COMATOSE COUNTDOWN
時間が経つにつれ、広場にはどんどん人が増えた。
流れていた音楽が消されたかと思えば、ギターやベースを持った男たちが白いバンの上に、その横にある、ドラムセットが設置された朝礼台のような台にも男がひとり、あがった。準備が出来たのを確認してか、中央のバンの上にマイクを持った男が現れる。ぜんぶで六人いて、全員というわけではないものの、中央のバンにあがった男を含めて三人は若い、とライアンは思った。
挨拶もなく演奏がはじまり、中央の男はマイクを使って挨拶した。どうやらカウントダウン・ライヴと題してうたうようだ。観客たちも当然、盛り上がる。おそらくこの場にいる全員が、彼らが誰なのかを知らないし、ライアンも知らない。
その音楽はハードロックだった。このノリは、嫌いではない。
お前のことが本当に好きじゃない
お前が同じように思ってるのはわかってる
俺たちは敵同士
それが俺たちの距離だ
お前を手に入れたいとは思わない
惚れてるかもなんて思うなよ
お前以外の女を抱けるし
お前がどう思うかなんて気にしない
昏睡状態
お前がいる時 ふたつの感情が頭の中を駆け巡る
わかるか
バラバラにしたい
心を引き裂いてやりたい
お前の心に俺のすべてを刻み込みたい
それでお前が俺を見るなら
深く深く溺れさせてやりたい
めちゃくちゃにしたい
傷つけてやりたい
キスでお前を黙らせたい
二度と言わせない
俺のことが嫌いだとか 俺を愛したりしないだなんて
俺のものにならないお前が憎い
俺のものにならないお前が愛しい
キスさえなにも意味しない
まだお前を味わえはしないらしい
お前の傷口は絶景だ
お前の憎しみは心地いい
そんなふうにお前を愛してる
今すぐ出て行け
どこにも行くな
もう一度 俺にキスをしてくれ
お前の開いた傷口の中を
お前が嫌いなもので満たしたい
お前の無限の憎しみの中で
俺は生きてるんだと感じられる
ライアンは唖然としていた。なんという歌をうたっているのだ。喧嘩を売っているのか。ナメているのか。ふざけているのか。ギャラリーたちが盛り上がる理由がわからない。年越しにまったく関係がない。大晦日に昏睡状態、なんてどう考えてもおかしい。なにを思ってその曲を選んだのだ。
前に出ながらマシューが言った。「俺、コレ嫌いじゃない」
「オレ、無理」と、ライアン。なにより歌詞が気に入らない。
エリカも二、三歩前に出た。モニターを指差す。「カウントダウン、はじまったよ。あと三十秒!」
黙れ異性人。
マシューはライアンに向けて左拳を突き出し、微笑んだ。
「来年こそは、お前に女運がありますよーに」
彼は笑った。「お前の女運がちょびっとばかり下がって、それがオレに回ってきますよーに」
彼らは笑いながら、拳と拳を合わせた。
「八!」
青春の終わりをライアンに告げるカウントダウンがはじまった。
「七!」
背中をつつかれ、彼は振り返った。
「六!」
彼はぽかんとした。
「五!」
身体が、引き寄せられる。
「四!」
また、顔が近づく。
「三!」
唇が、重なる。
「二!」
何度目だろう、と彼は考えた。
「一!」
レナが、ライアンにキスをした。
──年が、明けた。




