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少女の夢

 私は山間にある小さな村で生まれた。

 これといった名産品もなく、観光資源もない。

 何もない村である。

 毎日繰り返される家畜の世話と農作業。

 その退屈な日々は私にとって苦痛でしかなかった。


「ねぇガラじぃ、またお父さんとお母さんの話聞かせてよ!」

「またか、まったくしゃあねぇなぁ」


 そんな私にとってガラじぃが聞かせてくれる冒険譚は最高の娯楽だった。

 ガラじぃことガラハド・ウェドナー師匠。

 元はどこかの王国に仕えていた騎士らしいが、あまり詳しいことは知らない。

 引退した際に。知り合いであった私のおじいちゃんの勧めでこの村で暮らすことに決めたらしい。

 その恩もあってか、ガラじぃは私のお父さんに剣術を仕込んだそうだ。

 そしてその技術でお父さんは冒険者になったのだ。


「あいつから聞いた話で、まだお前に話てないのって言えば……」

「この前の続きが聞きたい! いじょーはんしょくしたフレアリザードを退治しに火山に向かったってやつ!」

「ああ、そういやそいつはまだ途中までだったな」


 その冒険の中で母と出会い、結婚し私が生まれたということだ。

 それからは冒険をやめてこの村で一緒に暮らしていたが、数年前突然旅立ちそれ以来帰ってきていない。


「だがその前に、今日の分をやっておくか!」

「はーい!」


 ガラじぃの言葉に従って、私は木剣を手に立ちあがった。

 ガラじぃは父の剣術の師匠であったように、現在の私の剣術の師匠でもあるのだ。


「よし、まずは素振りだ!」

「はい!」


 私はこの時間も大好きだ。

 私の夢はお父さんやお母さんのような冒険者になること。

 いつか二人が帰ってきたら、今度は私も連れて行ってもらう。

 そのためにも少しでも腕を磨かないといけない。


「腕が下がってるぞ! 姿勢を崩すな!」

「は、はい!」


 絶対に私も冒険に出るんだ。




 だけど、それから何年経っても私の両親は帰ってこなかった。

 私の剣術を見せることもなく、ついには14歳となり成人を迎えていた。

 その年、村は大きな問題を抱えていた。


「このままではこの村は滅ぶ」

「むぅ、どうにかならんのか?」


 大人たちが村の行く末について議論していた。


「原因が分からなければどうしようもない」

「ならば学者様を呼ぶというのは?」

「そんな資金も当てもない、できるならとっくにやっておる」

「この土地を放棄するしかないのか……」


 ここ数年不作傾向にあり、それは年々悪化している。

 このままでは数年のうちには村全体が飢えることになるだろう。


「土地を捨てる、か。それしかないか……」

「だがどこに引っ越すというのだ?そのための費用は?」

「しかし来年には回復している可能性も――」

「しておらなんだら飢えることになるのだぞ?」

「だけど生まれ育ったこの場所を捨てるのは……」

「………………」

「………………」

「金さえあれば、なぁ」


 お金やコネ、そんなものがこの閉鎖された村に存在するはずがない。

 外界との繋がりなど、年数回訪れる行商人ぐらいである。

 だけど外に出ればどうか?

 ここに無いのならばある場所へ行けばいい。

 外にだったら、どんな可能性だってあるはずだ。


「と、いうわけで冒険者になって一山当ててきます!」

「許すかこのたわけがーーー!」


 そう決意して、さっそくおじいちゃんに発案してみたら怒られた。


「何度も言うておろう! 儂は冒険者など認めん!」


 そうなのだ、おじいちゃんは私が冒険者になることに反対しているのだ。

 そもそもお父さんが冒険者になることにも最後まで反対し続けたらしい。


「可能性? はんっ! そんなもの当てになるものか!」

「やってみないとわからないじゃない! 可能性なんだから!」

「分かるは! 現にあいつらは帰ってこなんだ!」


 『あいつら』というのは勿論私の両親のこと。


「冒険などして何になる? 命をかけて何になる?」

「ロマンがある!」

「そんなものに自分の命をかける価値があるというのか?」

「ある!」


 私は断言する。

 『冒険者になる』こと。

 これは私の夢であり、そのための覚悟はできている。


「なら他人の命をかける価値もあるか?」

「え、他人?」


 いきなりの話の転換に戸惑う。


「そう他人だ。仲間、依頼人、同業者、犯罪者、冒険者の仕事には多くの命が関わってくる」

「そ、そのくらいわかってる――」

「わかっておらん!」

「ひぃ!」


 おじいちゃんの恫喝に、思わず縮こまってしまう。


「お前が好きそうな話だと、魔獣の襲撃から命がけで村を守ったりするのだろう?」

「そうなの! お父さんだって剣で――」


 私が好きな話に思わず食いつくが、おじいちゃんがそれを遮る。


「そのときお前が死ねばどうなる?」

「えっ?」


 再びの話の転換、私が死んだらどうなるか?

 それは死んだら終わりなのだから……


「今お前は何を考えている?」

「え、私が死んだらどうなるかなって――」

「死んだら自分がどうなるか、そんな無意味なことを考えていたのだろう。だからお前は視野が狭いのだ!」

「あう!」


 言葉と共におじいちゃんのでこぴんが飛んできた。

 すごく痛い。


「村を守るために戦っていたお前が死ぬ、つまり村を守る者がいなくなるということ。つまりお前が死ねば村人は全員死ぬ」

「あ、それは――」


 私の想像の中の冒険者は魔獣に負けたりなんてしない。

 お父さんやお母さんが負けたなんて話も聞いたことがない。

 だから冒険者が魔獣に負けたらどうなるかなんて考えたこともなかった。


「冒険者というのはそういう仕事だ、お前が失敗すれば誰かが犠牲になる。それを踏まえてもう一度聞く、お前に他人の命を背負う覚悟があるのか?」

「も、もちろん――」


 即答しようとしたが、わずかに言いよどんでしまった。

 いつもなら胸を張って答えられていたのに、一瞬とはいえ迷ってしまった。

 そんな私をおじいちゃんは手で制する。


「即断できんのでは意味がない、お前に冒険者は無理だ」

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