発端
「ねえ〜。シオンさん、もうよしましょうよ〜。まだあなたには無理なんですよ。」
「うるさい。もう一度だ。」
「仕方ないですね〜。じゃあ行きますよ〜。せーの、3、2…フレアアップ!」
「インフェルノキング…」
シオンと呼ばれた少女の持つ武器が右の斧から炎、左の球体から氷を吹き出した。炎と氷はゴウゴウと音を立てて渦を巻いたかと思うとその場で爆発が起こり、少女を吹き飛ばした。
「くっ!」
シオンは咄嗟に防御魔法を発動したが、それでも衝撃は生半可なものではなかった。
「あーあー…。ほーらね。大丈夫ですか?」
「うるさい。仕事に行くぞ。」
「はいはい。」
シオンはまだ12才という若輩の身でありながらもこの国一番のドラゴンハンターだ。
この国、最古の皇国であるインペリアルエルダープレイヴェニアの長い歴史は、人とドラゴンとの諍いの歴史とも言える。そのため国には国属のドラゴンハンターがいて、シオンの父もそのうちの1人だった。
シオンの父は北東の小さな村・グレイ村に住んでいた。
グレイ村は魔金工学と呼ばれる独自の理論を持つ、魔力と金属を掛け合わせた魔道具生成技術が発達していて、魔道具製造で村の経済は成り立っていた。魔金工学で作られた魔道具の最大の特徴は、超一級品だが使う人を自ら選び、認めた人間しか持つことができないところで当然使える人は少ない。
しかし、シオンの父であり、突然この村に現れた、この国の文字では書くことはできない名を持つ男・ユウは、一瞬でグレイ村の魔道具達を意のままに使いこなした。
彼の妻、即ちシオンの母親も魔道具職人であった。シオンの母の作る魔道具は、他の誰の作った魔道具にも出すことができない技を出せると言われていたが、気難しいことでも知られており、なかなか所有できる者がなかった。
それが魔道具・デスクラッシュである。
そのデスクラッシュが認め、またシオンの母が見染めたのがユウだった。
その後、ユウはデスクラッシュと共に数多のドラゴンを駆逐し、遂には国属のドラゴンハンターの中でも最強となった。
しかし、それほどの男であってもドラゴンの王であるレフコストネールドラゴンには深手を負わせるのが精一杯で、死に至らしめることは叶わなかった。
それでも、建国以来、インペリアルエルダーブレイヴェニアの平穏を脅かし続けているレフコストネールドラゴンは、それまで一度たりとも剣の先一つ触れられたことがなかったので、怒り狂い、憤怒の炎でグレイ村ごと焼き尽くした。その炎はシオンの両親だけじゃなく、村人全てをこの世から消し去った。
シオン一人を除いて。
シオンは、たまたまその時、魔道具を隣村のドラゴンハンターに送り届けるために一人村を離れていたのだった。
半日かかる道のりをやっとの思いで村へと帰り着いたシオンは、己が天涯孤独となったことを理解し、呆然とした。
「シオンさん。」
滂沱の涙に暮れるシオンに呼びかけたのは、父の残した武器・デスクラッシュであった。
「いやぁ、あなたの父は厄介なやつを怒らせちゃいましたよね。おかげでとんでもないことになってしまった。残ったのは私だけです。で?あなたはこれからどうします?」
「そんなこと、決まってる。」
「レフコストネールドラゴンに復讐する。お前は私に手を貸せ。」
シオンは、父の形見となるデスクラッシュを手に、父の後を引き継ぐべく、国属のドラゴンハンター師団の門を叩いたのだった。
それから5年の月日が流れ、国属のドラゴンハンターとして最強となり、師団を任されるようになったが、未だ、レフコストネールドラゴンを唯一倒せるという技、インフェルノキングバーンZの会得には届いていない。
「仕方ないですよ。あなたのお父上でも会得できなかったものですから、落ち込むことないですよ。」
「お前、暗に私が父より劣ると言ってないか?」
「そう聞こえるのはあなたがそう思ってるからでしょ?」
「ふん!」
ああ言えばこう言う、何が気難しいだ、ただ単に性格が悪いだけじゃないかとシオンは思った。
「今日は皇帝との謁見だからな。お前、その態度少し抑えろよ。」
「大人ですから弁えてますよ。」
シオンとデスクラッシュは王都・クエルダーガリオンの巨大な門を潜り城へ向かった。




