DREAMING
普通に話をし、普通に別れ、ライアンは家に帰った。
ベッドに寝転ぶ。まだ、夕方の五時にもなっていない。だが外はもう薄暗い。
けっきょく、なんだったのだろう。自分が冷静過ぎるほど冷静だったということもあるが、今となっては、夢をみていたような気がしている。おかしな夢。長い夢。突然現れ、あっさり去った。おかしな夢。長い夢。
というか、明日はどうすればいいのだろう。もう行かなくていい気がする。どうでもいい。眠いし、気分転換ももう、必要がなくなった。
代わりにレオでも連れていけばいい気がする。もしくはマシューだ。おそらく拒否される。レオは喜ぶ。彼はジェニーが大好きだ。
それよりも、レナだ。けっきょく微妙な感じで逆ギレして、そのまま放置している。エリカのことは、報告するほどの内容ではない。そのうち学校で会えば、レナの態度しだいで適当に説明すればいいだけのことだ。細かいことを話すつもりはない。
ふと、ジャックが言っていた言葉を思い出した。レイシーが引っ越すと決まった時、なにが起きているのかがわからなかったと彼は言っていた。荷造りを手伝っていてもそれは変わらず、荷物がトラックに積み込まれるのを見て、やっと実感したと言っていた。
こんな感じだったのか。いや、違うか。ジャックにとってのレイシーと、自分にとってのエリカとでは、意味が、存在が違いすぎる。はじまりが突然の電話だという意味で言えば、似たようなものだが。
冷静だったぶんのツケなのか、今頃になって、疲れと眠気がライアンを襲った。
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子供が、ふたりいる。
砂場で、遊んでいる。
あ、キスした。
なにやってんだよ。
ガキにまで見せつけられんのかよ。
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ライアンはふと、目を開けた。自分がベッドの上にいることはすぐにわかった。眠っていた。テーブルの上で携帯電話が鳴っている。うるさい。
真っ暗な部屋の中身体を起こし、ランプを頼りにテーブルの上の携帯電話を手に取った。時刻は夜の八時になろうとしている。着信はレナからだった。空腹なうえに眠い。再びベッドに寝転ぶと、電話に応じた。
「なに」
「──エリカから、メールがきて」
「そ」
「転校、やめるって」
「うん」
「なにが、どうなってるの?」
自分にもよくわからない。「それ、今?」喋るのが面倒だ。
「──寝てたの?」
「うん。今起きた。お前の電話で──」彼はあくびをした。「すげえ眠い」横を向く。
「ごめん」
レナはやはり変だ。「いや。起こしてくれてよかった。夜、眠れなくなるし」
「何時から寝てたの?」
「んー、五時くらい」
「──もう、遅いと思う」
笑える。「だな。だから、明日、無理」
「え」
「朝まで眠れなくて、やっと寝て、昼過ぎまで寝るから」彼は自分でなにを言っているのかわかっていない。
「──じゃあ、今から、会える?」
「は? なんで」
「渡したいものがあるの」
「──学校、はじまってからで、よくね?」
「できれば、今日。今から」
とんでもないわがままだ。今会いたいのは、レナではない。それでももう、断るのすら面倒だ。「そっち、行けばいい?」
「私がそっちに行くけど」
「いや、いい。送るのが面倒になる。タクシー使ってやる。眠いし面倒だから」
「夕飯は?」
「家にあるもん、なんか適当に持っていく」あるのかは知らない。「ボードウォークでいいか?」
「うん。お菓子、食べる?」
眠い。「また、ウィスキー?」
「違う。もう食べない。せめて、二十歳になるまで」
「あれは、法律違反にはならねえけど」
「うん。でも、なんか、あれ食べたあとで正気だって言っても、信じてもらえないし」
よく、わからない。本当に眠い。まだ寝れそうだ。「んじゃ、オレの目が覚めるようなこと、なんか言って」
「──あんたのことが、好き」
オレを、好き。
ライアンは笑った。「いい感じ。ちょっと眠気、覚めた。七十パーセントの眠気のうち、三十パーセントくらいは覚めた。今からタクシー呼んで、行く」
「──ん」




