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COMATOSE  作者: awa
33/36

MEANING

 ジャックに、電話を切られた。

 えー。というのが、ライアンの感想だった。鈍いと言われても困る。わけがわからないのに、鈍いもクソもない。いや、クソはない。クソはない。落ち着け。

 彼はベッドに移動して子機を持ち、レナの携帯電話番号をダイヤルした。テーブルにあるリモコンで部屋の照明を落とす。自分のテンションが変だと感じていた。意味がわからないとこうなる。性格上、考えるというのがあまり得意ではないので、こういう意味のわからない状況に陥ると弱いのだ。

 彼がベッドに寝転んだところで、受話口からレナの声が聞こえた。

 「ん」

 ん。ではない。揃いも揃ってつっこみどころが多すぎだ。「なんであの歌?」

 「どっち?」

 「カウントダウンで聴いたやつ。なんであれ?」

 「欲しかったから」

 意味がわからない。「オレに渡してどうすんだよ」

 「気にしないで。もうひとつのは?」

 気にするわ。「聴いた」

 「そ。で?」

 そ。で? と言われても。「悪い、意味わかんねえ」ライアン様、超正直。

 だが電話のむこう、レナはふきだしてけらけらと笑った。

 ライアンもう、どう反応していいのかわからない。「もしもーし」

 「ごめん。歌詞カード、見た?」

 「見た」

 「じゃあ、詞の意味は理解してるわよね?」

 「そこまでバカじゃないからな」

 「そうよね」

 少し間があった。

 彼は、会話のキャッチボール的にいえば自分がなにかを言うところなのかと気づいた。だが意味がわからない。なにを言えばいいのかがわからない。というか、今のはどういう意味なのだ? バカではないよなという意味なのか? それはどういう?

 わからないので、ライアンは質問を返した。「ここ、オレ、キレるとこ?」

 だがレナは否定する。「違う。ごめん、違う」

 「あっそ」

 「──たぶん、信じてもらえないけど」

 「なに」

 「キスには、ちゃんと、意味があるから」

 彼はぽかんとした。

 「カウントダウンの時の、私からしたの。あと、さっきの。ちゃんと、意味はある」

 ライアンはまた、固定電話の子機を握ったままかたまっている。

 「──フレンチに、意味なんかあんの?」違うだろ。

 「ああ──じゃあ、深いの、すればよかった」

 思わず首をかしげた。

 「いやいやいやいやいや。ちょっと待て。意味わかんねえ。なに言ってんだ」

 「鈍い」

 また言われてしまった。三分前に言われたばかりなのに。

 さて、真面目に考えよう。

 「お前は──」つまり。「キス魔?」

 レナは不機嫌になった。「は?」

 違うのか。いや、キス魔は自分だ。違うけど。キス魔はベラだ。これは間違ってない。「つまり、オレが?」

 「うん」

 彼の脳内は、さすがにパニックに陥っている。なんの“うん”? なんに対する“うん”? “オレが憎くてしょうがない”に対する“うん”にもなるのか?

 などと思っても、言えるはずがない。

 「オレのことが、好きってことか?」言っちゃった。

 「そう」

 肯定されてしまったので、ライアンは唖然とした。だがすぐに我に返った。

 「いやいやいやいやいや。ちょっと待て、落ち着け」今現在、落ち着いたほうがいいのは明らかに自分のほうだ。「お前は違うだろ。オレじゃないだろ」

 「どうして?」

 その質問が“どうして”? 「だいたいお前、好きな奴いただろ」失恋したけど。「なにがどうなって、そうなるわけ? まだ一週間も経ってねえぞ」そんなことを言える立場にはない。

 「──わからない」

 わからない。わからないとうい言葉は、けっこう便利。落ち着けライアン!

 「ちょっと待て。なんで直接言わないんだよ。さっきまで一緒にいたのに」

 「え、だって、いきなり言っても信じてもらえないだろうし」

 あまりに冷静なレナの態度に、彼は言葉を失った。つっこみならあった。

 今だって唐突じゃねえか。CDとか、遠まわしすぎてわかんねえよ。

 と、いうのなら浮かんだ。だが言えなかった。言っていいところなのかどうかもわからない。本来ならレナは、こういう物言いをしてもいい相手だった。しかしこんなことになってしまうと、それは通用させてはいけない気がした。

 わけがわからず、右手で額を押さえる。だがこの黄金の右手(即席の自称)を持ってしても、返す言葉を導き出す手助けはしてくれなかった。

 ライアンが答えを搾り出す前に、レナが再び口を開く。

 「今、答えなくてもいい。明日はみんなで遊ぶ約束してるし、変な感じになりたくない」

 彼はまた唖然とした。今さら? それは今さらすぎやしないか?

 「いや、待て。お前、わかってんの? オレとつきあうってことがどういうことか、わかってんの?」変態か。

 「うん」

 うん。と言われても。「っつーかオレら、お互いの親の顔、知ってんだぞ? 家とか、まず行けねえよ? すげえ金かかるよ?」だから変態か。

 「うん」

 「いや、そこはつっこめよ。アホか」

 「好き」

 「はい?」

 「シャワー行ってくる」

 「はあ? いやいや。ちょっと待て。アホか」

 「だから、今じゃなくていいって言ってるじゃない」

 確かに言ったが、それはお前の勝手なセリフでしかない。と思っても、やはり言えない。

 「明日、ちゃんと来て。普通に話して。おやすみ」

 レナはそう言うと勝手に電話を切った。

 ライアンは完全に、パニックに陥っている。意味がわからない。なぜこんなに半端な状態で放置されなければいけないのだ。なぜ誰を相手にしても、自分だけ勝手に納得して話を終えようとするのだ。こちらの疑問はどうなる。放置か。

 再び携帯電話を手にし、彼はジャックに電話をかけた。

 ──出ない。

 嫌がらせだ。これは一種のイジメだ。ライアンを混乱させよう作戦に世界が便乗している。タチの悪いドッキリ作戦だ。

 疑問も苛立ちも放置されている。ありえない。

 彼は、キレた。

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