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ホラー短編

ひねくれもの

作者: ROSE
掲載日:2026/06/15

 私がひねくれ者であることは周知の事実だろう。なにしろ私はレポートを書くときだって、感想を述べるときだって、他の誰とも違う回答を出す。そもそも考え方が違うのだ。いつだって嫌みったらしく、教授が好きという物は嫌い。媚を売ったりしない。芸術評価が高い物に魅力を感じず、アンチ流行派だ。

 そんな私が人間に、人間の男に恋をすることがあろうなどと誰が考え吐いただろう。いや、今現在その事実に気がついている者が果たして何人いるだろうか。とにかく私には理解できないことだらけの現状からなんとしても抜け出したいと願った。

 私が考察するに、彼は社交界の人間だ。彼はただ音楽のみを見ているようで、それでも人望はあるようだ。すれ違う度に声を掛ける女達。そう、彼の周りには女が多い。それは学校という空間に女が多いからなのかもしれないし、そもそも音楽に関わっている連中が女ばかりだからかもしれない。気がつけば彼の隣にはいつだって違う女が居る。

 とにかく私には理解できないが、彼は確かに社交界の人間なのだ。

 彼が視界に入る度に感じるなんとも言えない感覚。苦しいのだろうか、悲しいのだろうか。それとも、これこそが喜びというのだろうか。ただ私には理解できない。

「おはよう」のひとことさえ伝えることもできないあの人を見るたびに動けなくなるのだ。理解できない。ただ、私の知らない私の存在を感じる。

 あの女は誰?

 その人は誰?

 まるでストーカーのようだと自嘲しながらも止められない。いや、私は既に真のストーカーなのかもしれない。

 弟の友達に「陰キャラ」と称されてからまだそれほど時間は経っていない。自分でも根暗で引きこもりがちだとは思うことがあった。

 だから、いや、だからこそ、一瞬でもあの人の視界に入るために無理してヒールを履いたり、無理して読めもしない楽譜を持ち歩いたり弾けもしないピアノに向かってみたりしているのだ。

 音楽、そう、音楽さえなくなればきっと……。

 いや、音楽が、音楽があるからこそ……。

 二つの声が脳内を支配する。

 そして、あの人と目が合う。

 なにをしているんだろう。私。

 もうあの人は私を見てくれているじゃ無い。

 前々からずっと思っていた。世界はあの人と私だけが居ればいい。あの人には私だけが居ればいい。愛する私が居れば幸せでしょう?

 あの人が居る練習室を覗き込む。熱心にピアノなんて弾いてる。

 あの曲は一体誰の為のもの?

 ふと、目が合う。不快そうに私を見た。

 どうして?

 どうしてそんな視線を向けるの?

 ああ、そうだ。照れているのね。照れ隠し。ええ、わかるわ。だってあなた、本当はとってもシャイなんだもの。

 大丈夫。私はちゃんとわかっているから。

 どうしてかわからない。けれど彼は最近あの練習室にはいない。いつも他の人が居る。きっと優しいあの人は他の人に譲ってしまっているのだと思う。

 大丈夫、私はちゃんと探してあげるから。

 ずっとそばに居るわ。

 大丈夫。どこに居ても私、あなたのことだけははっきりわかるの。

 どんなに遠くても探してあげる。




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