おまけ5 眠れない夜は
些細なことに嫉妬するダリウスと、ただイチャイチャする二人を書きたかっただけの話
◇◇◇
月が煌々と光る夜、静まり返った寝室で、ダリウスは頬杖をついてベッドに横たわり、窓の外をぼんやりと見つめていた。
特務騎士団時代は、戦地で魔獣に急襲される恐れがあるため、ぐっすりと眠ることも少なかったのだ。その習慣が身についてしまったせいか、いまだに眠りは浅い方だった。
一人で眠っていた以前は、目が覚めてから過去を思い出し、苦悩する夜を送っていたのだが、いまは違う。
ダリウスは隣で眠る妻に目を向けると、ふと口元を緩めた。
気持ちよさそうに眠る彼女の寝顔を見ていれば、穏やかな気持ちになれる。こんな自分に、そんな人生が訪れようとは思ってもみないことだった。
リリスにそっと手を伸ばして、顔にかかった髪をのけてやったあと、まだ、しばらく眠れそうにないダリウスは、水を飲もうとベッドから起きあがろうとしたのだが──。
「ん……」
そう声を漏らしたリリスの目が、ゆっくりと開いた。どうやら起こしてしまったようだ。「ダリウス?」と、寝ぼけた様子の瞳と目が合った。
「悪い、起こしたか」
ダリウスの問いかけに、リリスは「いいえ」と返すと、同じようにベッドから起き上がる。大きなあくびを一つして、両手を上に伸ばす。ふと見れば、ダリウスが水を飲もうとしていたのが分かり、リリスは「私ももらっても?」と尋ねた。
ダリウスはグラスに水を注いでやり、それをリリスに手渡した。目が冴えてしまったのか、もうリリスに寝ぼけた様子はなく、「ありがとうございます」といつもの笑みが返ってくる。
ベッドへと戻ってきたダリウスは、リリスにしっかりと布団を掛け直してやる。
「まだ起きるには早い。ゆっくり寝てていいぞ」
そう言ったダリウス本人は、まだ寝るつもりがないのか、枕を背に腰掛けたままである。リリスは、くいとダリウスの服の裾を引っ張ると「眠れませんか?」と、そう尋ねた。
「……クセみたいなもんだから気にするな」
返された言葉に、リリスも体を起こしてダリウスを見つめる。
「眠れないのなら、私がお手伝いしてあげましょうか」
思いかげない提案に首を傾げたダリウスだったが、それから「こもり歌でも歌ってくれるのか」と、おかしそうに笑う。
「それで、あなたが眠れるのなら喜んで」
クスクスと笑ってそういったリリスに、「ガキじゃねぇんだぞ」と返すダリウス。
「そういえば、さっきクロードと、ルーナがどちらがお酒に強いかという対決をしている夢を見ました」
「なんだ、それは」
「現実の二人は、そんなにお酒に強いわけでもないのにね」
「どちらかというと弱い方だろ。この間も、酒に酔って泣き上戸になってたぞ」
「夢の中のクロードも泣いてましたよ。そしたら、いつの間にか子どもみたいな姿になってしまって。抱きしめてあげたら、ようやく泣きやんでくれました」
リリスの言葉に、ダリウスは「ほお」とつまらなさそうな返事を返す。
「泣き止ませるためにクロードを、抱きしめてやったと」
「ゆ、夢の中の話ですからね?」
リリスがまずかったかしら、と思ったときにはすでに時遅し。なにやら不穏な空気を感じて、「さ、さあ、もう寝ましょうか」と笑いかけたのだが──。
「そういえば、さっき俺が眠れるように手伝ってくれると言ったな」
「い、言いましたけど……」
不敵な笑みを浮かべ、何やら楽しそうな様子のダリウスに、思わず後ずさるリリス。
「何逃げてんだ」
「い、いえ、別に」
なんだか本能的に危険を感じて、などとは言えなかった。すると、次の瞬間。
「きゃあ!」
グッと手を引かれたかと思うと、視界がぐるりと反転。気づけば、目の前には天井を背にこちらを見下ろすダリウスの姿があり、リリスは自分が押し倒されているのだと理解した。
「案外、俺は心が狭い男らしい」
「あ、あの……っ」
逃さないと言わんばかりの目に、ドキリと音を立てる胸。この距離で見るダリウスの目は心臓に悪い。真っ直ぐに向けられる目に、いまだに慣れなくて、リリスは頬を染め視線をふいと逸らした。
「リリス」
だが、すぐにダリウスの手によって正面を向かされて、ニヤリと笑う意地悪そうな顔と対面した。
「よく眠れる、とっておきの方法を知ってるんだが」
「そ、それは、どのような──」
「方法ですか」と続けようとしたリリスの言葉は、ダリウスの唇によって封じられた。
「んん……っ」
噛み付くような、呼吸すら奪われそうなキス。
リリスが苦しそうにしていると、リリスの両手をダリウスがギュッと握りしめる。固く結ばれた二人の両手。ダリウスが、そっと離れると、涙目になり呼吸を乱れさせながら、頬を赤らめるリリスが自分を見つめていた。
「試してみるか」
と、意地悪く笑うダリウス。リリスは「もう」と言いながらも、ダリウスの首にそっと手を回して笑みを返した。




