SET OUT
ジャックはライアンの自宅にまでしっかりと根回ししたらしく、朝の九時、元気いっぱいのメグが彼を起こしにきた。
昨夜、ライアンは眠れなかった。というより、眠らなかった。朝の六時すぎまでテレビゲームをして、そのあと寝た。二時間半ほどか。なので当然のように、彼は最強の睡魔に襲われていた。
自宅にはマリーが迎えに来た。メグに背を押され、マリーに引きずられるようにして、なんとかバス停まで歩いた。彼女の右隣でベンチに座ったが、ライアンはいつでも眠れる状態だった。行動が遅いせいでバスを一本逃したと彼女に文句を言われていたが、それもどうでもよかった。
「お願いだから、しっかりして」マリーが言った。「寝ないで。起きててよ」
「無理」彼女の肩に頭をあずける。「眠い。頭痛い。目も痛い。身体ダルい」
「ああ、もう」
恋愛感情で好き、というのではないが、彼女といるのは居心地がいい。癒される。メグが成長すれば、(外見はメグのほうが美人になるに決まっているが)こんな感じかな、と思う。
「キスする?」ライアンは訊いた。
「しない。絶対しない」
「あっそ」
「ああ、ほら、バスが来た。行くよ。立って」
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ウェルス・パディからウェスト・ランドにある図書館まではほんの数分の道のりなのに、バスの中、ライアンは眠ってしまいそうになっていた。マリーの肩にもたれて。
起こされて目を開けると、ゆっくりと停車するバスの窓から、アニタとタイラーと並んでいるギャヴィンの顔が目に入った。顔が引きつっていた。睨んでいるのか笑っているのか、よくわからなかった。だがそれもどうでもよかった。自分を襲う睡魔は、ギャヴィンの攻撃が通用しないほどに強かった。
まだ全員揃っているわけではなかったので、通りを渡って図書館の正門へ移動した。だがライアンは図書館の門壁にもたれて座り、立てた両脚を抱えて顔を伏せた。眠ってしまいそうだ。気を抜けば眠ってしまう。彼らの会話を聞きながら、どうにか気を紛らわす。
「どうしたの、こいつ。ついに身体まで老けたの?」
うるせえよチビ。
「なんか、朝までゲームしてたらしいの。ゾンビを連続で二百十一人、ノーダメージで倒したとか言ってた」マリーが言った。
「マジで? 超おもしろそうなんだけど」
アニタ、女ならゾンビ系は怖がれ。
「相変わらずゲーム好きだな。どうすんだ、これ」タイラーが言った。
「水ぶっかければいいんじゃないの? 図書館の噴水に突っ込むとか」
うるせえよチビ。
「せめて湯にしてやれよ。寒いだろ」
タイラーはたいてい、フォローなのかつっこみなのかよくわからない悪ノリをする。
「じゃあ熱湯」
黙れチビ。
「あ。タクシーに乗ってるの、ジャックじゃない?」マリーが言った。
「ホントだ」アニタが言った。
「うしろ、ジェニーも乗ってるじゃん」ギャヴィンが言った。
図書館の門からほんの少しずれたところで、ジャックたちがタクシーを降りる。
「え、っていうかなに、あの荷物。なんかジェニーがデカいバッグ持ってるんだけど」ギャヴィンが言った。
「おはよう。ごめんね、遅くなって」ジェニーが言った。
「ハイ、二人とも。どうしたの? それ」アニタが訊いた。
「レナとね、家にあった遊び道具、持ってきたの。ジャックが迎えにきてくれて」
「マジ? やった。なにがあんの?」
「バドミントンのセットとか、バスケットボールとか。あと、ビニールのボール」
「いいね、バドミントン!」
「おはよ。──どうしたんだ、ライアン」ジャックが言った。
「寝てるっぽい。さっきから全然動かない」ギャヴィンが言った。
寝ていない。
「ライアン、大丈夫?」
その声に、彼は目を開け顔を上げた。目の前にジェニーがしゃがんでいた。
「大丈夫じゃない。寝そう」
「ああ。じゃあ、何人かでLBCに行ってくるから、ここで待ってる?」
もう、置きざりにしてくれていい。「ジェニー、可愛すぎ。ハグしていい?」
「ええ?」
彼の隣に立ったジャックはすかさず、彼の右側頭部に、挨拶代わりの軽い膝蹴りをお見舞いした。
「殴るよ」
「今蹴ったじゃねえか」痛くはない。
「反抗する元気があるなら大丈夫。バスがくるまで三十分。行くよ」
マリーとアニタに促されてどうにか立ち上がり、なんとか自力で歩いてランチ・ブレッド・カフェへと向かった。
ライアンには、レナの顔を見る気力もなかった。なにもかもが面倒だった。そんなことよりも眠かった。
LBCに入ると、全員が適当なものを注文し、それを持ち帰り用の箱に詰めてもらった。去年の十月にこの店であったジェニーの誕生日パーティーで知り合った店長を、ライアンは眠いながらも口説いた。“口にマスタード突っ込むわよ”と笑顔で言われた。萎えた。
再びバスに乗ると、ジャックの隣で窓に頭をあずけ、彼は寝そうになっていた。寝そうだったものの、揺れで眠るどころではなかった。首が痛くなっただけだった。




