I WILL BE
ライアンはわけがわからないまま家に帰った。タクシーの中で考えようとはしたが、考えてもわかるはずがないので、考えないことにした。
自室に戻ると、さっそくCDコンポを置いてある棚の前に腰をおろした。タクシーの中で、なにが入っているかだけを確認した。CDが二枚だということはわかった。家に帰るまで見るなとレナに言われていたので、タイトルもなにも見ていない。そこまで言いつけを守る必要はないが、彼女の態度から嫌な予感しかしなかったので、家に帰るまで見ないことにしたのだ。
赤い袋からCDケースを二枚取り出す。そのうちの一枚は、“Comatose”というタイトルのシングルCDだった。それだけで、彼の顔は引きつった。まさかと思いながら歌詞カードを確認すると──予感は的中した。ふざけたバンドが大晦日に白いバンの上でうたっていた、昏睡状態の歌だ。いったいなんのつもりなのだ。
それを聴こうと思うはずもなく、もう一枚のCDを確認した。こちらもシングルCD、“I Will Be”というタイトルだった。歌詞カードにアーティストの姿は写っていないし、名前を見ても誰だかわからない。
そのディスクを取り出してコンポにセットし、再生ボタンを押した。歌詞カードを広げる。ピアノが流れ、それがバラードだとわかった。愛だの恋だのと言われてもよくわからないので、バラード曲はあまり好きではないのに。
あなたは完璧だと思っていた
じゅうぶんに強く 傷ついたりしないと
そんなわけがないのにね
あなたのことを知っているつもりでいた
でもあなたの空に降る雨のことなど知らなかった
知ろうともしなかった
あなたを混乱させて
悩ませて怒らせて
あげくにがっかりさせてしまった
あなたが思ってくれる私になる
そしていつかあなたが求めるものに届きたい
あなたの信頼を取り戻すために自分を変えてみる
もう二度と傷つけたりしない
あなたがチャンスをくれるなら
私はいつも素直になれなかった
嫌われることを恐れ 本音を隠して
ただ逃げていた
助けてくれると知っていたはずなのに
意地っ張りな私は助けを求めることができなかった
あなたはそんなことしないとまで思っていた
あなたのやさしさに触れた時
涙が頬を流れたの
そしてもう二度と疑わないと誓った
私のすべての嘘 ふたりのすべての喧嘩
あなたは忘れろと言うけれど 私は忘れたりしない
すべてを抱えて もう一度スタートラインに立つの
伝えられなかった 私の愛のすべて
今度はこの歌に乗せて あなたの元に届けるわ
ねえ聴こえてる?
あなたにうたってるの
あなたが思ってくれる私になる
そしていつかあなたが求めるものに届きたい
あなたの信頼を取り戻すために自分を変えてみる
もう二度と傷つけたりしない
あなたがチャンスをくれるなら
曲が終わっても、ライアンはぽかんとするしかなかった。
感想が出てこない。意味がわからない。なぜレナがこれを渡したのかがわからない。“Comatose”は嫌がらせとも受け取れるが、この曲は、渡す相手を間違ったのではないかとしか思えない。
謝罪のつもりなのか。もういいと何度も言ったのに? 意味がわからない。決意表明? そんなことを自分に宣言されても困る。
歌が微妙なわけではないし、ロックバラードなのでまだ許せる範囲なのだが、意味がわからない。この感想を言うのか? 特になにもないのに? 意味がわからないと? それは感想として成り立つのか? わざわざ電話してまで言うほどのことか?
ふと、CDが入っていた赤い袋が目に入った。そしてやっとわかった。この袋は、しばらく行かないうちにいつのまにか変わっていたサイラスの店の袋だ。ジャックの叔父のサイラスが経営しているゼスト・エヴァンスという名のCDショップの袋。
そして納得した。だからベネフィット・アイランドのカウントダウンイベントに出てくるような、マニアックだろうバンドのCDがあったのだ。あの店は、地元内外関係なく、インディーズCDも取り扱っている。
だがそんなことはどうでもいい。ひとまず、ライアンは携帯電話でジャックに電話した。
「はい」と、ジャック。
ライアンは唐突に切りだした。「お前、レナをサイラスのとこ、連れてったの?」そんなことを訊きたいわけではない。
「ああ、うん。CDが欲しいっていうから。ひとつはマニアックそうだったし、わかるかなと思って。予想どおり、地元インディーズだった」
よけいなことを。「なんなの? なにが言いたいの?」
「え、今聴いたの?」
「そうだよ。悪いか──って、いや、違う。そっちはいいんだって。オレも覚えてるから。カウントダウンの時の歌だし。そうじゃなくて。もうひとつのほう。女の」
「ああ。じゃあ、電話するとこ間違ってる。レナに電話しなよ」
意味がわからない。「頼むから、知ってるなら教えろ」
「無理。お前、たまに鈍すぎ。じゃ」




