

「ええっ! それじゃあどうすればいいの!」


 ガラじぃの唐突な山籠もり宣言に思わず声を上げてしまう。

 山に籠ってしまったら、馬車に乗れないじゃないか。


「あほか、アリバイ作りだよ。お前が馬車に乗れないなら警戒も緩む」

「ああ、なるほど!」


 ガラじぃと一緒にいると言っておけば、本当は私が馬車に潜り込もうとしているなんて考えもしないということか。

 さすがガラじぃ。


「分かったら今日はもう帰って準備をしろ。修行に必要な荷物と言えば怪しまれないはずだ」

「そっか! ありがとうガラじぃ!」


 ガラじぃはやっぱり頼りになる。

 さすがは私のお師匠様だ。

 その後私はガラじぃに見送られながら、家路についた。

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