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「クロード、ちょっとお話いいかしら?」
木々がそよそよと風に揺れ、心地のよいある日のこと、外出の予定がなく、今日は一日執務室にこもって書類仕事をしようと思っていたクロードのもとに、主の妻であるリリスがやってきた。
「リ、リリス様……」
にこやかな笑みを浮かべているものの、その笑顔には拒否権など認めないと言わんばかりの圧があった。遠目で見ていると、ふわりとした花のような可憐なお姫様に見えたのだが、意外と気が強いところがあるな、とクロードは思う。
「私、と、話したいことがあるのですか」
「ええ」
何について聞かれるかは、だいたい予想がついている。副官である自分のところへ来たということは、ダリウスには直接聞きにくいことを尋ねたいのだろう。
「ノエから聞いたけれど、今日は1日ここで書類仕事をするのでしょう?その時間を、少しだけ私にくれないかしら」
にこりと美しく微笑むリリスに、クロードは「もちろんです」以外の返答を持ち合わせていなかった。「では、こちらへ」と、自室へと案内すると、重厚な扉はバタリと音を立てて閉まった。




