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6

ここブルタージュ国の人々は、長きに渡り魔獣の存在に生活を脅かされて生きてきた。


かつては、国の北にある「嘆きの森」にしか現れないとされていた魔獣たちだったが、大魔獣ガルガドスが出現するようになってからは、国の内部にまでその被害が及ぶように。そこで編成されたのが、魔獣退治に特化した特務騎士団である。


出自は問わず、入団条件は強さのみ。報酬も高く、入団試験をクリアした選ばれし者だけが入れる騎士団とあって、身分の低い平民たちも騎士団での活躍を夢見て、こぞって試験を受けたという。


何十年もの間、特務騎士団と魔獣たちとの戦いは続いき、その間、命を落とした兵士や一般市民の数は膨大な数に及んだ。


だが、ダリウスをはじめとする戦闘能力に長けた精鋭たちの登場と、特殊武器開発によって戦況は前進。そして、長い長いときを経て、ついに大魔獣ガルガドスを倒すに至り、国に平和が訪れた。それが、現在のこの国の有り様だ。


「……お母様、私、結婚することになりました」


夜も更け、誰もいなくなった部屋の中にリリスの声が静かに響いた。窓の外には、煌々と光る丸い月。ライティングデスクの上にある写真立てに手を伸ばすと、リリスの長い髪がさらりと流れた。


写真立てには、自分とよく似た姿で微笑む母の姿がある。その隣には、幼いリリスが写っていた。亡くなった母の、数少ない形見だ。


「……お母様にも、花嫁姿を見てもらいたかったな」


ぽつり呟いた言葉は、思った以上に小さく聞こえた。月が綺麗なこんな夜は、ひどく感情的になってしまう。


第一王妃である母が亡くなって以降、リリスの生活はがらりと変わってしまった。気づけば第二王妃のオフィーリアが力をもち、この城内で「国王の妻」という立場を利用し、権力を振りかざしている。


今ではすっかりオフィーリアに夢中になってしまったフランシスには、忠臣たちの助言も耳に届かなかった。


もともと一緒に遊んだ記憶など一切なく、父親らしいことをしてもらったことも皆無だ。だから、リリスには母との思い出しか残っていない。


リリスは写真立てをテーブルに戻すと、今度はその隣に置いていたネックレスを手に取った。ネックレスのトップには、細かな装飾が施された金色の鍵がついている。


「特務騎士団、か……」


鍵をじっと眺めたあと、リリスはバタンとベッドに倒れた。


よく知りもしない人との結婚。


王妃がいうように、王族の人間は代々家の繁栄のため、政略結婚を結んできた。王女である自分もまた、その責務を果たさなければならないことは逃れようにない事実だ。けれど、と思う。


「ダリウス様は、どんな方なのかしら……」


リリスはそればかりが気になったが、結局、結婚式の当日まで、夫となるダリウスが城へ来ることはなかった。

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