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COMATOSE  作者: awa
21/36

PLAN

 そろそろエリカタイムだ。そう思い、ライアンは新着メールを確認した。二件届いている。ひとつはエリカ、もうひとつはマリーからだった。

 どちらを先に見る?

 面倒なほうを先に消化する。つまりエリカだ。彼は頭が変になっている。

  《今からシャワー浴びてきます。明日のために、今日は早く寝ないとね。行ってきます》

 夜八時のメールだ。まだ寝る時間ではない。というか、明日は午後の約束だ。早く寝て構えるほどのことではない。

 返信内容を考える。オレも今日は早く──寝ない寝ない。バカなのか。というかそもそも、返信するほどの内容ではない。また質問を返すか。だが何度もすると、さすがにくどい。どれだけ知りたいのだという話になる。だからといって、もう話すことなどない。なにを言っても勘違いされる気がする。その前に本当に、メールは好きではない。

 そして彼は開きなおった。 

 《昨日あんまり寝てないから、いつ寝るかわからねえ。返事こなくても気にしないで寝て》

 送信した。気を遣っているわけではないし、早く寝るつもりもない。次はマリーからのメールだ。

  《つきあってた人と別れたあと、すぐに他の人を好きになるのって、変? 変だとしたら、どのくらいの期間が普通なんだと思う?》

 ライアンは携帯電話を投げたい衝動に駆られた。へし折りたい衝動に駆られた。アホか。ノロケか。好きな気持ちはどうにもならないと、以前言ったはずだ。アホか。ボケか。ノロケか。

 メール画面を閉じ、彼はマリーに電話をかけた。

 彼女が電話に応じる。「もし──」

 「はいここで問題です」とライアンが切りだす。

 「うん?」

 「一月五日。つまり明後日。親友とのあいだで、真冬にもかかわらず、デイ・ピークの海のそばにある公園に、みんなでピクニックに行こうかという話が出ています。親友のカノジョ、ジェニーはおそらく平気だろうという話です。親友にみんなを誘っておいて、などと言われているのですが、ここでオレがいちばん最初に誘うべき人間は誰でしょう?

 A、親友の次に仲のいいチビのギャヴィン。

 B、そのギャヴィンに好意を持ってるにも関わらず、前のアホ男と別れたばかりということを気にして、苛立ったオレにわけのわからない質問をしてくるマリー嬢。

 C、そのマリーの友達で、いつでも大笑いして場を盛り上げてくれる、楽しいことが大好きなアニタ。

 D、そのアニタと先日初顔合わせを果たし、今はまだどうなるかよくわからない、今は普通にトモダチしてるタイラー。

  E、オレをなんだかんだと苛立たせてくれる魔女のレナ。

 さあ、答えで順番を決めようか」

 ライアンは、苛立っているとよく喋る。頭の回転も少しばかり速い。くだらないことに対してだけだが。

 「ええと──これ、行きたいって言っていいの?」

 「行くか? もちろん、五日にみんなが暇だとは限らねえから、日が変わる可能性があるけど」

 「行く! 行きたい!」

 彼女はそれなりに素直だ。「よし。んじゃ、ギャヴィンはお前が誘うか?」

 「ええ? いいよ、誘って。でもアニタは私からメールしてみる。いい?」

 「うん。ダメだったら、他の暇な日訊いてみて。明日以外。冬休み中。んでアニタから、タイラーを誘ってもらって」

 「うん、わかった。またメールするね」

 「ああ。あと、メールの質問の答えだけど。まえに言っただろ。人を好きになる気持ちってのは、どうしようもない時がある。別れた男がどうしようもないアホだった場合もそう。好きになんのに、理由とか条件なんてつけなくていい」自分が言うと、かなり変だ。「だから、好きなら好きって認めちまえ。それからあとのことは、その時考えろ」どの口が言っているのだろうと思い、彼は虚しくなった。

 「──うん。わかった。ありがとう」

 「ん。じゃな」

 「はい。」

 電話を終えた。いつも思う。特にマリーに言っている言葉がそうなのだが、どの口が言っているのだろう。どれだけ偉そうに恋愛を語るのだろう。まともに恋愛したことがないのに、なぜそんなことが言えるのだろう。追われて逃げて、冷たくて逃げられるだけだ。バカなのか。

 そしてまた苛立ってきた。だがギャヴィンに電話をかける。

 彼が電話に応じた。「は──」

 「さてここで問題です」またもライアンは切りだしたが、また言うのかと自分でも思った。

 「は?」

 「一月五日、明後日。聖剣士ジャックと海賊ライアンは、真冬にもかかわらず、デイ・ピーク海岸のそばにある公園に、みんなでピクニックに行こうかという話をしていました。ジェニー姫には、恋人である聖剣士が申し込みをするそうですが、海賊ライアンは、面倒なのに他のみんなを誘わなければなりません。ここで海賊ライアンがいちばん最初に誘うべき人間は誰?

 A、チビ盗賊のギャヴィン。

 B、弓使いのマリー。

 C、魔道士のレナ。

 なお、戦士タイラーと占い師アニタには、オレから話が広まる予定です」危なかった。「さあ、答えろ」

 ギャヴィンはけらけらと笑った。「なんだそれ。聖剣士って。チビ盗賊って。お前海賊って」ねじがはずれたように笑っている。

 「いや、悪い、なんかもう、適当だから。気にするな。そしてさっさと答えろ」

 「え、これ、俺も一緒にってこと?」

 「イヤなら行かなくてもいいけど。マリーが行けるとしたら、哀しむかもしれないけど、オレが相手するし。お前より仲いいし。そういやお前、人数多いの嫌いだもんな。じゃあ無理か」ライアンはすらすらと言った。

 「いや、俺はべつにいいけど。そしたら、BとCしか残らないじゃん。マリーとレナ。答えろって言われても、どっちが先かなんてわかんないし」

 「んじゃマリー、お前が誘う?」もう誘ってるけど。「まだみんなが行けるかわかんないから、日付は変わるかも。明日以外の冬休みってことにしてる。けど男は平気だろ」

 「ああ、女の子たちは知らないけど、俺らは約束しないほうだしな。当日突然派だしな。カウントダウンの時はともかく」

 嫌な話題を出すなチビ盗賊。「そういうこと。とりあえず、マリーに電話して誘えよ」もう誘ってるけど。「んで、マリーが平気だったらメール入れといて」平気ですけど。「みんなの返事が集まったら、またメールする」

 「ん、わかった。じゃな」

 「うい」

 電話を終えた。マリーがすでに話を知っていることに大笑いして恥をかきながらも、好きだなーなどと実感したりするのか。だから、人の世話を焼いている暇などないというのに。

 次。レナ。

 おかしいことに気づいた。なぜ自分が電話しなければならない? ジェニーに連絡を入れてもらえばいい気がする。だがジャックがジェニーを電話で誘い、そのまま長話にという光景が簡単に想像できる。嫌気がさす。しかたなくレナに電話をかけた。

 呼び出し音が彼女の声に変わる。「ん」

 意識すんなアホ。と、自分に言い聞かせてから切りだす。「五日、暇?」唐突すぎた。変だ。失敗した。勘違いされる。

 「五日? 暇だけど」と、レナ。

 疲れたので普通に話す。「ジャックたちと、ってゆーかみんなで、海──じゃないわ。海の近くの公園に行かないかって話になってる」なってる、で止めるのは変だ。だからなんだという話になる。

 「みんなって? ジェニー?」

 「うん。あと、ギャヴィンとタイラーとマリーとタイラーとアニタ」違和感があった。「も、誘ってる。まだみんな暇かはわかんねえけど」

 レナがけらけらと笑う。

 「ちょっと待って、タイラーが二人いた。分身!?」笑う笑う。

 もう無理だ、とライアンは思った。「もう、放っとけ。疲れてんだよ。喋りすぎて疲れてんだよ」メールでも疲れている。そのうえ、メンバー的に自分とレナがセットのようになっている。

 「ああ、うん、ごめん。どこの海?」

 最近の彼女の態度には、かなり違和感がある。「だから、海じゃなくて公園。海もあるけど。デイ・ピークの」

 「え。明日、エリカと行くんじゃなかった?」

 「そうだよ」言わないでほしい。「けどジャックとその話してて、近くの公園の話になって、みんなで行くかって」ジャックは気を遣ってくれたのだ。気分転換に、と。「で、ギャヴィンとマリーは誘った。マリーからアニタに話がまわってるはず。そこからタイラー。そこらはまだわかんねえけど、たぶん行けるんじゃね。知らないけど」

 「そ。──マリーとアニタに、あの話、した?」

 「できるわけねえだろアホ。いいから、行くのか行かねえのかどっちだよ」

 「んー──。行かないほうがいいなら、行かない」

 どんどん面倒な女になっている。「そういうの、いいって。頼むから、もう忘れろよ。詳しいことはジャックにも話してない。お前と喧嘩したってのは言ったけど、それはエリカが思ったより面倒だったって話だけ。仲なおり? したってのも言ってあるし、ジェニーにも言うなって言ってあるから、平気だよ。マシューやギャヴィンたちからもなんも突っ込んで訊かれてない。エリカの話になったら、よくわかんねーとかなんとか言って、適当に答えとけ。できるだけ一緒にいて、話そらすから」というかライアン自身、彼女の話はあまりしたくない。「よけいなこと考えなくていい。お前が変だと、あいつらが変に思うだろ」

 「──わかった。じゃあ、行く」

 「ん」女という生き物は、なぜこんなに面倒なのだろう。「んじゃ、みんなの返事集まったら、また──メール? 電話? どっち?」変な意味ではない。

 「電話って言ったら、してくれるの?」

 やはりレナが変だ。「どっちでもいいけど」それ以上話すことなどない。

 「じゃ、電話。でも、今からシャワー行ってくる。三十分くらい」

 注文が多い。「はいはい。オレも行ってくるから、んじゃ──」彼は壁にかかった時計を確認した。午後九時四十分。「十時十五分。家から電話するけど」なんだかおかしなことになっている気がした。だが眠気と疲れでなにがどうなっているのか、よくわからない。

 「わかった」と彼女は答えた。

 「ん。じゃな」

 「ん」

 ライアンは電話を終えた。

 カップルか!

 いや、家からの電話なら、それなりに誰にでもする。マリーも番号を知っている。つきあっているオンナにもする。いないが。

 ジャックのせいで、すべてが変なふうに受け取られているような気がしてしょうがない。面倒すぎる。

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