MIDNIGHT
ライアンは電話を終えた。時刻はもうすぐ午前三時になる。嫌気がさした。センターに問い合わせるが怖い。眠気もある。疲れもある。エリカになにを言えばいいのかがわからない。ひとまずセンターにメールを問い合わせた。
──新着メール。メール。メール。メール。メール。
“新着メールを五件受信しました。表示しますか?”
すべてエリカからだった。恐怖に身震いがした。携帯電話を壊したい衝動に駆られた。高校生なりに、まとまったお金が手に入るはずなのでかまわない気もした。だが解決にならないとすぐ思いなおした。
ひとまず古いメールから確認する。
《レナにメール送ったけど、返事がないよ。寝てるのかな?》
レナはシャワーを浴びていました。残念でした。
《もう一度、レナにメールしてみた。でも、返事がない。寝てるのかもしれない》
電話中です。
《レナに電話、してもいいかな? 起こすと悪いかな? でも、早くアドレスを確かめたいし──》
寝てはいないが、電話中なので通じないと思われる。確か、キャッチフォン設定にはなっていない。
《また眠くなってきちゃった。もう一度、寝てみます。でも、メール見たら返事ください》
センターに引っかかっていたという言い訳は通用するのか。
《ああ、やっぱり眠れないよ。どうしよう。》
五分前のメールだった。彼女のこの無駄な情熱がどこから来るのか、本気で教えてほしかった。なんなら自分にどうしろと言っているのかも教えてほしい。
さてどうしよう、と考える。ある意味冬休みでよかったと思った。マリーの心境はともかく、平和だったクリスマスがに戻りたい。平和だった学校生活が懐かしい。
などと浸っていてもストーカー被害を受け続けるだけなので、ひとまず返事をすることにした。
《悪い。家に帰る前に充電がなくなって、しかもそのままシャワー浴びて、充電し忘れたまま寝てた。ふと起きて、充電してメール見た。レナは眠いって言ってたからたぶん、もう寝てる。オレももう寝るけど、無事だから。明日は朝から晩まで親戚の集まりがあるけど、できそうだったらメールする。おやすみ》
──長い。とんでもなく長い。こんな長いメールを打つことなど、年に数えるほどしかない。それに言い訳に必死になっている。これほど言い訳をする人間だったか。というか誰のメールだ。自分ではない。女に手を出すのが早いから狼だと呼ばれたらしいライアン・ウルフ(仮名)ではない。ギャヴィンのメールのようだ。自分とは別人だ。どんなキャラクターを作ればいいのかわからない。
送信した。
レストルームに向かい、三分で部屋に戻った。携帯電話をチェックすると、やはりエリカからメールが届いていた。まだ起きていることに呆れた。
《ライアン? よかった。ずっと返事がなかったから、心配してたんだよ。無事でよかった。返事くれて、すごく嬉しい。これで安心して眠れるよ。エリカも明日、おじいちゃんの家に行くよ。お小遣いもらったら、ライアンになにかおごってあげる。また、遊んでね。ありがとう。おやすみなさい》
──長い。なぜそんな短時間でこの長文メールが打てるのだ。どんな指捌きを持っているのだ。あれだけの文章を搾り出すのに、こちらはどれほど時間がかかったと思っているのか。五分もかけたのに。いや、知らないが。
だがひとまず眠れる。他のメールは明日でいい。あとは明日、考える。