その2
「お久しぶりです。お姉さま。」
ベルが鳴ったので、実験を中断して、通信機をとれば来客の知らせだった。
主をベルで呼び出すなど礼儀に反していると口うるさい者には云われるだろうが、基本的に実験室への人の出入りを制限している為、用がある場合はベルで呼び出すように義務付けている。
実験室に頻繁に出入りなどされては、風で粉が舞ったりして思わぬ事故に成りかねない。それでなくても新しい調合を試す際には、小規模の爆発など日常茶飯事だ。新しいものを作るためには多少の冒険も必要なものなのだ。
「久しぶり、サリィ。元気そうね。今日は、どうしたの?」
ひと月ぶりに会う妹は、相変わらず可愛らしい。結婚前は、その可愛らしさに心を奪われた求婚者が列を作ったのも頷ける。うん。私の妹は可愛い。
「用事がなければ、会いに来てはいけませんの?仕事が忙しいとお茶会や夜会には出てきてくださいませんし、研究も自宅のほうがはかどると新薬が完成した時や決算のときにしか登城もなかなかしてくれないと皆も嘆いていましたよ。」
サリィは可愛らしい顔を顰めながら、ため息をついた。
「やっと新薬の開発に時間が思う存分とれるんだ。それでなくても煩わしい所には、行きたくない。」
どうしても必要な時以外は、極力城には行きたくない。頻繁に登城しても面倒な人種に絡まれて疲れるだけだ。
新薬ができた時は登録が必要だから行く。決算の時も会議には出ないと予算が出ないから仕方なく出席しているのだ。
「仕事ばかりしていないで、たまには、外に出て下さい。今度の城で行う夜会には絶対来て下さいね。」
「たまには外にも出ているわ。」
一応、反論してみる。基本的に実験室に籠っているが出ないわけではない。
にっこり。
「仕事で使う薬草を買い付けに行くために、ですよね。」
サリィが笑みを浮かべながら言った。・・・・怖い。
「サ、サリィ。」
「3日後の夜会でお会いするのを楽しみにしております。お姉さま。・・・・もしまた、仕事だと、いらっしゃらなかったら・・・・。」
サリィは、さらに笑みを深めて穏やかに話す。
「わ、わかったわ。今回は出席するから。」
--------4日後の朝--------
ん~昨日はいい感じに混ざり合ったわ。手ごたえがあったものだから、つい、徹夜で調合を行ってしまったけど、もう少しで出来上がりそうね。でも、徹夜してしまったからまた、メリッサにまたお説教されるわね。はぁ。一応、主人なんだけどなぁ。そういえば、何か忘れてる気がするけど、なんだったかしら。
・・・・この時に思い出してフォローしておけば良かったと今更思っても後の祭りである。