その5
いくら王妃であるリィル叔母様といえど異空間にある三階層から一階層に簡単に人を召喚することはできない。正式な召喚を行うには、召喚をする側とされる側の両国王の承認が必要になる。両方の承認が得られて異空間を繋ぐ扉が開かれる。なので、普通は有給休暇をとらせる為に召喚するなど許可されることはない。
今回、召喚が許されたのには理由がある。
空国第一王子の王妃を決める為に候補者を集めることになったのだ。
空国は、一階層の主国。主国とは、その階層毎に行われる世界議会の主催国。私のいた三階層は3年毎に主だった国により主催国が順番に変わるが、一階層は違う。一階層の主国は、空国と決められていた。
つまり、他に対抗馬のいないほどの大国。その空国第一王子の王妃には空国内や一階層の国々はもちろん、異なる階層の国からも縁談がいくつも舞い込むのは当然だろう。けれど第一王子は女嫌いらしく、縁談をすべて断ってしまうらしい。無理に縁談を推し進めようとした者の不正の証拠を掴んで左遷させたと聞いた。
叔母様はそれに便乗する形で、私を3階層の候補者として召喚したのだ。もちろん空国王と蓮国王の承認を得て。
ちなみに、第一王子は現在28歳。叔母の実子ではない。王子を産んだ後すぐに、先の王妃が亡くなりその数年後に空国王に見染められて後妻として嫁いだのだ。王子とはそこそこ良好な仲らしく、叔母が産んだ双子の第二王子と第一王女を弟妹として可愛がっているらしい。
今回の王妃候補は、王妃の条件として魔力が高いことがあげられた。第一王子の魔力がずば抜けて高いらしく、魔力が釣り合わない者同士が子供を授かることが難しいからだ。その為、縁談があった国々から厳選されて、国内から3名。2階層から2名。3階層から私ともう一人。4階層から2名。5階層から1名。合計10名が選ばれ空国に呼ばれた。迷惑な話だが、私も魔力が高いので問題なく候補入りしたという。
「若いお嫁さんと言っても、好みもあるでしょ?アリスだってレオナルドより4つも若いから、大丈夫よ。」
リィル叔母様が不服そうに言うが、冗談じゃない。
「確かに殿下よりは若いですが、王家に嫁ぐにしては、行き遅れです。それに空国に呼ばれた日に候補者の顔合わせ以来姿を見かけておりませんので勧められても困ります。」