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「せっかくのパーティですから、お姉様にも楽しんでいただきたいのですけれど……何かご心配ごとでも?」


わざとらしく心配そうな表情を浮かべるエリーゼ。本心ではないだろうと思いつつも、リリスは「ありがとう。少し疲れただけだから大丈夫よ」と微笑んでみせた。すると。


「確かに、結婚されてからお姉様少しおやつれになったんじゃない?風の噂でお聞きしましたけど、なんでも掃除や洗濯など召使いがするような仕事も、お姉様がやっているのだとか」


吊り上がる口元を隠しながら、大げさなリアクションでそう言ったエリーゼに、周りのご婦人たちも「まあ」「そんなことを」と驚いている。リリスはとっさに「それは私が」と口を開こうとしたが、「あら!」と大きな声をあげたエリーゼに阻まれる。


「お姉様、手にたくさん傷ができているじゃないですか!」


勢いよく近寄ってきたエリーゼは、リリスの手を取ってそう叫んだ。薄手のグローブをしているから分からないだろうと思っていたが、めざとい義妹がリリスを貶める理由を見逃さないわけなかった。


傷は、料理特訓をしているときについたしまったものだった。まるで周りの人間に見えるように見せびらかすものだから、リリスはいたたまれなくなり、そっとエリーゼから手を離す。


「これくらいの傷なんともないわよ」


虚勢を張って笑ってみせたが、せっかく作った料理も結局ダリウスに喜んでもらえなかったことを思い出すと、気分は沈む。そんな元気のなさそうな姉の様子が、エリーゼにはたまらなく愉快だったのだろう。花のような笑みを浮かべながら、再びリリスの両手を、自身の透き通るような白い手で包み込んだ。


「でも、お姉様は昔から綺麗な手だって、いろんな男性から褒められてたじゃないですか。それを思うと、私……っ」


「結婚生活って大変ですのね」と継いだエリーゼに、リリスは手のひらをギュッと握りしめて俯いた。大袈裟なその物言いが、本心で心配しているのではないと言っているようなものだ。


「まあ、お可哀想に」

「ご苦労なさっていますのね」


嘲るような周囲の視線が、四方八方から突き刺さる。いつもならば気丈に、妹の戯言など笑って流すことができていた。けれど、いまはどうしてか、とても惨めな気分だった。


「夫のダリウス様はいらっしゃらないのでしょう?せっかくだから、今日は羽を広げてほかの殿方とダンスを楽しんでらっしゃったら?たとえば、トマリア国のベリック王子とか──」


エリーゼがそう言うと、周りの貴婦人たちがさっと道を開け、ベリックが現れる。趣味の悪い色をしたタキシードに身を包んだベリックは「久しぶりだな、リリス」と、にたりと笑った。


「ベリック様……」

「パートナーがいないなら、俺が相手をしてやろう」


上から目線の偉そうな態度は健在である。エリーゼは口元を隠しながら鼻で笑うと、今度は天使のような笑顔を浮かべて周囲を見渡した。


「さあ、皆さま。今から音楽が始まりますので、どうぞダンスをお楽しみください!」


エリーゼの合図で演奏家たちが音楽を奏で始める。一方、ベリックは「さあ、リリス。こっちへ来い」とリリスに手を伸ばしていた。こちらへ迫ってくるベリックに、リリスは一歩後ずさる。


「いえ、私は──」


そう言って、ダンスの申し出を断ろうとしたとき。


「遅くなって申し訳ございません」


会場の入り口から伸びている階段の上から、凛と響く低い声が聞こえてきた。

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