EP 6
銃口剣『不知火』、火を噴く ~ゼロ・インパクト~
「グオォォォォッ!!」
召喚されたオーガ・キングの咆哮が、ビリビリと大気を震わせた。
身長五メートルの巨体が動くたびに、地面が悲鳴を上げて揺れる。その圧倒的な質量と暴力の気配に、村人たちは腰を抜かし、動けなくなっていた。
「や、やっちまえ! こいつらは全員、公爵の名を騙る逆賊だ! 皆殺しにしろぉ!」
錯乱したゴズハラが、泡を飛ばして叫ぶ。
その命令を受け、恐怖で動きが鈍っていた傭兵たちも、半ばヤケクソ気味に武器を構え直した。
「う、うおおおッ! 死ねぇぇ!」
数人の傭兵が、手近にいた村人たちに槍を突き出そうとする。
「――させるかよッ!!」
ドォォォン!!
爆発音と共に、真っ赤な炎の塊が傭兵たちの間に着弾した。
イグニスだ。
彼は灼熱のブレスで牽制しつつ、翼を広げて滑空し、村人たちの前に立ちはだかった。
「テメェらの相手は俺様だ! 今まで我慢してた分、たっぷり礼をさせてもらうぜ!」
イグニスが巨大な戦斧『クリムゾン・エッジ』を振り回す。
ただし、刃ではなく、峰の部分で。
「フンッ!」
ゴギィン!という鈍い音と共に、傭兵の鎧がひしゃげ、数人がまとめて吹き飛んだ。峰打ちとはいえ、竜人の怪力だ。当たればただでは済まない。
「こっちも忘れないでよね!」
キャルルも動いた。
彼女は【月光の加護】で強化された脚力で戦場を駆け抜け、老人や子供たちを安全な場所へと誘導しながら、襲いかかる傭兵を迎撃する。
「月影流・乱れ鐘打ち!」
目にも止まらぬ連続回し蹴り。特注の鉄靴が傭兵たちの武器を弾き飛ばし、顎を捉える。カンッ、カンッ、と小気味よい音が響き、男たちが白目を剥いて崩れ落ちていく。
「くそっ、なんだこの村は! どいつもこいつも強すぎる!」
傭兵たちが悲鳴を上げる。
だが、この場の最大の脅威は、彼らではなかった。
ズシン、ズシン。
オーガ・キングが、邪魔な傭兵たちを踏み潰しながら、真一に向かって進撃を開始した。
「グルルァァァッ!!」
巨獣が振り上げたのは、大木をそのまま引っこ抜いたような巨大な棍棒だ。
直撃すれば、家一軒が粉砕されるであろう破壊の一撃が、真一の頭上から振り下ろされる。
「――遅い」
真一は、動かなかった。
否。
棍棒が当たる寸前、紙一重で体をずらしたのだ。
ドゴォォォン!!
棍棒が地面を叩きつけ、土砂と石礫が爆散する。
だが、その土煙が晴れた時、そこには無傷の真一が立っていた。
「なっ!?」
ゴズハラが目を剥く。
真一は北辰一刀流の体捌き(たいさばき)で、暴力の奔流を柳のように受け流していた。その動きには一切の無駄がなく、達人だけが持つ静謐な空気が漂っている。
「デカい図体だ。的としては悪くないが……隙だらけだな」
真一は、銃口剣『不知火』を逆手に持ち替えた。
カチリ、とリボルバーのシリンダーが回転する音が響く。
装填された魔力カートリッジは六発。
そのうち三発の魔力が、刀身と銃口に供給される。
「グオォッ!?」
オーガ・キングが、目の前の小さな獲物から放たれる異常な魔力に気づき、後ずさった。
本能が恐怖を訴えたのだ。
だが、もう遅い。
「――フンッ!」
真一が踏み込んだ。
達人の歩法は、一瞬で巨獣の懐へと彼を運ぶ。
「ガアァッ!」
オーガ・キングが慌てて真一を掴もうと腕を伸ばす。
その腕を潜り抜け、真一は巨獣の強靭な腹筋に、深く踏み込んだ体勢から『不知火』の切っ先を突き立てた。
「冥土の土産に教えてやる。……それが、ただの暴力だ」
真一の背中の『仁王』が、カッと赤く発光した。
「そしてこれが――『武』だ」
真一は、柄にあるトリガーを引き絞った。
「――『ゼロ・インパクト(零距離炸裂突き)』!!」
ズドォォォォォンッ!!
腹に突き刺さった剣の銃口から、357マグナム弾三発分の圧縮魔力が、一気に解放された。
それは外部からの衝撃ではない。
鋼鉄のような皮膚と筋肉を貫通し、体内で炸裂する破壊のエネルギーだ。
「ゴ、ブゥッ……!?」
オーガ・キングの動きが止まった。
その巨体がビクンと痙攣し、目玉が飛び出しそうになる。
次の瞬間。
体内で行き場を失った衝撃波が、巨獣の背中から突き抜けた。
バギョォォォン!!
背骨が砕け、肉が弾け飛ぶ。
S級魔獣オーガ・キングは、断末魔の叫びすら上げることなく、内側から破裂して崩れ落ちた。
血と肉片の雨が、広場に降り注ぐ。
後には、血濡れた銃口剣を静かに振るい、血糊を払う真一の姿だけが残った。
「…………」
静寂。
誰もが言葉を失っていた。
イグニスもキャルルも、戦いの手を止めてその光景に見入っていた。
一個師団に匹敵すると言われたS級魔獣が、たった一撃で。
それも、魔法の光や派手な斬撃ではなく、一瞬の踏み込みと、体内で炸裂する鈍い音だけで葬り去られたのだ。
その圧倒的な「理不尽」なまでの強さ。
それが、帝国最強の男、『鬼の軍神』の真実だった。
「ひ、ひぃ……あ、あぁ……」
ゴズハラは腰が抜けて立ち上がれず、失禁したまま後ずさっていた。
目の前に立つ男が、本物の公爵であることを、もはや疑う余地はなかった。
真一はゆっくりとゴズハラの方へ向き直る。
返り血を浴びたその顔は無表情だが、背中の仁王だけが、燃えるような怒りの色を宿して彼を見下ろしていた。
「さて。……害虫駆除は終わったな」
真一が、カツン、と一歩踏み出す。
「次は、断罪の時間だ」




