その12
なぜかしばしの沈黙が続き、レオナルド王子に好きな馬を選んでいいと言われたので、馬舎を覗いてみると奥にいた漆黒の毛並みが美しい馬と目が合った。
見つめているとアリスの視線に気づいたように前に出てきて鼻先をアリスに寄せてきた。
「あっ!!姫様。そいつは・・・!!」
馬番の男が手を伸ばして触ろうとしたアリスに慌てて静止の声をかけるが途中で途切れてしまう。
「綺麗な子。この子がいいです。」
黒毛の馬を撫でながらそういうアリスを驚愕の目で見つめる。
「ん?この子はダメなの?どなたかの専属の馬なのかしら?」
「い、いえ!専属ではありません。ですが、気性が荒い為、あまりお勧めは致しません。」
「そうなの?とても良い子よ。専属でないならば気に入ったからこの子にするわ。」
馬番が王子に伺いの視線を向ける。
「・・・問題ないようだ。そいつでいいだろう。」
「かしこまりました。ご準備致します。」
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颯爽と白馬と黒馬の2頭が駆けていく。その後ろを数頭の馬が付かず離れずの距離を保ちながら追いかけていく。
「やっぱり。外は気持ちいいわね。黒耀、もう少し早く駆けるわよ。」
アリスは、巧みに馬を駆けさせながら久しぶりの遠乗りを満喫していた。
アリスが選んだ馬は黒耀という名で、軍馬の名産地アルザスから国王に献上された最高級の軍馬だった。
すでに王には専属の愛馬がいたため騎士団に下賜されたのだが、誰にも乗りこなせなかったのだ。名馬を多く輩出しているアルザス産の馬は生来気性の激しく主人と決めたものにしか懐かない。いくら名馬といえど乗り手がいなくては意味がない。血統は最高なので繁殖用にしたほうがよいのではとの声も上がっていたほどだ。それがアリスには自ら寄って行き触らせたのだから、馬番が驚いたのだった。
しばらく思いのままに黒耀を走らせたところで木陰が見えた。ちらりと隣を走るレオナルドに視線を向けると声をかけられる。
「あの木陰で休憩をとりましょう。」
「かしこまりました。」