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◇◇◇


一方、部屋に残ったリリスは、戸が閉まるのを確認すると、ベッドの脇にある丸椅子にそっと腰かけて、マチルダの顔を覗き込んだ。薄暗い部屋に窓から光が差し込み、リリスの横顔を照らす。


「……マチルダさん、少し私とお話をしましょうか」


マチルダがゆっくりとリリスの方へ顔を動かし、小さく頷いた。


「喋るのが辛くなったら、やめます。体に無理のない範囲で構いませんから……マチルダさんの恋人について、少し聞かせてもらってもいいですか?」


「恋人」という言葉に、マチルダがぴくりと体が反応を見せた気がした。リリスは、マチルダが話し出すまで待つことにして、横たわる彼女の顔をじっと見つめた。


「ニコルを……しって、いるの……?」


掠れた声だが、リリスの耳にははっきりとマチルダの言葉が届いた。これは、話をすることを許可してくれたのだろうと思い、リリスは会話を続ける。


「いいえ。お会いしたことはありませんが、特務騎士団の優秀な団員だったことは存じています」


静かなリリスの言葉に、マチルダの顔が次第に歪んでいく。彼のことを思い出したのだろうか。瞳は潤み、いまにも涙がこぼれ落ちそうだった。


「約束、してたの……。この、戦いが、おわったら……結婚、しよう、って。なのに、あの人、は……かえって、こなかった……。あれが、最後だなんておもってなかったから、わたし、ひどいこといって……けんかしたまま、あえなくなった……っ」


一言一言、噛み締めるように話すマチルダの手を、リリスはぎゅっと握りしめた。かさついていて小さく、頼りない手だった。


「あれが、最後だとわかってたら……っ。わたしは、もっと、ほかの言葉を伝えていた……のに……っ」


強い後悔を感じて、リリスも顔を歪めた。


「……マチルダさんは、ニコルさんのことが、とても大切だったのですね」


ぽつりと呟いたリリスのやさしげな声に、マチルダの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちた。


「大切だった、わ……。自分、の、いのちよりも……何よりも、だいじだった……っ。ふとしたときに、思い出して、また、あいたいって、なんども、思うの」


亡くした人を恋しく思うマチルダの気持ちが、痛いほど伝わってくる。会いたいのに、会えない。それがどれほど辛いことか、母を亡くしたリリスも知っていた。


「きっと、ニコルさんも同じだったと思います。……マチルダさんが、ニコルさんのことを自分の命よりも大事だったように、彼もきっと同じだったと思いますよ」


小さなその手を握りしめて、リリスはマチルダにそっと笑いかけた。


「……マチルダさん。ニコルさんが守りたいと思った、あなたの命を、これからずっと大切にしていきましょう? 天国からあなたを見守ってくれているニコルさんに、元気ですよと、伝えるために」


リリスの言葉に、マチルダは眉を下げた。なかなか答えは返ってこなかったが、リリスは返事をせかしたりせず、彼女をじっと見守っている。目を閉じたあと、マチルダは小さな声で「あの人は、みているかしら」と呟いた。


「ええ、きっと」


リリスがそう返せば、マチルダはゆっくりと目を開けた。


「あなたがいつでも幸せであるようにと……、きっと見守っていてくれていますよ」


やさしく微笑むリリスを見つめながら、マチルダは何度も頷いた。頬には大粒の涙がとめどなく流れ、ベッドに染みをつくっていく。そんな彼女を包み込むように、リリスは小さくなった体を、そっと丁寧に抱きしめた。

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